第四十一話 変態の道
「徹さんみたい」
「よし、お前ちょっと地獄に行ってみようか」
きゃあああ、と叫びながら必死にもがく。
「俺を変態仲間にするなと何度言えばわかるんだ?」
「セクハラ男は十分変態です!」
「ほほう」
首から離れた手が、今度はまた頭を掴む。
力を込められた頭は割れそうに痛い。
「教育的指導」
「いひひひひっ!」
あ、なんか変な声がでた。
「お前、本当に可哀想なやつだな」
誰のせいよ!
本気で思っているような目で私を見ながら、なんとかこいつは手を離した。
「ほら、行くぞ」
「納得できない」
「はいはい」
その後警察署内五箇所の女子トイレ、他二箇所の女子更衣室を回って金魚鉢を探したけれど、それらしいものは発見できなかった。
「あかり、大丈夫かな」
所内に設置された休憩室で缶コーヒーをおごってもらい、丸いテーブルに両肘をついた。
「殺しても死なない女だ。一切の心配は時間の無駄だぞ」
本人が聞けば怒り狂いそうな台詞だわ。
「でも、きっと怖い思いをしてるわ」
「いや、どうだろうなぁ」
そういえば、どうしてか徹さんも渡瀬も、最初からあまり彼女のことを心配していないような態度をとっている。
本当に心配じゃないのかな?
「あかりだって女の子なのよ」
「普通の女は人の秘密を握って脅す真似はしないし、あいつは並の男より強い」
そこは否定できないけど・・・
「でも・・・」
「それにストーカーの男はドエムだ。自分を痛めつけられるのは好きだが、相手を痛めつけることは出来ない」
・・・は?
「だから心配ない」
ミルク入り缶コーヒーを飲みながら、さも面倒そうに言う。
「そ、それって余計ヤバイじゃない!」
どうしよう、あかりは結構切れやすいタイプなのに、ヤバイ道にはまっちゃったら!
ああ、私の大切な親友が変態の道へ踏み込んでしまうかもしれない!
「だから、大丈夫だって」
くああ、と大きなあくびをする渡瀬の頭を遠慮なく叩く。
「いって!」
「あかりが変態になっちゃったらどうするのよ!」
「あいつはもう十分普通の女じゃないだろうが!」
怒鳴りあう私たちを、やっぱり他の警察官が遠巻きに見ているが気にしない。
「だいたい、お前はちょっと冷静になれ!」
「冷静だもん!」
「どこがだ!」
しばらく無言で睨み合い、ふいに渡瀬が深い溜息をつく。
「あんた、あの金魚男を信用できないのか?」
うぅ・・・別に信用できないわけじゃない、ただ不安なだけ。




