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不確

 私の名前は柏木雪。青春真っ盛りの高校2年生だ。今は体育館でマット運動をしているんだけど。いやしていたんだけど。

 友達が変だ。なんか剣を持ってる不審者のリーダーみたいな人と剣で勝負してる。相手は20代ぐらいのお兄さんで王子様って感じのチョーイケメンなんだけど目が怖い。目がね、血走ってるんだよ。切羽詰まってるって感じ?


 なんでお前危ないもん持ってんだよってことなんだけどお兄さんは元から持ってたし友達は持ってなかったんだけどこれまた突然体育館にやって来た不審者B(絶賛気絶中)から剣を勝手にとっちゃったんだよね。マジあんた何やってんの?意味わかんない。


 さっきまではいつも通りだったのよ。マット運動で開脚前転なんてできるわけないじゃんって笑いあって上手い子が綺麗に回るのを見てオォ〜とか言ってたのに。

 なんか体育館の端が青くボヤ〜っと光ったかと思ったらいっぱいそこから人が出てきた。追っかけてる人達と追われてる人達みたいでイケメンが率いるイケメン軍団が出てきたと思えば今は気絶してる不審者Bが「待てやゴラー!」って叫びながら仲間を引き連れてきた。これを不審者B団とでも呼ぼう。イケメン軍団っていっても剣を持ってる人以外は普通っていうかおっさんが多いから語弊があるかな。


 で、体育館のド真ん中でイケメンが「決闘だ!!」とか追っかけてきた不審者Bに向かって言い出した。それまで唖然として状況を見ていた私達生徒もキャーとか叫んで端っこに逃げる。その時は友達も一緒に逃げてた。そういえばなんかちょっと顔が青白かったかな。


「おっしゃあっ!かかってこいやああ!」とかノリノリで言ってたのに私達の方をふっと見たかと思うと顔色を変えてこっちに歩いてくる。え、何!?ってドヨドヨってなる私達をよそに不審者Bは友達の肩を掴んで友達の体を揺さぶり始めた。

 教師が血相を変えて不審者Bの手を離そうとしたけど手先だけで突き飛ばされてた。あれゴリラみたいな教師なんだよ?熱血系でウザいんだけど面白いからまだいいかなみたいな?それが片手だけであしらわれるんだから何あの不審者B怖い。てかミカあの不審者Bと接点あんの?いが〜い。と回りの子が言っている。あ、ミカっていうのは友達の名前ね。いちおう私とミカは幼稚園児の頃からの付き合いなんだ。


 ミカはちっさい頃は外で遊ぶ子で運動神経もバツグンでマット運動も縄跳びもかけっこもなんでもこなすクラスの人気者だった。それが中学になれば剣道部に入って大会に必ず出るメンバーの一人になっていた。でも性格はよかったけどオタク?剣道の練習をやってない時は漫画とかアニメを見ていた。髪型とか化粧もまったくしなかったから気色悪がられてた。勉強はできない馬鹿だったけど運動神経だけはあいかわらずよかったから運動会とかでは重宝されてたけどそれだけだ。私もその頃には他の子と一緒にいて付き纏ってくるミカを嫌っていた。だってキモいし。


 それが高校受験をして行く所が同じ学校ってママさん情報で聞いた時はすごくうんざりした。なんでまた一緒なの?いい加減付き纏われるの嫌なんだけど。


 そんな私の気持ちとは逆にミカは私に寄ってこなくなった。

 ボサボサだった髪の毛もきちんと梳いて薄っすら化粧もするようになったミカは可愛かった。何それ高校デビュー?可愛い可愛いって褒められてるミカを気に食わなかった私は中学時代のミカの写真とかを見せてミカが他の子に避けられるようにしたけどそのうち逆に私がみんなに避けられるようになった。イジメではないけど明らかに避けられて。

 あいつスゲー馬鹿なんだよ、って私が言った次の中間テストではミカが全科目一位になっていた。は?なんで?私はまったく意味がわからなかった。だって底辺だったミカだよ?

 もうひとつ私が驚いたのはあんなに運動神経良かったのにミカはまったく運動が出来なくなっていた。いつも6秒題をキープしてた100メートル走も9秒題ギリギリだった。


 一気に女の子っぽくなったミカにいらいらして一年。ミカの肩ほどまでだった髪もだいぶ伸びて腰あたりまであるサラサラヘアーになった。今では他の子に囲まれて笑ってるミカをハブろうとした私は2年になっても避けられたままだ。だから青春真っ盛りっていっても楽しいわけじゃない。


