第十八話 ちょっと怖いんで潤滑材ください。
「今日はどうでしたか?」
とか、
「明日は来られそうにありませんが、明後日なら都合がつきそうです」
とか、
「ふふふん、渡瀬くん。ちょっとそこ邪魔ですよ」
とか、
「あ、この梅昆布茶おいしいですねー」
とか。
だんだん横にずれていく話をききながら、また来てくれるんだとぼんやり思った。
この二人仕事は大丈夫なのかしら?
「そういえば、全国で起こっている連続殺人のニュースはご存知ですか? 知多にいる知り合いが連絡してきたのですが、どうもまだ続きそうですね」
知多にいるって。八橋さん友達いるんだ・・・
「一応、狙われているのは未成年のようですが、被害者は全員女性ですから透子さんも気をつけてください」
未成年っていうか、女子高生じゃなかったけ。私はないだろう、いくらなんでも。
ここ最近ニュースを騒がせるのは、女子高生を狙った連続殺人事件だ。
被害者は三人。みんな女子高生で、最初は大阪、次は北海道、そして宮崎県とばらばらの場所で起きているにもかかわらず、連続殺人事件として扱われているのは、被害者の遺体に共通点があるからだってテレビで言っていた。
被害者達に面識は、今のところないとされていて、けれどその身体には共通して両目が抜き取られている。
「大丈夫です。そんなのより今は変質者のほうが怖いし」
テレビで流れるニュースは、どうも現実感がなくてよくわからない。
同情はしても一瞬だけ。新しいニュースが流れるたびに、古いニュースは忘れていく。現代人の習性なのかもしれない。
「そうですねえ、変質者・・・」
「金魚鉢に言われると変に現実味があるな」
また睨み合いをはじめた二人を横目にテレビをつけると、昨日の朝に発見された四番目の被害者の顔写真が映った。まだ、中学生ぐらいにも見える女の子は、今年高校に上がったばかりの素朴な子。場所も、また以前と別の場所だ。
事件は、約一週間間隔で起こっている。
「犯人はロリコンね、絶対」
私の言葉に、男達は睨み合いをやめてこちらを向いた。
「どういう理由で?」
「なんで急にそうなる」
八橋さんは純粋に首をかしげ、渡瀬は訝しげに見てくる。ちょっと、その視線はいくらなんでも不躾というものよ。
「だって、幼い子ばかり狙ってるじゃない。きっと、制服マニアなうえにロリコンなのよ」
渡瀬が、それは相手が腹立つような深い溜息をついた。
なによ、本当に感じの悪い人ね。
「そうかもしれませんね。けれど、だとしても、どうしていつも場所が決まらないのか」
おお、ロリコン説は否定されなかった!
「そんなことは、俺達の知るところじゃない。素人が関わっていいことでもない。あんたは自分のことだけ考えてろよ」
この人、さっきから口調がぶっきらぼうすぎるわ。
「渡瀬君、女性に対する口の聞き方を学んではいかがですか」
「今は仕事中ではないですから拒否します」
この二人、絶対仲悪い。
明後日はって言ったくせに、八橋さんが現れたのはその一週間後だった。