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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
30/73

第二十八話 アンティークなんですって

「凄いね! そんなに簡単だったの?」

 すると渡瀬が渋い顔をして唸るような声で言う。

「簡単なわけないだろ。まずは証拠集めしてそれをデータ化して、更に逮捕状の請求書まで作成して、これを裁判所に持っていかれたくなかったらと脅し・・・いや、説得するのには骨が折れたぞ」

 脅したんだ、警察官のくせに。

「ちなみに、説得役はあの金魚鉢だ」

 徹さん?

「俺は思ったね。あの金魚鉢とは戦争したくないって」

 どういう意味? 戦争?

 もぐもぐと租借しながら首を傾げれば、渡瀬はどこか遠くを見ながら笑った。

「あれこそ鬼だぞ。笑顔で毒吐きまくる。ありゃあ相手が哀れだった」

「ふーん?」

 あかりより怖い人って想像できない。徹さんはいつも優しいし。

「ほら、ちゃんと牛乳も飲め。お茶は最後でいいから」

「はぁい」

 あかりの次に口うるさいのがこの男。

 素直に頷いて、はたと気付く。

「それより、どうやって部屋に入ったの? 鍵掛かってなかったの?」

「合鍵に決まってるだろ」

 いや、どうしてあんたが持っているの。さらっと答えられても困るんですけど。

「つーか、エアコン入れたまま寝るなよ。もったいないだろ。せめてタイマーかけるなりしろ」

 あかりより小言が多いこの男。

「寒かったんだもん」

「はいはい、ほら、食え」

「うん」

 渡瀬が小さなコタツに侵入すると、少し狭く感じるけど気にせず遅い朝食を味わう。

 慣れた様子で(実際この男はかなりの頻度でこの部屋に入り浸っている)テレビのリモコンのスイッチを押し、正月の特番を黙って見る。

「で、金魚鉢はどうしてあんなメールを?」

 全てのメールは朝の件についての報告だった。一人ずつ話を聞く度に報告メールを送ってきたらしい。

 メールの内容は似たり寄ったりで、結局未だ見つかっていないようだ。

「なんか、資料室のアンティークの金魚鉢が行方不明なんですって」

 そういえば、金魚鉢のアンティークってどんなだろう。

「金魚鉢にアンティークとかあるのか?」

「わかんないけど」

 私に聞かれてもわかんないわよ。

「でも資料室はたしか三十日に大掃除していたぞ。処分できるものとそうでないものを分けていたのは見たからな。その時に捨てられたんじゃないのか?」

 有り得る!

「そ、それは誰かに聞いたかな?」

「今日出勤している連中は知らないんじゃないか? 知っていても教えなさそうだけどな」

 ・・・確かに。だって、道を歩けば誰もが顔を背けて(見てはいけないものを見たような顔で)しまうから、例え何かを知っていても教えてくれるかどうかはわからない。

「一応、メール打っとくわ」

「・・・ほっとけよ。だいたい、職場にそんなもん置いとくあの変人が悪い」

「でも、きっと今も探しているような気がするし」

 その様子を想像して思わず口元が緩む。

 よろよろと足元のおぼつかない彼が、必死に金魚鉢を呼びながら歩きさ迷う姿。きっと誰もが驚き、遠巻きに観察するに違いない。

・・・返事は絶対にないけれど。

 いけない、笑っちゃいけないわ。でもちょっと不気味。

 いちご牛乳を飲みながら片手でメールを打っていくと、すぐに返信があった。

「早くね?」

 渡瀬が淡々とした口調で言う。

「えっと・・・了解しました。だって」

 なによ、呆れるくらい事務的なメール。

「金魚ついてないな」

「うん」

 これで早く見つかればいいけど。


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