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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
35/73

第三十三話 絆創膏は友達のあかしです。

「うちには油性ペンなんてないわよ」

 いや、あかりの部屋にはあるかも、と考えてハタと気付く。下から感じる冷たい視線。

「じゃあ水性でいいよ。金魚命とか書こうぜ」

 いや、あんた、それどころでは・・・

「僕は金魚が好きなわけではなく、金魚鉢を愛しているのですが」

 冷たい声が部屋に響いた。下から覗き込むように渡瀬を見ていたのは、寝ていたはずの徹さん。

「ちっ」

「おはようございます、徹さん」

 声をかければちらりと私を見て、彼は固まった。

「・・・・・はい」

 いや、何故そこで固まる。

「ごちそうさまでした」

「おう。もう行くのか」

「うん、今日は一時間早い開店なの」

 食べ終わった食器を片付けて上着を着込むと、頭を抱えて蹲っている徹さんを見る。

 ・・・何をしているのかしら、この人。

「徹さん?」

「ああ、ええ、いえ、はい」

 どうしたんだろう?

「お仕事ですか」

「うん、これから行ってきます」

 寝癖で乱れた髪を手で押さえつけて、彼はわずかに頭を下げた。

「いってらっしゃい」

「はい、いってきます」

 パンプスを履いて手を振って玄関を出た。





 職場につくと大急ぎで着替えて服装と髪型のチェック。同僚達に新年の挨拶をして、お互いに気合を入れあう。

 大手スーパー等は元旦から営業しているが、私が勤めているデパートは二日から初売りをする。

普段は事務仕事が多い私だけど、人手が必要な時は表に出ることもする。パソコンと数字相手に格闘するよりも対人の方が怖い。毎日笑顔を振りまく同僚たちには尊敬する。私には無理だ。だって絶対顔が筋肉痛になる!

でも、年はじめの売り上げをどれだけ出せるかどこも必死だ。ちなみに二日と三日に勤務すれば特別ボーナスがつく。

 開店すると前日の夕方から並んでいた人達がいっせいに入り込んでくる。そこはまさしく戦場となり、怪我をする店員も実は多い。

 打ち身、打撲は当たり前。走る客に巻き込まれて階段から落ちる店員も去年はいた。

「あんた、今年はどこよ」

「バック売り場。あんたは?」

 顔なじみの同僚に声をかけられれば、即座に答える。

「婦人服売り場」

「・・・うん、ご愁傷様です」

 何よりも危険な場所は、洋服売り場だ。特に子供服は危険で、その次に危ない場所が婦人服だ。

 普段表に出ない私達は都合よく人手の少ない現場に回される。

「どうしよう、あたし、死んじゃうわ!」

「頑張って、私にはこんなことしか出来ないけど、応援してる!」

 絆創膏を握らせて言えば、彼女は泣き出しそうな顔で頷いた。

「お互い、無事に乗り切りましょう! この絆創膏は大切に使うわ!」

「ええ、頑張りましょう!」

 私たちは頷き合って分かれた。

 さあ、今日は戦だ!


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