第四十五話 あらやだ照れる
「あの、透子さん」
「あ。はい、なんですか?」
デザートを食べ終えたあかりが風呂に向かうと、日向さんが緊張した面持ちで私を見つめた。
なんだ、いきなりどうしたの?
「あかりのこと、本当にありがとうございました。今回の事もですけど、いつも、あかりからあなたの事を聞いていました。あなたのことを話すあかりは本当に嬉しそうで、本音では少し嫉妬していたんです」
あらやだ照れるわ。
「でも今回の事でわかりました。あなたが傍に居てくれるから、あかりはいつも元気でいられるんだって。あなたは、あかりにとって心の支えなんです。自分はあまり彼女の傍に居てあげられない。彼女の生きがいである仕事を奪うことも出来なければ、一緒に暮らすことも、今の自分にはできません」
でも、と彼は言葉を続けた。
「いつか必ず、彼女を世界で一番幸せなお嫁さんにしてあげるのが今の俺の目標なんです」
うわー。こんなこと言われてみたいってセリフがどんどん出てくる。
凄いよあかり、こんな天然記念物みたいな人どこで見つけてきたの?
「真面目に聞け」
いきなり渡瀬に頭をはたかれた。痛い。
「聞いてるよ」
「嘘つけ」
うう、ばれてる。
「あの、それで、ですね・・・」
ん?
「彼女の話によく出てくるんですが、お二人は高校時代からの親友なんですよね?」
「はい。私は外部組で、彼女は幼等部から一貫して私立に通っていました。出逢いはちょっと、印象的だったかなぁ」
はい、と彼が嬉しそうに笑う。
「聞きました。でもそこがまた不思議というか」
「なんの話? 俺も気になる」
いやん、気にしないで渡瀬。乙女の秘密さ。
「いえ、あの時の彼女を見てあなたは怖くなかったのかなって・・・」
「怖い? 初対面の彼女ですか? うーん。綺麗な人だなって思いましたよ」
それまで黙っていた徹さんが口を開いた。
「いや、その前に怖いと思わされる場面にでも遭遇したんですか?」
「うーん・・・」
私はあかりと出逢った頃のことを思い出して、思わず声に出して笑ってしまう。
「あはは、そうですね。あまりのことに腰が抜けました」
「はあっ!?」
徹さんと渡瀬が揃って声を上げた。
「まあでも、優しかったですよ。私の方に人が飛んでこないように一応気を付けてくれみたいですし、校内で迷子になっていた私のために教室まで案内してくれたし、食堂に行き辛かった私と、わざわざ一緒にお弁当を食べてくれたし・・・あ、あと勉強も見てくれるし、頼りになるお姉さんが出来たみたいで嬉しかったなぁ」
うんうんと昔を思い出してにやける私に、まず徹さんが突っ込んだ。
「人が飛んでこないように?」
「お前どこでも迷子になるのな」
渡瀬が呆れた様に言う。失礼な。幼稚園から大学院まで続く学校の敷地内の広さをなめるな。本当に迷子になるんだってば!
「細かいことは気にしなくていいの、二人とも!」
私は、あの日の事を二人に話した。




