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金魚鉢とわたし  作者: aー
金魚鉢とわたし
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第二十話 バイトのあの子は爽やかだけど一言多い

「・・・赤い」

 彼の呟きは当然だろう。

 注文した、赤トンコツのスープは、その名前の通り赤い。唐辛子がたっぷり入っているから。

「でもそんなに辛くはないですよ。辛さが足りないならそこにあるキムチ高菜を入れるといいですよ」

 各テーブルには高菜の入った箱と、ラー油やコショウ、箱ティッシュが置いてある。

「・・・辛いもの、好きなんですね」

「不味くなければ、基本的になんでも食べます」

 いただきまーす。と元気良く言って、赤いスープをレンゲですくう。うまい。

「あ、赤いのは表面だけで、中は白いんですね」

 スープを楽しみつつ、ちらっと徹さんをのぞくと、不思議そうにこちらを見ていた。

「なんですか」

 目が合うと、ニッコリ笑われた。この笑顔を見ていると、女としての自信がなくなるのは何故だろう。

「いえ・・本当に、嬉しそうに食べますね」

「美味しいものは別腹ですよ」

 そこでミニ鉄板チャーハンとギョーザがきた。

「以上で、ご注文はお揃いですか?」

 爽やかな笑顔を浮かべる店員が、無駄に明るい声できく。

「ええ、大丈夫よ。・・今日はなにかいいことでもあったの? 楽しそうね」

「はい、やっと恋人が出来たんですね。おめでとうございます!」

 それだけ言って去っていった。

・・・あの子、本気で殴ってもいいかしら。

「ぷっ」

「徹さん、殴りますよ。一発といわずに」

 ピタッと無表情になった。

「なんですか、今度は」

「もう一度」

「はあ?」

 すっとんきょうな声が出たけど、仕方ないわよね。

「もう一度、呼んでください。いいですね、名前を呼ばれるのって」

 殴る気も失せた。この人、本当に・・・

「寂しい人ですね」

「あ、酷いなあ、ガラスのハートですよ」

 いつの時代だ。キンキか。キンキのファンか。

「それは、繊細なハートですこと」

「そうなんです。だから優しくしてください」

 ・・・やっぱり、殴りたい。

「すみませーん。ミルクソフトくださーい」

 食後のアイスクリームを頼んで、徹さんを無視した。

「ところで透子さん。けっこう乱暴な性格ですよね」

「徹さんは間違いなくエムですよね」

 そこでアイスが届いた。

 アイスクリームを受け取って、空いた皿をさげる店員に会釈した。

「おいしそうですねえ、一口ください」

 そのまま勝手に食べてしまう。しかも、男の一口はかなり大きい。

「ああああぁ! 半分も食べた! まだ全然食べてないのに!」

 残っているのはコーンの部分だけって・・どんな嫌がらせよ。

「怒ってるんですか。エムとか言ったの」

「あ、この後どうしましょうね。どこか行きたいところありますか」

 今、完全に無視された? ちょっと、何気に傷付くんだけど。

「別にないです。あー、コーンがおいしいなあ」

 どうしてコーンの先までアイスが入ってないのかしら、納得できないわ。

「そろそろ帰りましょうか、もういい時間でしょう」

 どういう意味かと思い徹さんを見ると、ふわりと笑顔を向けられた。

 女より綺麗な笑顔ってどうよ。いや、笑顔で誤魔化すっていうはもっとどうよ。

「それで、美味しかったですか?」

「はい、とても。少し驚きましたけど、楽しかったですよ」

 驚いた?

「じゃあ、行きましょう。あ、今度はフレンチおごってください。飲み付きで」

 強引に伝票を奪うと、レジに向かう。

「あ、女性に出してもらうわけにはいきませんよ。待ってください」

 慌てて追いかけて来る徹さん。

「大丈夫ですよ、だって何倍も高いフレンチ期待してますから」

 目を輝かせて言うと、さすがに彼は動きを止めた。

「・・・ご、ご期待に沿えるよう頑張ります」

「それ、普通目を合わせて言いません?」

 笑顔が眩しい店員が手早くレジを済ませてくれたので「ご馳走様です」と告げて店を出る。後ろから「ありがとうございましたー」と元気のいい声が追ってきた。


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