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金魚鉢とわたし  作者: aー
金魚鉢とわたし
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第十話 突撃お宅訪問!

 結局、職場には体調不良で病院に行くといって半休を取った。実際、最近は心配事のせいで顔色が悪かったのか、同僚も上司も嘘とは思わなかったようだった。喜ぶべきか否か。

 あかりが来る前に簡単に掃除を終えて、お茶で一息つく。

 突撃お宅訪問って、宣言したら意味がない気もするけれど、時間指定しなかったぶん確かに突撃なのかもしれない。

「助人って誰だろう」

 怖い人じゃないといい。

 ヤクザとか、人に言えない仕事をしている人よりも、むしろ一見誠実そうな人のほうが怖い時がある。

「警察二十四時は好きだけど、あの口の悪さは怖いわ」

 口の悪さは人のこと言えないけど、みんなこんなものだろうと思うことにする。

 ワンルームのアパートはお世辞にも広いとはいえないけれど、そこここ住みやすい広さはある。

 女の一人暮らしだからそう荷物もない。幸いショッピングは嫌いじゃないけど趣味とも言えないので荷物は増えない。

 コンサートに金をかけるアーティストはいても、グッズ等は集めていない。

「なんて安上がりな私」

 一人暮らしするようになって、独り言が増えた気がする。

 彼氏もいなければデートや服やホテル代に金を使うこともない。気ままな一人暮らしは、しかしあかりに言わせれば寂しいらしい。かくいう彼女も、休みの度に付き合ってくれるのだから人のことは言えないと思う。

 そのとき呼び鈴がなった。あかりが来たのだろう。相手を確認せずに玄関のドアを開けた。

「うわっ、危ないですよ!」

 目の前にはガラスに映った自分の顔。そして聞きなれない男の声。

「・・・は?」

 なんだ、この丸いガラスは。自分の顔が丸く伸びていつもより不細工だ。

「もう、いきなり出てこないでください。壊れたらどうするんです」

 前回よりはかなり小さいが、明らかにこのガラスは金魚鉢だった。今日の金魚鉢は手のひらサイズの可愛らしいものだった。

 オールバックの髪は下ろされ、眼鏡をかけた顔は知的に見え、スーツは紫のブイネックセーターに変わっていた。

「誰かと思った」

 あの体育館で出会った、あの変人が目の前に立っていた。

「人の話を聞いてください」

 深い溜息を隠しもしない。

「突撃お宅訪問は驚きがあったほうがいいと思って」

 八橋さんの後ろから、ひょっこりあかりが顔を出した。いつものお洒落な服装ではなく今日はスーツだ。彼女も仕事だったのだろう。

「驚いたわよ!」

 思わず叫ぶ。

「・・・近所迷惑」

 小声で呟く八橋さん。

あんたは黙ってらっしゃい! この金魚鉢マニア!

「あかりさん?」

 わざとさん付けで呼ぶと、あかりは場違いなほどに明るい声で返事をした。

「は~い」

「ちょっと来て!」

 金魚鉢男を無視してあかりを部屋に連れ込んだ。勢いよくドアを閉める。

「何であの人!」

「やあん、近いわ透子ちゃん」

 気持ち悪い。

「あ、ちょっと。友達に対してその視線は酷いわよ。せっかく助人を連れてきてあげたのに」

 助人って、あの金魚鉢が?

 確かに警察官だ。力強い味方かもしれない。でも、よりにもよってあの金魚鉢?

「・・・よく来たわね。あの人」

 もう文句を言う気も起きない。でも、なぜよりにもよってあの人?

「あら、お友達になったのよ。警察官のお友達って重宝するわよ」

 その重宝の中に私も入っているのだろうか・・・?

 かなり気になる。

「それに、あの金魚男。結構頭いいわよ。本当よ?」

 頭はよくてもなんとなく頼りない。だって金魚鉢。

「まあ、様子を見てから決めなさいよ。頼るかどうかは」

 うう、そう言われると弱い。確かに、間違っても警察官だ。多少は役に立つだろうけど。でも金魚鉢だ。

「使えるもんは使っておきなさい」

 いいわね、と迫られて思わず頷いてしまった自分が悲しい。


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