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ランナーズ・ハイ  作者: 灯月公夜
第二章 中傷
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06:「別にお前には関係ねえだろ?」

 ただでさえ眠いのに、退屈な授業続きにあくびが止まらなかった。もはや簡単とかそんなレベルじゃない。すでに別次元でそんな話では収まらなかった。環境によってこうも変わるもんなんだな。

 昼休みの時間になって、苦痛な時間から開放された俺は凝っていた肩を大きく回す。そのついでに北条香織を目で探すと、北条はすでに教室から出ようとしていた。なんとなく真由姉のアドバイスを思い出して、俺は北条の後を追ってみることにする。しばらく隠れるでもなく北条の後を尾行してると、北条はどんどん人気のないところへ移動していく。まあ当然と言えば当然だな。そんなことをぼんやりと考えていると、北条が振り返って俺を睨んだ。

「ねえ、今朝からなんなの?あたしになんかよう?」

「いや俺も特に用事があるわけじゃないんだがな」

「じゃあなんでついて来るのよ。ストーカーで訴えられたいわけ?」

「はっ、俺はただ後ろを歩いてるだけだろ。学校内を移動するのにストーカーもくそもねえだろ」

「それもそうかもね。残念」

 あまり残念に思ってなさそうな感じで北条が言う。

「で、だったら何?はっきり言って後ろ付いて歩かれるの鬱陶しいんだけど」

 北条が美しくも冷たい顔をさらに凍らせながら言う。そりゃ確かにそうだ。俺だったら振り返りざまに一発殴っている。

「なんつうの?俺はお前に興味あんだよ」

 理由をでっちあげるのもめんどくさくて、俺は思いついたまま答える。事実この通りだが、我ながら超適当な理由で笑える。

 俺の答えに北条が眉を顰める。

「なにそれ?あたしに惚れたかどうか知らないけど、鬱陶しいから止めてくれる?相手の嫌がることをしてたらダメだって小学校の時習ったでしょ?あたしはあんたに興味なんてないのよ」

「そりゃそうだ」

 俺は北条の歯に衣着せぬ心地良い言葉の刃に笑った。そのまま後ろを向いて、手をひらひらと振る。

「んじゃ、邪魔したな」

 北条は何も言わなかった。俺も振り返らない。後ろで足音が遠ざかって行き、あっという間に聞こえなくなった。



     ◆



 北条と別れた俺は瀬川に捕まった。手に入れたい女は捕まらないのに、どうでもいい男には掴まえられる。嫌な現象だ。

「大雅どこ行ってたんだよ!一緒に飯食おうぜ飯!」

 俺がまだ飯を買ってないことを伝えて断っても、

「じゃあ一緒に購買行こうぜ!」

 と引き下がらなかったので、俺はうんざりしながら了承する。相手の嫌がることをしたらダメというのは本当にそうかもしれねえな。

 購買部で適当にパンとコーヒー牛乳を買って、そこらへんに座って瀬川と飯を食う。

 瀬川が部活のことやこの間女子校と合コンした話などの中身のない空っぽな話を聞かせてきた後、北条の話になる。

「なあ、北条を買うって本気なのか?」

「そうだが?別にお前には関係ねえだろ?」

 瀬川が顔をしかめながらパンを頬張る。

「そりゃそうかもしれないけどさー。でも、俺はやっぱりやめといた方が良いと思うんだよ。だって、汚ねえ女だぞ?」

 少し言いずらそうにしながら瀬川は言った。その言葉には多少の気遣いが見えたが、どうでも良かった。

 ――汚ねえ女。

 その言葉の裏には色々な意味があるのだろう。親父たちに身体を売ってること。何十人と寝てること。高校のトップと寝て退学を回避している姑息な手段のこと。犯罪で金を稼いでいること。その一つ一つを思い浮かべて、だからどうしたと鼻で笑う。

「さっきも言ったが、お前には関係ねえことだ」

 俺のことも、もちろん北条のことも。他人がどう日々を生きていようが、俺には関係ねえしどうでもいい。詮索はするほうもされるほうもうざいだけだ。俺の人生にケチをつけるやつはたとえ親でも許さない。こうやって俺を心配してみせてる瀬川にだって、自分がやっていることで人から言われたら良い顔をしないことだってあるだろう。結局人間て奴は自分本位で勝手なんだ。だから、どうでもいいことなんだよ。

 そんな俺の内心をわかるはずない瀬川が、それでも何か思ったのか「そっか……」と呟いてパンを頬張った。

 それから話題を変えて、俺にバイトが決まったかと尋ねてきた。

「深夜のバイトやるとか言ってたけど、もう面接とか行った?」

「いやまだ行ってねえけど」

 昨日の今日で行ってるわけねえだろボケが。夜間のバイトも高校生は深夜働けねえとかで潰れたばっかりなんだよ。

 俺の心情をまったく察しない瀬川が喜ぶ。

「マジか!じゃあ駅前のコンビニなんてどうよ?駅前だから時給少しいいんだぜ。俺のコネで推薦してやるよ」

「コネ?お前に?」

「ああ、俺そこでバイトしてて店長とも超仲良いからさ。時給八百九十円。どうよ?」

 その言葉に俺は少し考える。時給八百九十円というものここらでも割かし良い方だ。瀬川がいるのがどうかと思うが、コネで面接で受かりやすいというのも正直ありがたい。バイト先が決まるのは早ければ早い方がいい。それだけ早く金を稼げて北条とヤレるからな。

 そう思った俺は、瀬川に体ごと向き直った。

「じゃあ、よろしく頼む」

 そう言って頭を下げた俺に、瀬川が戸惑いを隠せないようだった。

「な、なんだよ急に改まって……。じゃ、じゃあ、今日の放課後早速行くか」

「ああ、頼む」

 飛んで火にいる夏の虫。意外とこの昼休みは俺にとって悪くなかった。

そう言えば、少し前に合間を縫って、半年ほど前にネットの知り合いと協力して作ったオーディオドラマをYouTubeをあげました。

良かったらご視聴ください。


https://www.youtube.com/channel/UC1pZWdxREh4ihjzUL-c7Cog


もしもURLから飛べなかったら、「ラブコール」「オーディオドラマ」で検索すると出てきます。

そちらのHNは「幸多公恵」で、僕が脚本を書きました。

今回投稿した「ラブコール」の他にもう一つ投稿してたりするので、よかったら聴いてやってください。


それでは。

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