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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
42/73

第四十話 この笑顔の怖いこと。

「ともかく、一般人を巻き込むわけにはいきません」

 譲らない頑なな態度に、諦めるしかなかった。

「それに透子さんには頼みたいことがあります」

「私に?」

「透子さんにしか、頼めないことです」

 徹さんは真剣な表情で一度言葉を切った。

 その後に続いた言葉に、誰もが溜息をついたのは仕方のないことだった。

そしてすぐに、徹さんや他の警察官は慌ただしく部屋を出て行った。

 あかりを助けるために。




「ありがと。さっきはフォローしてくれて」

 警察署内の廊下をゆっくりと進みながら言えば、横からふん。と鼻で笑われた。

「静さまと呼べ、このヤロウ」

「しーとん。お礼に今度おいしいお菓子を作って下さい」

「俺が作るのかよ!」

 頭をはたかれた。痛い。

なによ、わざわざ頭を下げてあげたのに。

「ところで、本気か?」

 一度深い溜息をついて、搾り出すような声で言われた言葉に足を止めた。

「言わないで」

「いや、俺本当に嫌なんだが」

「私だって怖いわ」

 同時に溜息を吐いて思い出す。ほんの数分前に頼まれた件について。

「というか、そろそろ仕事に入りたいんだが」

「私ひとりでやれっていうの?」

 見上げれば私を睨む渡瀬がいた。

「俺は関わりたくないんだよ」

「私だって嫌だわ。でも、ここでやらないときっと徹さんに怒られるわよ。あなたが」

「俺かよ!」

 だって、徹さんに怒られたことないもの。

「頼まれたのはお前だろう?」

「この広い建物の中で、私が古くさい金魚鉢を見つけられると思うの。勝手にいろんな場所に入って、見ちゃいけないものとか見ちゃうわよ」

 そう、頼まれたのは以前行方不明になった金魚鉢の捜索。

 どうやら署内にあるという有力な情報を掴んだらしい徹さんは、この機会に所内を捜索して欲しいと頼まれた。

 自分では探せない場所もあるからと。

 でもどうやってその情報を掴んだのかは謎。

誰に聞いたのかしら? お友達はいなさそうなのに・・・

「でも、徹さんが探せない場所ってどこ?」

「女子トイレに、女子更衣室。あとは・・・署長室。二人の中は険悪だからな」

 ふうん、と頷く。

「じゃあ。とりあえずそういう場所を一つずつ見てみましょう!」

「ちっ、なんで俺が」

 なんだかんだと文句を言いながら、それでも渡瀬は私の隣に並んだ。

「娘に逆らえない父親の気持ちが良くわかる」

「蹴るわよ」

 言いながら脛を蹴る。

「がっ!」

 脛を抱えて転げる男をちらりと見て薄く笑う。

「大丈夫?」

「宣言しながら蹴るな!」

 脛をカバーしたまま叫ぶ静や私のまわりには、いつの間にか人だかりが出来始めているけれど気にしない。

「だいたいお前は暴力的過ぎるんだよ!」

「しーとんが失礼なこと言うからでしょ?」

 勝手に歩き出せば、がしっ、と足をつかまれて前に進めない。

「ぎゃわっ」

「このヤロウ、人が親切に案内してやれば図に乗りやがって」

 こわっ!

 うずくまったまま人の足を掴んでいるこの男、怖いうえに気持ち悪い!

「まだ案内されていませんが」

 なんだかセクハラっぽいけれど、私の足を使って起き上がる男は、ニヤリと悪人顔で笑う。

「今からたっぷりしてやるよ」

「しーとん。なんか、存在がセクハラだわ」

 今度は首を絞められた。

 く、苦しい・・・

「行くぞ。そりゃもう、懇切丁寧に案内してやろう」

「あはっ、遠慮します。大丈夫です。一人でも平気です」

 早口で捲くし立て歩き出す。首に静が巻きついたままなので重い。

「ぐぐぐ」

「ほーら、まずはこっちだぞ、さあ来い、すぐ来い、今来い」

 そう言うのなら首を離して!

 前に進むたびに絞まっていく。

「おい渡瀬、放してやらないと首が絞まってるんじゃないのか?」

「絞めているんだから当然です」

 せっかく、見ず知らずの制服警官の一人が助け舟を出してくれたけれど、彼は見事な笑顔で一蹴した。

 この笑顔の怖いこと。


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