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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
31/73

二十九話 名前に似合わず小言が多いことで。

「ところで合鍵って、いつ作ったの?」

「あんたがこの部屋に越した次の日に貰ったぞ。いつでも来いって」

 ・・・はい?

「え? は?」

 どういうこと?

「もしかして、徹さんも持ってるの?」

「おう」

 あかり、それでいいのか、あんた。

「だから、それぞれの部屋にもわざわざ鍵つけてあるだろ。あんた、全然使ってないみたいだけど」

 何故そんなことまで知っているの?

「ちょっと無用心過ぎるぞ」

「うん。今初めて反省してるとこ」

 知らなかった。ここに越して来てもうすぐ一月が経つけれど、驚愕の事実だわ。

「そう言えばあんた、あの金魚鉢のことは名前呼びなんだな」

 俺のことは苗字だろう。

言われて気付く。私、あんたの名前を知らない。

「・・・渡瀬君や、人には向き不向きというものがね」

 だいたい、あかりだって苗字で呼んでいるじゃない。

「はぁん? あんたもしかして俺の名前知らないとか言わないよな?」

 にやりと笑った男の顔に、にっこり笑顔を返す。

「えへ?」

「それ、不細工だからやめろ」

 うわ、今の本気で傷付いた!

「だって誰も呼ばないじゃない!」

 だいたい、知り合ってまだ四ヶ月の女の部屋に入り浸るあんたはどうなのよ?

 いや、それを許している私とあかりも変かもしれないけど・・・

 しばらく睨み合って、先に動いたのはやはりというか渡瀬だった。一枚の名詞を差し出す。

 渡瀬静。

・・・名前に似合わず小言が多いことで。

 ジッとその名詞を見ていると、渡瀬が立ち上がった。

「そろそろ初詣行くぞ」

「ええっ! 寒いから嫌よ。それに人が多いじゃない」

「元旦の朝が、一番人が少ないんだよ。ほら、さっさと用意しろ」

 そうなの?

「でも寒いもん」

「肌が引き締まって美肌効果がある」

「いきます」

 なによ、それならそうと言いなさいよ。いそいそと準備をしだした私に聞こえないように、渡瀬がボソッと言った。

「かもしれない」




 元旦の初詣は、やっぱり人が多かった。

「寒いよう、人が多いよう、まっすぐ歩けないよう」

 タートルネックのセーターとジーンズ。膝までのブーツに赤いコートで暖をとり、小さなポーチを持って初詣に出掛けたのはいいけれど、想像通りの人込みに気分が滅入る。

「ほら、子供じゃないんだから迷子になるなよ」

「携帯持ってるから迷子になっても平気よ」

 そういう問題じゃないと頭を叩かれた。痛い。

「なんで迷子になること前提なんだよ」

「腑に落ちない」

「そりゃこっちの台詞だ。行くぞ」

 何故か私たちのまわりには急に道が出来た。

「やっぱり、みんなあんたが怖いんだ」

 いや、違う。怖いんじゃない、遠巻きにこの男を観察している視線。

 綺麗な顔を持っている人も結構大変なのね。まるで珍獣扱いじゃない。

「進みやすくていいだろ」

「わた・・・静くん」

「きもっ! 君付けで呼ぶな!」

 どこまで失礼なんだ、きみは。

「じゃあ静さん? しーちゃん? しーとん? 」

「ちょっと三途の川渡ってみようか?」

 笑顔が怖い!

「ごめんなさい。じゃあ渡瀬で」

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