第三十話 さわらぬ神に祟りなし?
この男にさん付けは嫌。そう思って呼び捨てにすれば笑顔で、
「なんで苗字に戻るんだよ。この際静さまと呼べ」
「いや、それはないよ」
即答するとしばらく無言が続き、微妙な距離を保ちつつ歩いているとお宮に着き列に並ぶ。お参りを終えると、テントに足を向けた渡瀬についていく。
「ほら、あったまるぞ」
「ありがと」
甘酒を手渡され、何度か息を吹きかけてから口に含む。
「結構うまいだろ」
「うん」
外で飲む甘酒は美味しくて、体が温まる。
焚き火で温まっている人たちを眺めながら飲み終えると、また歩きだした。
「買い物行くぞ。あかりに頼まれたんだ」
「それは逆らえないね」
何様俺様あかり様に逆らうのは得策ではない。
私たちは電車で一本先のデパートに向かった。元旦だというのに、お店は開いていた。
「何を買うの?」
「酒を大量に注文された。あと、つまみになりそうなものを」
さすが、なんて男らしい注文かしら。女だけど。
「なんかさ、いいように使われているね。あんた」
「言うな、泣くぞ」
それは見たくない。
二人で大量の酒を買い込んで、重たい荷物はコインロッカーに預けてからウィンドウショッピング。
「おい。まだ買うのか」
大量の福袋を買い込んで、荷物は全て静に持たせる。
「見て、この服かわいい!」
「はいはい」
福袋が売り切れたお店ではタイムセールを始めたらしい。うんざりしている彼を無視して駆け込む。
「どっちがいいかな? ああっ、あのカバンも可愛い!」
「じゃあそっちのピンクで」
「こっちは? へん?」
「いや、あんたには体系的にちょっと無理が」
少しでもセクシーな服を選べばこんな言葉が来るので、迷わず腹にパンチをお見舞いしてあげる。
「ぐふっ」
「さ、次へ行きましょう!」
「金魚鉢以上に面倒だ、この女!」
聞かなかったふりをして歩いた。
しばらくそうして買い物を楽しむと、帰宅が夜になってしまった。
「すぐに飯作るから、とりあえずその大量の荷物をなんとかしろ」
「はぁい」
言われたまま荷物を片付けて、ふと気付く。あかりはまだ帰ってないようだ。
「あかり、遅いなぁ」
「今日は遅くなるってメールあったぞ」
何故私ではなく渡瀬にメールするの、あかりよ。
「彼氏と一緒らしいから大丈夫だろう」
「夕飯には間に合うかな?」
「・・・とりあえず作る。用意しなかったら後でどんな目に合うかわからん」
あんた、あの子にいったいどういう目にあわされたの。
物凄く気になったけれどあえて聞かないでおいた。




