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天と地の境界線  作者: 虹乃 咲
天の章
17/18

017 咎落ち


 突然黙ってしまった蛍子にどうしようかと慌てる。こんな話、年もいかない女の子に聞かせる話では無かったと思ったらしく会話を広げようとしているのがありありと見える。


「そう言えば君、話せないんだったよね」


 その不器用さに苦笑しながらも頷く。


「咎落なんでしょ、だからゲンじいの処にいるんだね。俺はその選択は間違ってないとは思うけど、もし王宮に見つかったら大変だよ」


 咎落とは何、どうして見つかると大変なの、王宮は人を助けてくれるんじゃないの。ソフィアやジェシが女帝は素晴らしい人って褒めていたのに。

 何故だか言いようのない不安が募る。


「ぎゅえ―ぎょぎぃ―」


 突然サヴェナが喚き出し、大きな体を揺らす。


「・・あぁ、分かっているよ。ごめんね、そろそろ時間だ」


 蛍子はサヴェナの鳴き声に握っていた拳をゆっくりと開いていった。

 名残惜しいというようにサヴェナは嘴を蛍子の手のひらに押し付け、甘えた声を出した。


「本当に気に入られたんだね」


 不安を隠せないながらもぎこちなく頷いた。


「咎落は王宮に連れていく決まりだけど君のことは見逃してあげるよ。そうしないとサヴェナが怒るからね」


 ウィンクをして自分もサヴェナに触り始めた。

 二人から触られてサヴェナは一層気持ち良さそうな声を出した。

 蛍子は自分の命を救ってくれたらしいサヴェナに感謝の意をこめて抱きついたのだった。


** * * *


「また来る、その時こそは色好い返事を期待してるよ」


 どうやら蛍子はサヴェナに気を取られていた間に話が終わったらしい。皇子の格好とは似つかわしくない家から出てきた。

 皇子とサヴェナを撫でていた蛍子と目が合った。しかし蛍子はすぐにその目を逸らした。

 お辞儀だけして中に入ろうと開いたままの扉に向かう。

 だが進めない。服が掴まれていたのだ、サヴェナに。


「きゅるるる」


「・・・」


 ぐい、ぐいっと嘴で引っ張られる。


「きゅう、きゅう」


「・・・」


 どうやら無言の蛍子が勝ったらしい。

 何度も蛍子に構ってもらいたそうに声を出し、何度も後ろを振り返りながらサヴェナは皇子の元に行った。


「おや、珍しいな。サヴェナが人を気に入るなんて」


「そうなんですよね。私も驚きました」


 青年が蛍子と話していた時とは違い丁寧な言葉で皇子に話しかける。

 当たり前だと言ったらそうなのだが蛍子は少し不満を覚えた。


「お前、名は?」


「あ―、この子は・・」


 名前を聞くのを失念していたらしい、聞いたところで話せなかったのだが。


「・・蛍子です」


「そうか。ではまたな、ケイコ」


 皇子はひらりとサヴェナの背に乗って、何か言いたそうな隊員を連れて去って行った。

 蛍子は姿が見えなくなった瞬間、緊張の糸をといて駆け込むように家に入っていった。しかし、ほっとするのも束の間、直ぐに緊張する。


「ゲンさん!!」


 椅子の上でぐったりしているゲンに駆け寄った。


「・・大丈夫だ」


 そう言いながらも呼吸が荒い。

 いつもの発作だ。蛍子は瓶から薬草を出し擦り潰して緑色の粉をゲンの口元に持っていく。


「すまない」


 ゲンは震える手で薬を受け取り一気に口の中に押し込んだ。

 普段は何とも無いのだが興奮したりして呼吸が乱れるとゲンは発作を起こすのだ。


「ゲンさん、皇子は何て?」


「知らない方がいい」


 それきり黙ってしまった。

 疲れているゲンには悪いのだが聞きたいことがある。少し躊躇したが蛍子は口を開いてゲンに尋ねた。


「ゲンさん、咎落って?」


「黒騎士の奴らに言われたのか?」


 ゲンの鋭い視線に戸惑いながら頷く。ゲンは未だ震える手をなんとか押えながらも呼吸を整えて口を開く。


「逆に仇となったか」


 震える片手で目を覆う。何故だかゲンが泣いているような気がして、そっと肩をさすった。


「咎落とは生まれから身体の一部が無くなっていたり、身体上に障害がある奴らのことだ」


 やはり、と蛍子は思った。

 ジェシの時も同じように皆、ジェシの腕が無いのを軽蔑して見ていた。


「何で咎落って言うの?」


「・・普通の人と違うからさ。人は自分と違う者を見ると嫌悪する。だから人と違った咎を背負い落ちていく者という」


 ゲンは言いにくそうにゆっくりと話した。


「でも・・」


 そういう人は少なからずいる。

 ゲンは頷いて先を重苦しい口調で進める。


「だからこの国はある措置をとった」


「もしかして『お恵み』ですか?」


 ソフィアもジェシも言っていた。

 働けない自分たちに仕事をくれるんだと。そして自分たちが働いた分、家族に支給されると。


「・・表向きはな」


 ゲンが吐き捨てるように言った。


「この国は咎落を無くそうとしている。ここには資源がたくさんある。広大な草原も、終わりが見えない森も。だが限りがある。そのため国が有翼人の制限を始めた。一家に子供は2人まで。それを破る奴は罰せられ・・」


 その後を濁らせた。成人もしていない蛍子に話すかどうか躊躇っているのだ。

 ゲンさんはぶっきらぼうな態度とは裏腹に本当はすごく優しい。

 だけど私は本当のことが、真実が知りたい。そうしないと何も分からないまま『天』で過ごしてしまう気がする。


「ゲンさん」


 蛍子の目を逸らしながらゲンは答えた。


「咎落と老人は、殺される」


 言っている意味を直ぐに理解出来なくて頭が真っ白になった。


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