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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
49/73

第四十七話 消費者センターの電話番号を教えたくなる

久々更新。少し長めです。

「意味わかんねえ」

 渡瀬が頭を抱えている。どうしたんだろう?

「透子さんはやっぱり不思議な人です」

 どういう意味よ徹さん。

「だいたい、男子生徒吹っ飛ばす女のどこが良い人だよ。それに、さっきの食堂に行き辛いってなんだよ」

「だってお金持ちの子が通ってる学校だよ? メニューも凄いけど値段も高くて。だから基本お弁当だったんだけど」

 普通の学食なら五百円あればお腹いっぱいになるなんて、高校を卒業するまで知らなかった。高校は私立に行ったが、大学は公立に行った私は、そこで学食の値段を見て思わず価格破壊だと呟いて、周りの人に怪訝そうな顔をされた記憶がある。

「あかりも、あなたと出逢ってからお弁当を持って行くようになったと言っていました」

 あかりは金持ちの家の子だからなー。食堂で食べるのはもともと好きじゃないって言ってたし、お互い丁度良かったのだ。

 うんうんとまた頷いた。

「よくお弁当の中身を交換したの! 楽しかったなぁ」

 でもあかりの家のお弁当はどこか高級すぎて、最初は本当に交換して良いのか何度も聞いてしまった。

「二人は本当に仲が良かったんですね」

「うん。乱闘してたのも始めの一回だけだったから、それ以降は見てないし。あかりって時々強引な所もあるけど、本当はすごく優しいって知ってるから怖くないよ」

 そう言った瞬間、誰かに後ろから抱きつかれた。

「うわっ」

 こ、この素晴らしい肉厚は!

「あかり、風邪引くよ? ちゃんと髪乾かしておいでよ」

「いやよ。今はこうしたい気分なの」

 もー、しょうがないなぁ。と言って気付く。

 徹さんが化け物でも見たような顔をしていること。渡瀬が見てはいけないものを見て、どうしようか悩んでいるような顔をしていること。日向さんが微笑ましそうに私達を見つめていること。

 なにこれカオス?

「あかり、髪乾かしてあげようか?」

「・・・うん」

 頷いたあかりは、けれど私から離れようとせず、何故か渡瀬が慌てた様にドライヤーを取りに走った。

 渡瀬がすぐに戻ってきて電源をセットする。私に恐る恐るドライヤーを差し出した。

 オカンレベルがどんどん上がってるよ、渡瀬。でも何がそんなに怖いんだろう?

「ほらあかり、後ろ向いて」

「はーい」

 ちょっと不満そうな声で返事をすると、さっと私に背を向けた。彼女の短い髪ならそんなに時間をかけなくてもすぐに乾くだろう。

 私はトリマーになった気分で丁寧に彼女の髪を乾かした。

 その間誰もしゃべらなくて、なんだか居心地が悪かった。



「そういえばとーるちゃん、金魚鉢見つかってよかったわね」

「はい、透子さんのおかげです」

「署長のハゲが広まったがな」

「渡瀬君、あの哀愁漂う写真、署内中に回しましたね?」

 呆れた様な徹さんの言葉に、私は思わず噴き出した。

「なによそれ、どんな写真? 見せなさいよ」

 あかりが興味津々という顔で私を見るので、送られてきたメールをあかりにも見せてやった。

「うわー。ほんとハゲだわー」

「あかり・・・」

 日向さんが苦笑して彼女の名前を呼ぶと、思い出したようにあかりが伝えた。

「でも大丈夫よ、要。あたし別にハゲは嫌いじゃないもの。要が将来ハゲになっても愛せる自信があるわ」

「あかり!」

 嬉しそうな彼は、でも、と言葉を続けた。

「大丈夫。うちはハゲにはならない家系だから安心していいよ。・・・嬉しいよ、君にそう言ってもらえて」

 いや、そこじゃないでしょ。どんだけ良い人なの日向さん。

「とーこ。あたしたち先に部屋行くわ。あとよろしくー」

「うん。おやすみ、あかり。日向さん」

 二人は素敵な笑顔でおやすみを返してくれた。

「あかり、いいなぁ」

「どこがだよ。俺は彼を見ていると消費者センターの電話番号を教えたくなるぞ」

 あんた、あかりに聞かれたら殺されるような発言はここではやめて。掃除が大変になるから。

「僕も時々罪悪感に飲み込まれそうになります。彼と話していると・・・」

「罪悪感?」

「彼はとても心根の素直な人で、何より物凄くポジティブなんです」

 どんな相手の、どんな発言でも前向きにとらえてしまう人を見ると、胸が痛い。

 とても小さな声で徹さんが呟いた。

 徹さん、いつも他人をどういうふうに見ているんですか?

「あんたはそうだろうな」

 そんな発言を渡瀬がしてしまったがために、今度は二人の応戦が始まった。

 その夜は遅くまで口喧嘩を続けてしまったせいで、我慢の限界が来たあかりがわざわざ部屋から出てきて二人に説教した。

 私と日向さんは、夜中にも関わらず元気な三人の姿を横目に、ホットミルクを並んで飲んだ。

「あかりのどこを好きになったんですか?」

 私の小声の質問に、彼は照れたように笑って、そして言った。

「恋はするものだって思っていたんですが、彼女を一目見た瞬間、恋に落ちてしまったんです。今までの自分は恋愛ごっこをしていただけだったんですよね。だって、彼女を知れば知るほど、どんな姿でももっと見たい。見ていたいと思うんです。こんな自分にも混乱しましたけど嬉しかった。恋愛ごっこしてた自分に失望したりして、なんだか、時間が経つたびにダメな男だって思い知ります。でも、彼女の凄いところは、そういう俺を笑って許してくれるところなんです」

 好きなところなんて、挙げたらきりがありませんよ。

 そういう彼の顔は輝いていて、気付けば辺りはとても静かに・・・あ、あかりが照れてる。後姿からでもわかるほどあかりの耳は真赤だった。

徹さんと渡瀬が口を開けたまま固まっている。どういう反応?

「あかり、そろそろ休もう? 明日からは会社行くんだろう?」

「・・・おうよ」

 日向さんの言葉に、ぶっきらぼうに答えたあかりだったけど、照れ隠しにはならなかった。

 私と日向さんはにっこり笑いあった。


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