第三十七話 渡瀬って呼び方がいまいち定まらないのよね
今朝は渡瀬が朝食を作ってくれて、それは食べたけれど正直食欲などなくて、昼はお茶を二杯だけで済ませた。
今も食欲はない。
あかりはちゃんと食べているのだろうか。どこか怪我をしていないだろうか。
考え出すと嫌なことしか想像できない。
「あかりさんなら大丈夫です。殺そうとしてもまわりを盾にして死んではくれないタイプですし、彼女はあなたに救いを求めた。それはきっと、僕らに連絡がいくことを想定してのことでしょう」
そうかしら、そうだといい。
それにしても、死んではくれないって・・・
「ともかく、今は彼女の生命力を信じるしかありません」
よけい不安になりますが。
「うん・・・」
「大丈夫です。僕らがついています」
はじめて、徹さんが頼もしく見えた。
「だな。つーか、あいつはゴキブリ並みの生命力持ってるから心配するだけ無駄だ」
戻ってきた渡瀬が言うが・・・ゴキブリってあんた。
「私は聞かなかったことにするわ」
「右に同じく」
そんな私たちに渡瀬が一言呟いた。
「俺、嘘つけないんだよ」
あえて無視してパスタを食べると、もう冷たくて少し食べにくい。
それでも美味しいから、なんだか悔しい。
「今日のデザートは?」
「プリンならあるぞ」
ちゃんとデザートになるものも用意しているところが抜け目ない。
ようやく食欲がわいてきた私は、少し意地悪を言ってみる。
「焼きプリンがいい」
「ふっ」
鼻で笑う男に顔を上げると、自慢げに笑っていた。
「なに?」
「各種用意しているに決まっているだろう?」
なんて用意のいい男!
「凄い!」
「違いますよ透子さん。彼は優柔不断なのです。だからとりあえず全種類買ってきたのでしょう?」
「ほざくならデザートあげませんよ」
睨み付ける渡瀬に、徹さんは爽やかな笑顔で告げた。
「ああ、僕は抹茶プリンでおねがいします」
「人の話聞け」
「紅茶もお願いします。もちろんストレートで」
「最悪だなあんた」
徹さんは何かを思い出したように顔を上げた。
「しまった、紅茶の茶葉を買ってくるのを忘れていました。僕としたことが!」
そう言って弱々しく頭を振る。
「仕方がありません。コーヒーでいいですよ」
本当に仕方がなさそうな表情が笑える。
「あんた本当にムカつくな」
なんて緊張感のない人たちかしら。
「渡瀬ちゃん、お茶ちょうだい」
「静さまと呼べ。まったく」
文句を言いながらもお茶を入れるあたり親切だわ。
「僕にはコーヒーを」
「ああちくしょう!」
足音荒いが気にせず私たちは食事を終えた。
「しーとん、デザートちょうだい。プリン!」
「あ、それいいですね。しーとん。こちらにもデザートください」
「てめーら誰に言ってやがる!」
そんな風に一日目が過ぎていった。