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金魚鉢とわたし  作者: aー
金魚鉢とわたし
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第二十五話 現代の武士・・・?

「そういえば、私、最近へんな男に付きまとわれてるのよ。もちろん助けてくれるんでしょ?」

 あかりがそういうと、男達はそろって動きをとめて顔を背けた。

「何よ、その態度」

「あんたなら大丈夫だ。現代の武士だからな、まあがんばれ」

 武士って・・・

「あかりさんの勘違いじゃないですか?」

 徹さんは金魚鉢を拭きながらさらっと言った。

「最初はそう思ったんだけどさ、どうもヤバイ人っぽいのよね」

「彼氏に言えよ、あんたいるだろ」

 いるんだ!

 というか、私だって知らないのに、どうして二人は知っているんだろう?

「彼の上司なのよ」

 あ、それは大変だね。

「ご愁傷様です」

 徹さんはさも興味なさそうに言う。

 なんだか意外。あかりのお願いならなんでも聞くと思ってた。私のときは助けてくれたから。

「こら、無理やり話を終わらすな。透子を助けたのに私は助けないって言いたいの? あんたたち」

「・・・あ、俺そろそろ。明日早いし」

 無理やり話を変えようとした渡瀬に、あかりが目を向けた。この顔は怒っている時の顔で、説教モードだわ。

「あんた、男のくせに逃げるわけ。だいたい明日も休み取ってんでしょうが、逃げるんじゃないわよ」

 どうして人の休日を把握しているのだろう?

「じゃあ、僕はそろそろ金魚鉢たちを磨かないといけない時間なので、これで・・・」

 金魚鉢たちってなに? そもそも毎日磨くものなの?

「とーるちゃん。あんたの金魚鉢コレクションの多さは知っているわよ、でもあんた。コレより金魚鉢を取るの? いいの?」

 そう、まるで脅すような口調で一枚の紙切れを取り出したあかりは、こそこそと彼に耳打ちしてその紙を渡した。

 それを受け取った彼は、一瞬石のように固まって、けれど次の瞬間には笑顔で私に振り向いた。

「もちろん、困っている人を放っておくわけないじゃないですか。あはは」

 満面の笑顔が、なんだか怪しい。

「おい、それは賄賂・・・・あ、いや、それよりも。そうだな、じゃあこの一件はあんたが頑張ってくれ。今のは見なかったことに・・・」

 わいろ・・・?

 渡瀬は最後まで言葉を紡げなかった。あかりが邪魔をしたから。

「わたせくーん。これ、なあんだ」

 あかりは渡瀬にも渡した。彼の肩がびくついたのがわかった。

「・・・一応、聞くが、これの出所は」

「私のお願い、きいてくれるのよね?」

 あかりの笑顔が大魔王のように見えたのは私だけではないはず。

・・・いったい何を渡したんだろう?

「透子さん、気にしてはいけませんよ。透子さんは真っ直ぐに生きてくださいね」

 いきなり何を言い出すの、しみじみと。

「あ、それ高校の先生にも言われたわ。懐かしい」

 もう何年前だろう? 考えていたら、ポンッと肩を叩かれた。

 まるでお年寄りが日向ぼっこしているような嬉しそうな、のんびりしたような顔で頷く徹さん。何が言いたいのよ?

 ちょっと、その初孫の行動をいちいち喜ぶおじいさんのような顔で笑わないでよ。

「それで、何を渡されたの?」

「え? 何のことですか?」

 ふふふん、と笑う徹さん。これって、誤魔化しているつもりなのかしら?

 聞かないほうがいいの? そう思ってジッと見ていると、嬉しそうに目を細めた彼の顔があまりにも幸せそうで、やっぱり余計なことは聞いてはいけない気がした。

 つーか正直聞きたくないような・・・

「あんたたち、幸せふりまいてんじゃないわよ」

 あかりに睨まれた。ひどい、べつにふりまいてないのに。

「あかりさん、人の恋路を邪魔したら馬に蹴られますよ」

「そのまま刺身にして食ってやるわ」

 あかり、あんたどこまで強いの・・・あ。でも桜肉食べたいかも。

「ふふふん」

 徹さん、その笑いはなんですか。まるで「受けてたつ」とでもいうような胸を張った態度はなんですか。

「じゃあ、頼んだわよ」

 そう言うと、あかりは一人で頷いた。

 だれも彼女には逆らえない。私は笑いながら二人の男の様子を見ていた。ニコニコと笑顔を浮かべて紙を見る徹さんと、肩を落としたまま膝を抱えて沈んでいる渡瀬。

「はい、お任せください」

「・・・くそっ」

 それぞれ返事をして、あかりが満足そうに笑った。けれどどこか、安心したような。

 そんな様子を見ながら、ぼんやりとこの男達とはまだしばらく付き合いが続きそうだと思った。

 下着泥棒からはじまった出会いだったけれど、下着のランクとか、金魚鉢男とか、女嫌いの料理上手とか、夜中の苦いコーヒーと変質者、そして激辛ラーメン。

 なんだか、短い期間だったはずなのに、とても古くから彼らを知っているような不思議な感じ。






 季節は冬。

 初雪がふる、寒い夜のこと。携帯についた金魚がまるで、笑っているように見えた楽しい引越しの後の夜。


 後日。あかりから八橋さんに渡された賄賂が、私の高校時代のセーラー服(明らかな盗撮写真)だったことで、二人には正座で一時間もお説教をしてあげた。もちろん写真は没収したが、次の日には笑顔だった八橋さんの顔を見ると、賄賂は他にもありそうだ。いつか必ず全て処分してやる。

 ちなみに、渡瀬に渡されたのは、彼の幼少時の恥ずかしい女装写真だったらしく、一週間ほど落ち込んでいた。職場でもめっきり口数が減ったらしい。ちょっと可哀想だった。

けれどそれはまた、別のお話・・・

 






第一章 閉幕 

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