第三十九話 俺はこいつを妹とは思っていません
「漁港のそばにあるグランドホテルが発信源でした」
「そのホテルにすぐ、確認を取って下さい」
胸ポケットから一枚の写真を取り出して机の上に置く徹さんを、その目の前に座っている警察官が覗き込む。
「これは?」
「彼女にストーカーしていた男です。これは、彼女が行方知れずになった朝撮られたものです。この男が泊まっていないかの確認をしてください」
「・・・これを、どこで?」
「僕は確認を、と言いましたが?」
こわっ。
「だから言っただろ。こいつマジで怖いんだよ」
渡瀬がそっと耳打ちする。
うん。本当に怖いわ。
頷く私たちを、徹さんがちらりと見た。
「ホテルに確認が取れました。スイートルームに泊まっています!」
一人の警察官が電話の受話器を持ったまま叫んだ。
男たちが立ち上がって頷きあう。
「透子さんは危ないのでここで待っていてください。渡瀬君、彼女を頼みます」
素早く言う徹さんの腕をとっさに掴んだ。
「私も行く」
「駄目です」
「行く」
徹さんは、溜息をついてそっと手を離した。
「容認できません」
「行くから!」
「・・・透子さん、お願いですから」
真剣な顔で言われて、自分の我侭を痛感する。
でも、ここで引き下がることは出来ない。
「あかりが助けを求めたのは私です。私が行かないといけないの」
がしっと頭をつかまれたのはその時だった。
「こいつがいなけりゃ、あの女が暴れた時大変なのはそちらですよ」
まさか渡瀬が私のフォローをしてくれるなんて思わなかった。
右手で私の頭を掴みぐりぐり力を入れてくれるから正直痛いけど、それでも嬉しかった。
ああでも、お願いだから人の頭を遠慮なく左右にふらないで!
「・・・これは警察の仕事です。いくら捜索願を出したからと言って、本来なら彼女がここにいることも不自然ですし、情報を与えすぎている。わかっていますよね、渡瀬君?」
「あんた、本当にムカつくな」
「ここは職場ですよ。君の階級で、よくそんな口がきけますね」
「八橋警部補の聞き間違いじゃないですか?」
しばらく睨み合って、徹さんがついに溜息をついた。
私を挟んで喧嘩をするのが趣味なのかな、この二人。
「お二人の兄弟愛はよくわかりました。けれど、危険な場所にあなたを連れて行くわけにはいきません」
渡瀬が不適な笑みを浮かべた。
ん? ・・・兄弟愛?
「やめてください、俺はこいつを妹とは思っていません」
そりゃそうだ。私は一人っ子だもの。
「出来の悪い娘だと思っています」
「殴るわよ」
言いながら腹に一発お見舞いしてあげた。
「ぐふっ。もう殴ってんじゃねえか、このヤロウ」
睨み合えば、他の警察官が興味津々という顔で遠巻きに見ている。




