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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
38/73

第三十六話 仕事中の顔

「もし、その人があかりに何かしたんだったら・・・」

「危険性は高いですね。しかし、そんなことを心配している暇も時間もありません」

 厳しい声で徹さんが言えば、冷静な声で渡瀬が言った。

「警察に届けを出せ。俺たちだけじゃ限界がある」

「今から出してくる!」

 そりゃそうだと、慌てて立ち上がろうとすれば、徹さんに腕を引かれた。

「待ってください」

「でも、あかりがどんな目に遭っているかもわからないのに!」

 瞬間、ゾクッとした。背中を嫌な汗が流れる。

「徹さん・・・」

 徹さんが、冷めた目でパソコンを睨んでいたから。

 仕事中の顔ってことかな? いつもと雰囲気が違いすぎる。

「透子さん、メールが届きました。どうやらあの男は昨日の早朝このあたりで目撃されています」

「やっぱり、その人があかりを?」

 渡瀬が和風パスタをテーブルに置き、飲み物を人数分用意する。

「よくわかったな、そんなこと」

 私にフォークを手渡すと、コタツに入ってくる。

「ちょっとした知り合いに頼みました」

 ちょっとしたって、どんな?

「また怪しい知り合いか。あんたのまわりはそんなんばっかりだな」

「余計なお世話です」

「ちなみに、どんな知り合いで?」

 ちょっと、私を挟んだまま冷戦を繰り広げないでください。

「カメラマニアです。風景から人物、ちょっとかわったものまで写真に収めます」

「たとえば?」

 問えば、彼は私を見ながら言った。

「・・・人の部屋とか、下着とか」

「それって犯罪じゃないの?」

「言い方は人それぞれです」

 え、そんな問題?

「ほらな」

「ともかく、彼の情報によれば、あの男は確かに確認されています。しかも、このマンションの前で」

 そう言って、パソコンの画面をちらりと見れば、何枚かの写真が映し出されている。

 見慣れないオジサンが、うちのマンションを覗き込んでいる写真や、あかりがエントランスホールから出てくる写真。

 更にはオジサンがあかりの後をつけていくものまで。

「この人が、あかりに酷いことしてるの?」

「物的証拠がありませんが、状況証拠はそろいました」

「今こいつの泊まっているホテルを探してる。前の家は引き払っているはずだからな」

 写真に写る男は、白髪交じりだが背が高い。目は獲物を狙う鷹のように鋭くて怖い。

 私はこの男の顔を忘れまいと写真を見つめた。

「ただ一つ、問題がある」

「問題?」

 渡瀬の言葉に首を傾げれば、徹さんが続けた。

「彼が一人で動いているとは思えません。協力者が居る可能性があります」

 そうか、仲間が居たほうが動きやすいのね。

「怪しい外国人と一緒にいたという情報も入っています」

「あいつの勤務先は中国だからな。そっちの知り合いがいてもおかしくない」

 渡瀬が難しい顔をしながらパスタを食べる。

「その男のことも調べています」

 徹さんもパソコンをいじりながら食べ始めた。

「ヤバイ連中じゃなけりゃいいがな」

 余計不安になるようなことを言わないで!

 ムッとして渡瀬を睨めば、相手は淡々とした口調で続けた。

「ほんとのことだ」

「渡瀬君。とりあえずおかわり」

 いきなり私たちの前に白い皿を割り込ませると、徹さんはにこりと笑った。

「・・・ちっ」

 舌打ちして、本当に面倒臭そうに立ち上がった渡瀬を横目に、徹さんが言う。

「あくまでも憶測の域をでません。それよりも今できることをするべきです。何が起こってもいいように、我々は体力を温存しなければなりません」

「でも。今もあかりは怖い思いをしているかもしれないのに食事なんて・・・」


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