第五十七話 おいしい串のお店に行きましょう!
「前から思っていたんだけど、あかりが怖いの?」
「怖いね。ありゃあ、人間の皮をかぶった鬼だ、悪魔だ、最悪だ」
そこまで言うか。
あかりったら、この男に何をしたの・・・
「透子さん。あかりさんの荷物がもう部屋にあるそうです。これカードキーです。外出する時にフロントに預ける必要はないですが、無くさないように気をつけて」
「あ。徹さん」
どうやらすでに受付を済ませたらしい、徹さんは私たちにカードキーを手渡す。
「君はこっち」
渡瀬はしばらくそのカードを見て、ハッとしたように顔を上げた。
「・・・・まさか、あんたと同じ部屋じゃないだろうな?」
睨みながら徹さんに言えば、彼はにこりと笑う。
「あかりさんに言って下さい。料金も彼女が払ったそうです」
「マジかよ! あの女!」
頭を抱え込んでうずくまる姿は格好悪い。
「夜中に襲わないで下さいね」
「誰がてめぇなんか襲うか!」
仲いいなぁ。
「荷物を置いたら食事に行きませんか? 近くに、安くて美味しいと評判の串屋を教えてもらいました」
ほほぅ。
「部屋は十一階です」
ホテル客専用のエレベータに乗って部屋まで行くと、そこはツインルームだった。
徹さんと渡瀬の部屋は隣。
入って手前のベッドの上にあかりの脱ぎ散らかした服。かなり急いで着替えたのか、荷物もそのままだった。
何をそんなに急いでいたのかしら?
いつも不適に笑って、慌てる姿なんてほとんど見たことがなかった。不思議に思いながら荷物をクローゼットに片付けて部屋を出た。
「お待たせしました」
二人はすでに廊下で待っていた。
「キー、忘れんなよ」
渡瀬がこういえば、
「大丈夫。お財布の中に入れたから」
「寒くないですか?」
徹さんが心配する。
「平気。ショールがあるし」
あんたたち、私の保護者か?
そんなことを思いながらホテルを出た。
「おかわり!」
渡瀬が元気に言えば、外人の女の子が一生懸命日本語を使いながらジョッキを運ぶ。
「ドウゾ」
「ありがとう」
渡瀬が機嫌よく礼を言えば、女の子が嬉しそうに笑った。
・・・顔は良いのよね、この男。
「で、あんたはあかりになんて言われてきたんだ?」
「君と似たようなものですよ。もう少し激しい内容でしたが」
激しい内容ってどんな?
「でも、二人とも来てくれたんだ?」
優しいねえ。と人事のように言えば、二人そろって微妙な顔をする。
「安心しろ。間違ってもお前のためじゃない」
「彼女に逆らうと、大切なコレクションが・・・」
うん。わかっているわよ。
「なんで二人はあかりが怖いの?」
うずらの串を食べながら問えば、まわりの気温が二度ほど下がった。
ごめん、聞かなきゃよかったね。
「むしろ、どうして透子さんは彼女の友達やってるんですか?」
不思議そうに聞くのは徹さん。
麦焼酎を飲みながら、ずり(砂肝)の串を食べている彼を、時々店員や他の客が興味深そうに見ている。
「そんなに不思議かなぁ?」
二人はそろって頷いた。
「お。これうまい」
「それなに?」
「紅ショウガ」
紅ショウガを串にするって発想がすごいなぁ。しかも千切りされた紅ショウガだ。どうやって揚げたんだろう?
「次頼もうかなぁ」
「もう一本あるぞ、食ってみろよ」
そういいながら、徹さんが頼んだ紅ショウガの串を勝手に私に差し出す渡瀬。
徹さんもちらりと見るだけで何も言わないので遠慮なくいただく。
熱々でおいしい!
「これは、はまるね」
言ったとたん、食べかけの串を徹さんに奪われる。
「おい、なんであんたが食べてんだ」
「ふふふん。もともと僕のですからね」
まあ、そりゃそうだ。




