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金魚鉢とわたし  作者: aー
金魚鉢とわたし
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第一話 下着泥棒


 近所で出没していた下着泥棒が捕まったらしく、警察から電話がきたのは、そろそろ秋も深まるころだった。

 事件が起こったのはその数ヶ月前の四月も半ば。

就職して三年目になる今年、ようやく親元を離れ一人暮らしを始め、生活になれた頃の出来事だった。

 その夜、仕事で疲れた体を引きずって洗濯物を取り込もうと窓を開けた。その日は遅出だったから午前中に洗濯した。普段は夜仕事から帰ってきてからするのに。

 はたして、洗濯物は夜の風に当てられて少し湿っていた。二枚のバスタオルに一枚のハンドタオル。ハンカチが何枚かあって、ストッキング、それから下着、と目を向けたときだった。お気に入りのブランドの、ワンセット二万五千円もするいわゆる“勝負下着”、以下シンプルなティーブラとショーツのセットまで、綺麗さっぱりなくなっていた。

 穏やかとは言えなくもない春の陽気、確かに昼間風は強かった。だからといって風に飛ばされたなんてことはないだろうが、反射的に下を見て確認した。

 アパートの二階、一階に住んでいるのは男子大学生が一人、大丈夫、下には落ちてない。道路にもそんなものは落ちていなかった。

「うそ・・あたしの二万五千円!」

 一週間ほど前の回覧板で、下着泥棒の被害について載っていたけど、まさか私が狙われるなんて!

 女性の社会進出が当たり前のような時代になった昨今、それでも女と男の給料の差はハッキリしている。デパートの販売員のしがない給料で、一枚二万五千円の下着は贅沢品だ。その他の下着がワンセット三千円ぐらいの安物であろうと、計算するとかなりの損失になる。

「明後日デートなのに・・給料前なのに!」

 デート前に綺麗に洗いなおしておこうと思った自分が馬鹿だった。今まで通り箪笥の中で眠らせて置けばよかった。

 翌日は土曜日、新しい下着を買いに行くことは出来る。でも給料前であんまり贅沢したくないのも事実だ。

 どうせなら素敵な下着で、素敵な女を演出したい。

 そしてなにより、

「下着は部屋干ししとくんだった!」

 わけのわからない泥棒に、自分の、しかもお気に入りの下着を盗まれる日がくるなんて思ってもみなかった。

そもそも盗んだ下着を犯人はどうするんだろう。自分で使うんだろうか、それとも売り出すのだろうか。世の中にはそういうお店があるんだって前にテレビで言っていた。いやそれ以前に、犯人が使うと言ってもどうやって使うんだろう?

 それ以上は考えないようにした。

 知らない変態がどう下着を使おうと、たとえ犯人が捕まろうと。いやむしろ捕まらなければ犯人意外に下着を見られることはないのだろうか。警察に見られるのは恥ずかしい。

せめて格好良い男ならいいけど、むさ苦しい、ヤクザ顔負けのオッサンなどに見られるのは絶対いや!

 警察に連絡すべきか、やめておくべきか考えた結果とりあえず近くに住む友人に連絡した。

「警察にいっても恥ずかしいだけじゃない? どう説明すんの、きっと下着を外に干すからいけないんだって言われて嫌な思いをするだけよ」

 高校生のときにストーカー問題で警察にお世話になった友人、瀬戸(せと)あかりの言葉は、どこか頷けるものだった。

「で、でも・・」

「忘れなさい、それが一番よ。明日買い物付き合ってあげるから、ね?」

 優しく言われて涙が出た。

「だって、気色悪いオヤジが自分の下着使ってやらしーことしてるなんて四六時中考えるの嫌でしょ?」

 その言葉に涙がひっこんだ。顔から血の気が引くのがわかった。

 言うなよ、せっかく考えないようにしてるんだから!

「明日の昼はあたしのおごりよ、パーッといきましょ」

 余計な言葉をのぞけば、彼女の言葉はとても心強かった。



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