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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
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第四十八話 モテて当然だ。だか嬉しくない!

「散々な正月だったな。今年はきっと一年騒がしいに決まってるんだ」

 あかりの事件が落ち着いて、ヴァレンタインの時期が近付いてきた頃。

 渡瀬が突然やってきてテーブルに突っ伏した。あんた、人の家って自覚あるの?

「まだ一月も終わってないのに、なんでそんなこと言うの? 今日のごはん何?」

「馬鹿か! もう一月が終わってしまうんだぞ!?」

 私は何か怒っているような焦っているような、様子のおかしい渡瀬をいぶかしんだ。

「・・・あと一週間あるけど?」

「もう一週間しかないんだ!」

「一月の間に行きたいところでもあったの?」

「俺は旅に出たい! 四月まで戻ってきたくないんだ!」

 ・・・・は?

「彼は毎年ヴァレンタインの時期は署内の女性陣に囲まれるので怖がっているんですよ」

 あ。徹さん来た。いつでもセットだなこの二人。

「えーと、だから?」

「だから? お前ね、腹を空かせた肉食獣の檻の中にか弱い俺がいるんだぞ? 心配ぐらいしたらどうだ!」

 ごめん、意味がわからないよ渡瀬。誰がか弱いって?

「そういえば渡瀬ってモテるんだっけ? あれ本当だったんだぁ」

「俺はイケメンだからね。モテて当然だ。だか嬉しくない! 女なんて生き物は、可愛いのは最初だけなんだ!」

 こいつの女嫌いも忘れてた。ここには当たり前のようにくるから。

「律儀に毎年お返しをするからいけないんですよ。優柔不断な君も原因の一つです」

 さりげなく厳しいことを言うなと思いつつ、二人のためにお茶を淹れに立った。

「うちの姉を見てもそう言えますか、あんた。お返しをしない男は屑だって散々罵られる俺の気にもなってみろ!」

 女系家族ここに・・・

「そういえば徹さんは毎年ヴァレンタインのチョコもらうんですか?」

 お茶を手に戻ると、渡瀬の斜め向かいの席でリラックスしている徹さんに質問した。

「同じ部署の方が義理でくださることはありますよ。毎年ありがたいことです。あと、お菓子作りが得意な弟がくれたりします」

 熱めのお茶を受け取りながら朗らかに答える徹さん。渡瀬は自分の前に置かれたお茶を一瞥しただけで、また突っ伏した。

 そんなに嫌ですか、ヴァレンタイン・・・

「弟さん、お菓子得意なんですか! いいなぁ」

 徹さんは嬉しそうに笑った。

「可愛い弟です。少し年が離れているせいか、僕の前では素直で本当にいい子なんですよ。実は外国に留学したいと希望しているんですが、そんな話をすると父が発狂するので、どうやって逃げようか画策しているようです」

 徹さんのお母さんは海外に行ったきり帰って来ず、今どこにいるのかもわからないそうだ。それでいいのか八橋家・・・

 年に一度は最低でも絵葉書などを送ってくるらしいけど、毎回別の国にいるらしく、徹さんのお父さんは息子たちだけでも近くにいて欲しいと強く希望しているらしい。

 考えてみるとすごい状況だ。

「今はとりあえず美大に通いながらアルバイトを頑張っていますよ」

「美大生なんですか! すごいなぁ。自分の夢をしっかり持ってるんですね」

 美大なんてただでさえお金がかかるだろう。自分の夢を叶えるなんてそう簡単ではない。ただでさえお父さんという強敵がいるのに海外だなんて・・・

 私は会ったこともない徹さんの弟さんを応援したくなった。

「はーん。つまりあんたがうちの署にいるってそーゆー」

 渡瀬は一人納得したかのような顔でしきりにうなずいている。

 ・・・ん?

「今の話とどう関係するの?」

「だってこの金魚、本当は東京の警視庁に入庁することが決まってたのに、わざわざ地方に来たんだぜ」

 警視庁と言えばよくドラマで出てくるあそこですか!?

「父が近くにと希望していたので。僕も特に希望はなかったですし、とりあえず受けたら受かったみたいなものですし」

 そんなさらっと!

「それに、国家公務員とか興味ないので」

 ・・・あれ?

「え? 警察は公務員でしょ?」

「あー・・・あのな、俺らは地方公務員。よくドラマで出てくる警視庁の職員は国家公務員。地方でも警察署長ぐらいになると国家公務員として認められるが、俺らはしがない地方公務員だ」

 え、なんでそんな違いがあるの?

「警視庁というのも、一般的には東京の、よくドラマに登場するあれを指しますが、そもそも全国に警視庁はありますし、皆さんが意識していないだけなんですよ。パトカーとか見るとわかりやすいです。まあ、うちは県警察ですけど」

 そうなんだ!?

「へー、知らなかった。でもでも、お父さんのために地元を選ぶって素敵ですね」

 意外と地元愛なんだ!

 私が勝手に感動していると、渡瀬が無遠慮に一刀両断した。

「ちげーよ。この金魚の地元は関西だ」

 ・・・あれ?

「そうなんですか?」

「はい。と言っても、小学生と大学生の頃の事であって、地元と言われても微妙ですけど。もう関西を出てからのほうが長いですし・・・こちらに決めたのは単に、父が暴走して弟が大変な目に合わないようにというだけですし。愛はありませんね」

 すっごい笑顔で言い切った。

「ところで渡瀬君。先程から金魚とはなんですか。失礼ですよ。そしてお腹がすきました」

「そうだよ、ご飯はー?」

 ちっと舌打ちして彼はキッチンへ向かった。

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