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金魚鉢とわたし  作者: aー
桜色の彼女
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第二十六話 桜色の彼女

第二章はじまります!

 春の朝。

 スカートがひらりと舞い上がり、まるで桜の花のようにゆれた。

 白い足のその先に、ブルーの下着が見えて思わず目をそらした。

 同姓とはいえ恥ずかしい。

 その時、目の前を一人の男子生徒が横切った。

 ああ、人はこんな風に飛ぶのかと初めて知った。

 ソメイヨシノに激突してうめく生徒。

 驚きで声が出ない私。



 あんた、なにしてんのよ。

 邪魔よ、さっさとどきなさい。

 はあ?

 腰が抜けたですって?

 ・・・わかったわよ。

 すぐ終わらせるから、ちょっと待ってなさいよ。

 まったく、しょうがないわね。


 そう言って、彼女は溜息をついた。


 ほら、終わったわよ。

 手、出しなさいよ。


 照れくさそうに笑って手を貸してくれたその人は、すごく格好良かった。







 除夜の鐘が鳴り終わり数時間経った朝の七時五十九分。

つい二時間ほどまで親友のあかりと飲んでいた私は、突然鳴った携帯電話の着信音に起こされた。

 ちょっと、まだ眠いんだけど。誰だよ、こんな時間から・・・

 それでもしつこく鳴り続ける携帯に、仕方なく、本当に仕方なく出た。

 元旦の朝は空気がとても冷たくて、布団から手を出すだけで辛いほど。

「もしもし」

 携帯電話の通話ボタンを押せば、自分でもわかるぐらい不機嫌な声が出た。

「大変です!」

「ひゃっ」

 叫ばれて、一瞬誰だかわからなかった。

「事件です!」

「だ、だれ?」

 寝起きで重たい体を起き上がらせて問えば、相手はつかの間黙った。

「徹です。事件です!」

 切羽詰った声に、ようやく頭が覚醒する。

「ど、どうしたの?」

「金魚鉢が盗まれたんです!」

 ・・・は?

「なんですって?」

 朝早く電話してきて、金魚鉢?

「だから、僕のアンティークの金魚鉢が何者かに盗まれたんです!」

 元旦の早朝からなに、この男。

「・・・で? 今どこ」

「もちろん警察署です。今、資料室に来てみたら金魚鉢がなくなっていたんです!」

 資料室・・・?

「資料室って、前に私がコーヒーをご馳走になったあの地下の?」

「はい」

 電話口から情けない声が聞こえてきて思わず溜息が出た。

 数ヶ月前、金魚鉢こと徹さんに出逢った近所の警察署。その地下には資料室があって、彼の休憩部屋として使われていた。

 暖かいコーヒーの、少し苦い味を思い出す。

「どうしてそんなところに置いておいたの?」

「仕事の疲れを癒すための観賞用です! 明治初期に作られたアンティーク物です!」

 知るか。

「あのね、私さっき寝たばかりなの」

「はい、おはようございます」

 順番違わない? 喉まで出掛かった言葉を無理矢理飲み込んだ。

「うん、おはよーございます」

 ボサボサの頭を手櫛で整えて布団から出た。

「さむっ」

「そんなことより真剣に聞いてください!」

 私にとってこの寒さは真剣に厳しいものなのよ!

 リビングに向かい、急いでエアコンとコタツのスイッチを入れ、分厚いコタツ布団に潜り込んだ。

「それで、他の人には聞いたの? 何か知ってる人とかいるんじゃない?」

 あくびをしながら言えば、徹さんがしばらく黙った。

「それが、まだ誰にも会っていなくて」

「探して聞き出しなさい」

 はい、と消え入るような返事があった。

 そのまま少しだけ言葉を交わして電話を切った。

「ねむい、さむい」

 電話を握ったまま、私はまた夢の世界へ旅立った。

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