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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
51/73

第四十九話 あれ、イケメンどこ行った?

「透子さん」

「はい?」

「・・・透子さんはどなたかに差し上げるんですか?」

「うーん。実は今、うちのデパートでヴァレンタインフェアをやっているんですけど、フロア中甘い匂いでいっぱいで・・・もう匂いだけでお腹いっぱいというか・・・どうしようかなぁ。上司には毎年全員でお金を出し合って義理チョコを用意するんですけど、今年はあかりが食べたいっていうだろうし・・・あ、そうだ徹さん」

「はい?」

「よかったら今度、ここ、行きませんか?」

 私はカバンの中から一枚のチラシを出した。もう何回も同僚やあかりと眺めたチラシだ。

「これは?」

「うちのデパートから少し距離があるんですけど、ここも毎年盛大にやってるんです」

 イートインコーナーが異様に広いそこを見せると、徹さんは興味津々という顔で覗き込んだ。

「こういうところ、行ったことがないんです。デパートで北海道とか京都の催しものをしますよね。そういう時は弟が好きなので代わりに色々買って来たりしてくれて、僕は全然・・・少し興味があります」

「ここね、このコーナーじゃないと食べれない限定のやつがあって、でもあかりとは日程が合わなかったんです。休日はいつも混んでいて四時間待ちもざらだし、私平日なら休みがとりやすいんですけど・・・」

 一人で行くのはつまらないと言えば、徹さんがにっこり笑って頷いた。

「弟に何かお土産でも買っていこうかな。あの子は甘いものが好きだから」

「おい金魚、あんた女の戦場舐めてんのか?」

 不吉な発言が聞こえた。

 ちょっと、現実を直視させるような発言はよしてください!

「戦場? ヴァレンタイフェアが、ですか?」

 きっと徹さんは今まで一度でもヴァレンタインを意識したことはないのだろう。毎年この時期は女の戦いだ。

 甘くておいしいチョコレートのために、一年間お金をためている女性は少なくない。

 一年に一度の楽しみ。絶対手に入れたい限定チョコレート! そう、自分用に!

 女性たちはその為ならば何時間でも並ぶし、普段節約をしてでもお金を貯める。

「物産展なんて目じゃないぞ」

「そんなこと言うなら、渡瀬にはチョコあげない」

「いらんわ!」

 本当に嫌そうに怒鳴らないで欲しい。

「じゃあ、私にチョコプリンを作らせてあげない」

「・・・ちょっと冷静に考えろよ? なんで俺がお前に“つくらせてもらって”るんだ?」

 それはおかんがおかんゆえにですよ!

 あ、笑顔が怖い・・・

「チョコレートプリンよりは抹茶プリンでお願いします」

「だから、なんで俺がつくらせてもらう側!? つくってやってるんだろ!? 俺への感謝はどこにいったんだよ!」

 なんだかんだ言いつつ毎回作る渡瀬はいい加減おかんとしての自覚を持つべきだと思う。

「ありがとう、しーとんの料理好きよ」

「感謝していますよ。渡瀬君には特大のチョコレートケーキを買ってきますね」

 素直に感謝した私と違って、徹さんが火に油を注ぐ発言を笑顔でかました。

 ちょっとやめてよ、私にまで飛び火するじゃない。そう思って身構えたけれど、驚いたことに渡瀬は口を開けたまま耳まで赤くなって・・・ちょっと気持ち悪い。

「あれ、イケメンどこ行った?」

「照れてるんですか。可愛いですね」

 眉をひそめて言う台詞じゃないですよ徹さん。どうして不機嫌なんですか。

「それよりご飯はまだですか」

「あんたも手伝えよ!」

「いやですよ。金魚鉢が汚れるじゃないですか」

「はあ!?」

 あ、良かった。いつも通りの二人だ。

 数日後、私と徹さんは本当にヴァレンタインフェアに行くことになった。




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