002 プロローグ(2)
――――オエリフィーア大国。
それは地上に5つある大国の中で最も強い勢力をもつ。4つの羽を持つ風車のような形をした国土には四季が順々と巡るために一つの国にいながら全ての四季を味わうことができる。また海が近いことから他国との貿易が盛んで、また商業もにぎわっていた。
若き国王の下、これまた若くして手柄を立てた鬼才な武官と文官がいる。そして彼らの下に多くの優秀な臣下が控えている。
この国は民に厳しい重税を課さない、むしろ飢餓に満ちている国民のために野菜の品種改良の仕方、人工日光を開発して提供している。
そのためか、人々は若き国王フレゼリク・ナタルニィアに忠信を誓っている。
「なんで兄さんは戦っているの」
蛍子は兄への疑問を口に出した。説明しながら興奮していたせいか、鼻息を荒くしていた太陽は我に返ると蛍子の方へ顔を向けた。
「そりゃ、友達のフレゼリクのためだよ」
「違うよ。私が言っているのはどうして兄さんが戦っているのかってこと」
先程と同じ意味じゃないかと首を傾げているのが分かる。
「だから異世界に住んでいない兄さんが何でわざわざ地上に住む人間の味方をしているの? 確かに私たちには翼なんてないよ。人間だもの。でも有翼人っていう人種も感情がある人間でしょ。交誼を結ぶってことは出来ないのかな。何年も戦い合って互いの種族を絶滅させるんじゃなくて共存はできないの?」
戦争、そう聞かれると嫌なものとしか浮かばない。これが歴史、とは頭で理解するもの授業で戦争のビデオを観ると気分が悪くなる。だって人間が生きている人間を土に埋めて、その上から踏みつける、なんて理解できない。戦争が無ければ今の日本が形成されなかったのは頭では理解するが感情では理解できなかったのだ。
今の日本には戦争は無いが異世界では違うらしい。
「いや、フレゼリクは話し合いをいつでも求めている。けれど有翼人は話を聞こうともしない。それが続けばフレゼリクだって否応なしでも話を中断せざるを得ない。あいつらは俺たち下等な人間に絶滅してもらいたいんだ」
「本当に? 確かに兄さんの話しを聞いててもフレゼリクさんっていう国王が努力しているのは分かるよ。でも、私は兄さんのことを言ってるの。兄さんは有翼人の人と言葉を交わしたことがあるの? ただ戦うっていう与えられた使命だけをしているんじゃないの? きっと兄さんが異世界に行けて魔法が使えるってことは戦う、じゃなくて有翼人と人間が共存できるように神様が与えてくれた力、なんじゃないかな」
久しぶりに饒舌になったせいか少し息が乱れたが言いたいことは伝わったはずだと思う。兄の手はまだ汚れていないはず、その手は奪うものではなくて守るものとしてあり続けて欲しい。だって、この手で蛍子は守られてきたのだから。
蛍子の言いたいことが伝わったのか、その証拠に太陽は優しげな微笑みを浮かべている。
「ああ、そうだな。俺も有翼人と話してみようかな。何か解決策が見つかるかもしれないしな」
「うん、それがいいよ。あとね、日光が無くても育てられる植物ってあると思うの」
じゃあ解決策でも考えよう、その国のことも教えてよとノートを取り出して自分のアイディアを書き入れてき、その日は過ごした。