 不審者Bに肩を揺すられるミカは真っ青な顔だ。


「お前が勝手に中身変えてくれたお陰で俺がどれだけ苦労したとおもってんだ!まあこっちは意外と楽しいからいいけどっ!それと髪伸ばした?お化粧してるし!スゲー!」

「良かったですね。私も勉学に集中できるようになり非常に嬉しいです。

 髪や化粧に関してですが貴方は大雑把すぎます。髪とか風呂あがりに乾かしていなかったでしょう?」

「テヘッ、バレちゃった?短いからいいかな~っておもっててさ。」

「よくないです。髪は傷みやすいのですから。ですが今の貴方には必要のないことですね。」

「まあな。野外活動とかで3ヶ月風呂に入らないとかよくあるしな。」


 ミカは頭を振られながらもニコニコ笑って話している。だんだん不審者Bと会話が弾み頭が近づき……ゴツンと二人の頭がぶつかった。


「うわっ!イタっ!」

「いってええ!!」


 はっと二人は顔を見合わせる。


「「入れ替わった!?」」


 すると不審者Bは頭を抱えだしミカは腕を組んでキリッと立つ。


「貴方お酒を飲み過ぎです。どれだけ飲めばこんなに頭痛がするんですか。」

「記憶がないからわからん。」


 頭を抱えたまま屈みこんだ不審者Bを不審に思ったのか不審者Bに続いて来ていた不審者B団のうち目つきの悪い人が一人こちらに来た。


「おい!これから討伐戦だろうが!何勝手に倒れてんだ!」


 そう言うと不審者Bを蹴りだした。えぇ?これっていくらなんでも不審者Bかわいそうじゃない?なんか体調悪かったみたいだし。


「い、痛い!突然何するんですか!って隊長!?」


 不審者Bがゲホゲホ言いながら驚いている。


「酒の飲み過ぎで頭がダメになったか?去年の式典でお前が俺に勝ったのを忘れたのか?」

「えっ!僕勝ったのですか!」

「僕……?お前なんかさっきから変だぞ。よく喋るし一人称が僕とは。一年前までのお前みたいだが。」


 不審者Bを蹴るのをやめた男はボソボソと何か言ってるけど意味不明。


「討伐戦、どうすんだ?お前じゃ戦えないだろ。」


 不審者Bを見下ろした上で発言するミカ。ちょっと!あんたが関わることじゃないでしょ!?


「何を言っている。これは最少年で隊長になった男でなぁ、」

「うん、そうですね。僕には無理です。剣とか持ちたくないですし。僕が持つのは一生ペンでいいです。」

「何を言い出すかと思えば、」

「ほらみろやっぱそうだよね。もう一回入れ替わるにはどうすりゃいいんだ?」

「僕が転魂紋を紙に書くからその間待っててくれればいいです。ぐほっ!」


 二人に無視され続けた男は不審者Bの背中を蹴る。なんか鬱憤たまってるのか蹴りまくる。暴力はんたーい!痛そうだぞー!


「何が僕には無理だ。毎日毎日酒場で倒れては俺に書類処理ばかりやらせやがって。ん?気絶してる?そこまでのもんだったか!?おい!!」

「ダメだよ副隊長。こいつ中身が俺じゃないから。」

「何を言っているんだ、」

「あんたじゃあのバカ坊っちゃんの相手すんのはキツいだろ。こないだまでは仕えてた人間なんだからな。」


 うっと言葉に詰まる男には何も言い返せないようで。ミカは気絶していた不審者Bの腰からマントと剣を抜き去るとイケメンの前に立った。


「お前の相手はこの俺がしてやろう!」


 偉そうに剣を相手に突きつけたミカは勝つ気満々みたい。あんなに細い腕や体でたぶん鍛えてるイケメンに勝てるって思ってるのね。


「いいぞ!もちろん僕が勝つ!」


 女の子相手に何勝つ宣言してんのよ。勝つに決まってんでしょ。


「ほら、いつでもかかっておいで!」


 余裕しゃくしゃくで剣を振り回すイケメンだったけど急に前のめりになって私達の方に顔を何回も床に打ちつけながら滑ってきた。


「!!」


 ガアンッと床に突き刺さったのはクナイ?しかもイケメンの顔の真横!ちょっとかすったのか赤い筋がほっぺについちゃってる。


「貴様アア!僕の顔にこんなことをしてもいいと思っているのか!剣で勝負だっ!」

「どうでもいいかな。」


 顔をおさえてわめくイケメンは怒りすぎてイケメンじゃなくなってる。残念。

 だから最初に説明した剣で勝負してるってわけ。授業とかはっきり言って暇だから潰れたっていいから見ておく。


「怖がったって逃げたってだめだぞ!絶対逃さない!」

「顔に自信ありすぎだろ。」


 そうしてやれやれと言ったミカは剣を振る。数回素振りした彼女は


「筋肉がない。」


 と呟いてから剣を鞘に戻した。


「どうした!僕と戦う気がないって?関係ないね!」


 叫ぶイケメンは剣をミカに振り上げる。クラスの女の子達は悲鳴をあげたけどミカは自分の持つ剣の鞘でイケメンの剣を払った。


「ちょっ、ちょっとできるからいい気になるなよ!」


 ガンガンと剣を打ち合う二人はいい勝負だ。ミカはひと回りもふたまわりも体格が違うのによく耐えるわね。

 ほ〜っと感心して見ているとミカはさっとイケメンの後ろに回り首筋を叩く。あっさりと勝負は決まってしまった。


「副隊長、縄で縛っといてこいつ。いい加減起きなよあんた。」


 ミカはそう言って不審者Bの鼻をつまむ。1秒、2秒、3秒……


「ぷはあっ!なにするんですか!」

「早く転魂紋とかいうのを書いてくれよ。いれかわんなきゃまずいだろ。」

「わかった。」


 体育館の床に何かを書き始める。学校の物なんだけど?


 何かを書き終えるとぼうっとミカと不審者Bの体から青い人型のものが出てくる。ミカの中からは一年前までの髪の短い青いミカ。不審者Bの中からは今よりも髪が長くて肩のあたりでくくってる不審者B。眼鏡もかけてる。

 それが互いの体に入ったかと思うと不審者Bは動き出した。


「帰るぞ。」

「待て。説明しろ。わけがわからん。お前はあのちびっ子でちびっ子の中に入ってるのは一年前までのヘタレなお前なのか?」

「説明?知らん。」


 ぞろぞろと不審者Bは仲間を引き連れてさっさと元きた場所に戻っていく。イケメン軍団も縄で縛ってつれていった。


「ちょっとミカどういうこと?さっきのは何だったの?」

「ねぇミカってば!」


 先生や生徒に囲まれた彼女はにっこりと笑って手をふった。すっと意識がなくなっていく。


 だからこれは記憶がなくなる前の私の記憶。

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