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その二『お札の家』三組/児玉秀弘

 この話しには犯罪描写(不法侵入)が含まれます。あくまでも創作なので、真似しないで下さい。

 藻茶市から××町に抜ける途中にあるって言うじゃん、お札の家。ちょうど●●町の道の駅より少し行ったとこ。去年の夏休みに兄ちゃんと二人で行ったんだよ。

 兄ちゃん、去年から大学生でさ、高三の夏休みに免許証取って、バイト代貯めて、大学入ってすぐのゴールデンウィークに中古で軽四だけど車を買ってさ。めっちゃ喜んでた訳。

 去年の夏休み、初心者マークも取れたばっかの頃だったかな。兄ちゃんバイトも休みで、俺も部活なかったし、退屈だったからドライブでも連れて行ってくれよって頼んだんだ。兄ちゃんもちょうど暇してたから、

「いいぞ、●●の道の駅でも行こうか」

 って言ってくれたんだ。ちょうど、道の駅に併設される形でコンビニが出来たばっかで、道の駅も色々と整備されたばっかの頃で、ドライブがてらにって。

 家は割りと仲良いんだ。年が離れてるからかケンカもあんまりした事ないし、男同士だってのもあると思う。とにかく、兄ちゃんにドライブに連れて行ってもらう事になった。

 道中は平和、のどかなもんさ。藻茶川沿いの土手道をのんびり走って、K町を抜けて、●●まではずっと山道。夏の陽射しはきついけどクーラーはちゃんとしてるし、窓を開けると涼しい風も入って来る。緑が多くて町中なんかよりずっと快適だった。兄ちゃんと部活の事とか色々話したぞ。うちの学校って運動部系あんまり強くないから、人数足りなくて一年でもすぐ大会出られる事とか。兄ちゃんはバイト先の居酒屋で実際にあった呆れたお客の話とか、大学の映画サークルに入ったけどダベってばっかりな事とか話してくれたっけ。道の駅でも出来たばっかな綺麗なコンビニだの、バイキング形式のレストランで●●産の野菜とか使った料理食いまくって楽しんだっけ。

 でも、割りとすぐに飽きて来る訳よ。K町まで戻ってショッピングモールのゲーセンでも行くかってなった時、思い出したんさ。藻茶市から××町に行く途中で割りと有名な廃屋があるって。

 夏休みに入る少し前に、当時同じクラスでオカルト好きな山名から聞いたんだよ、お札の家ってのがあるって話を。で、すぐに携帯で調べた訳。そうしたらすぐに分かった。山名の言う通り有名なスポットだったんだ。道の駅からもそう遠くないし、まだ昼食べたばっかで明るかったけど、行ってみる事にしたんだ。

 車を走らせてしばらく行くとネットに出てた通り、赤い橋があってそこを渡る、そこからしばらく行くと車を一台くらいなら止められるスペースがあって、チェーン張ってあるの。チェーンには立ち入り禁止って看板がかけてあるんだけど、簡単に跨げる高さなんだな、これが。その奥にはアスファルトで舗装されてない、両側に木が覆い茂る道が続いてた。コケだらけで石だらけ、何とかクロックスでも歩けるかなって感じだった。

 で、チェーン跨いで一歩道に足を踏み入れると、凄い空気が冷たいの。ひやっとしてさ、汗で少し湿ったTシャツのせいもあって一瞬背筋にゾクゾクって来るのな。でも、その時俺は、周りが木で覆われて日陰になってるし、木が沢山ある場所は涼しいし、風も吹いてるし、なんて色々と考えてた。人間ってさ、何とかして理解の範疇だと思い込もうとするじゃん。まぁ、冷静に考えれば日陰で木が多くて、風が吹いててシャツが湿ってたからなんだけど。

 それから少し歩き出してから気づいたんだけど、すげーワンワンって犬の吠え声がするんだよ。一匹や二匹じゃない犬の声。なのに、一匹も姿は見えないんだ。ほら、犬を飼ってる家の前を通るとワンワン吠えて来る声があるだろ、あんな感じ。こっちには飛び掛かって来ないのな。でも不安になって、二人とも気の棒を拾って振り回しながら歩いてた。

 十分も歩いてなかったと思う、向こうに小さなボロい小屋が見えたんだよ。噂によると、その小屋はダミーで更に大量の奥に進まないとお札の家には着けないらしい。その小屋だけでも充分不気味だったな。今にも倒れそうに傾いてて、ツルが柱だの壁だのにびっしり。窓は割れてるわ、小屋の床の辺りからは木が生えてるわで、廃屋ってのを初めて見たけど、めちゃ怖かったな。

 で、進まなきゃ本物のお札の家には辿り着けないらしいから、道を探したんだけど、ないんだよ。小屋より向こうは木がびっしり覆い繁っていて進めないの。で、どうしようってなった時、俺達は見てしまったんだ。小屋の奥の茂みとか木の間に人影が動くのを。小さくうずくまるみたいにガサガサ、ゴソゴソって。

「ヒデ、帰るぞ」

 兄ちゃんは俺に小さく耳打ちすると、俺の手を強く握って自分の方に引き寄せて大股で元来た道を歩き出した。とにかく早いの、スタスタって。ちゃんとした靴じゃなくてツッカケだったから何度も脱げそうになったけど、兄ちゃんは歩く速度を緩めなかったし、俺も怖くて早歩きしてた。だって、兄ちゃんの手がずっと震えてんだぜ? それから、ワンワン犬が吠えてるのは来た時と変わらずだったけど、それとは別にあのガサガサする音が追いかけて来たらどうしようって思ったけど、それはなかった。吠え声だけ。

 何とかチェーン張ってあるとこまで戻って、車に飛び乗ってエンジンかかった時、エンジンのギュルルって音に混じって、木や茂みが揺れるみたいなガサガサって音が被って聞こえたんだ。そして、怖くなって目を閉じると、車が走り出した。

 急いで帰ったし怖かったしで変な汗をかいたんで、帰りはK町のショッピングモールの中に併設されてる銭湯に行ったんだ。とにかく、俺も兄ちゃんも体を洗い流したくてたまらなかった。肌が赤くなるまでボディーソープで擦って、洗い流して、広い湯船に浸かってるとだんだん落ち着いてきて、少し話をした。

「どう見てもあの形は野犬じゃないよね」

 って俺。

「そうだな」

 って兄ちゃん。

「猿もあんなにでかくないよね」

「そうだな」

「人間だよね、あれ」

「そうだな」

 兄ちゃんは、そうだな、しか答えなかった。

「あれ、なんなの?」

「知らない。忘れろ」

 兄ちゃんはそう言うと、俺の頭を軽く撫でた。そうしたら安心して、忘れた方が良いような気になったんだ。

 その後、俺達兄弟は霊障とかはなく、怪奇現象も謎の発熱もなく一年近く普通に健康に暮らしてる。多分この先も何も起こらないと思う。

 あの人影の正体は未だに分からない。たまに何かの拍子で思い出して気になる事はあるけど、考えても答えは出ないし、兄ちゃんの言う通り忘れた方が良いと思う。ただ霊なのか生きた人間なのかは分からないけど、兄ちゃんはあの人影は俺よりはっきり見えたか、明確な答えを見付けたんじゃないかなって思う。だから忘れろなんて言ったんだと思う。

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