第五十五話 話を聞かないってよく言われるけど
大阪駅から徒歩五分の梅田駅へ向かい、地下鉄を使い、途中一回乗り換えて大阪港駅へ。 駅から少し歩けば海遊館がある。
というか私は知らない間に西梅田の方まで歩いていたらしい。同じ敷地の中にたくさんの駅が入っている大阪駅は、よそ者にとって分かりにくいことこの上ない。
なんだか変わった形の建物はかなり大きく、近くには観覧車や大きな船が泊まっていた。青と赤で彩られた派手な船。
「透子さん、こっちですよ」
「あの船はなに?」
「観光船。ええと、たしかサンタマリアですよ。実際運行していたと思いますが・・・」
動くのか!
「乗りたいですか?」
「ううん、ただ派手だなぁと思って」
くすっと笑う徹さんは、並みの女より綺麗だと思う。
「船は珍しいですか?」
「うん、実は一回しか乗ったことがないの」
幼い頃家族旅行で乗ったきりだ。
「じゃあ今度一緒に乗りましょう。きっと楽しいですよ。大きな船なら船酔いもないでしょうし」
「寒くない時期なら、いいですよ」
昔乗った時は、真冬だったのでとても寒かったのを覚えている。
「わかりました」
エントランスビルに入ると長いエスカレータを上る。ガラス越しに見える外には、先程のサンタマリアが見えた。
三階で二人分の料金を支払って奥に進むと、長いエスカレータが表れる。地上八階ぐらいの高さになるとそれは終わった。
「徹さん、私自分の分ぐらい自分で払います。さっきもご馳走になったし」
「はいはい、行きますよ」
私も人の話を聞かないってよく言われるけど、この人もそうだと思う。
人口。岩と緑の木々のゾーンには小さな滝があった。白とピンクの可愛い花が咲いていて、岩の奥からカワウソが顔をのぞかせていた。
「可愛い! 徹さん、目がくりくりしてますよ!」
「もっと可愛い生き物がいますよ。この先は暗くなっていきますから、気をつけてくださいね」
手をつないだままなので、気をつけるもなにもないけれど。
「はぁい」
進めば、ラッコ、海がめ、カピバラ、ペンギン等たくさんの可愛らしい生き物たち。
ちょうどペンギンの餌やりの時間だったらしく、そこでしばらく楽しんでから、更に奥に進む。
このころになると、床はゆるい坂道になり水槽の先にも人が見えた。
「ずっと続いているんですよ。太平洋という名前の水槽なんです」
「すごい、綺麗です! あれはマンタ?」
「イトマキエイですよ」
ふぅん。頷きながら、ふっと顔を上げればピンクの魚の群れ。
とても綺麗なそれは、光に反射してキラキラと輝いていた。
そしてその後を追う巨大な魚。
「サメですか?」
「世界一大きな魚といわれる、ジンベイザメですよ」
口を開けたまま泳いでいるサメは、ゆうに車三台分くらいありそうだ。
「あの魚たちを狙っているの?」
「ジンベイザメが食べるのはもっと小さな魚ですよ。二、三センチくらいのね」
そうなんだ。あんなに大きな体なのに、それでもつのかな?
「まあ、時々は間違ってペンギンや小型のサメ、マグロなんかを飲み込むことがあるようですが・・・」
間違えて飲み込めるものなの?
徹さんがその場で、携帯電話でジンベイザメの写真を撮って見せてくれた。
「わぁ!」
右にジンベイザメ。左にはピンクの魚の群れが写っていて、上からは光が差し込んでいるそれはとても神秘的。
「上手ですね」
「毎日金魚鉢の写真を撮るのに、慣れただけですよ」
・・・聞くんじゃなかった。そんな写真どうするの、まさか待ち受け画面じゃないでしょうね?
「後で送りますね」
「うん」
ちらっと見た待ち受け画面は、白かった。
ちょっと意外。
「それは?」
「金魚鉢を底から撮影したらこんな感じになりました」
金魚鉢の底から写真ってどうなの。
「・・・ああ、うん、えっと、白く見えるのは光なんだ」
「ええ、凄いでしょう」
いや、胸を張られても・・・
「確かに凄いわ」
あなたの思考が。
「ふふふん」




