誕生
ここは……どこだ。俺は……なにをしている。分からない。なにも思い出せない。ただ、意識がゆっくりとなくなっていくことだけを感じた。
俺は目覚めた。頭が痛い。そして、何故ここにいるのかを考える。
俺は高校生だった。アルバイトの帰りに信号無視をしてきたトラックにぶつかりそのまま死んでしまったようだ。しかし、いま俺は生きている。そのうえ、周りを見ても自分が知っているようなものは何一つない。薄暗い洞穴だ。さらに名前を思い出すことができない。これはどういうことだろうか。
そこで俺はふとあることに気づく。自分には人間だったという記憶があるのに、いまは人間にないはずのものがある、翼だ。しかし、俺はその翼を見ても驚くことはなかった。まるでそこにあることが当たり前であるかのように。少し前から記憶が戻り始めており、いまはこの姿になる前の記憶を名前以外すべて思い出すことが出来た。さらに、いまの自分の体についても能力などが手に取るように分かる。
そう、俺はドラゴンになっていた。
そして、そこまで理解したところで俺は戸惑いを覚えた。俺は何故ドラゴンになっているのだ。ここはどこなのだ。そう考えていると天から声が降ってくるような感覚がした。
『あなたは、選ばれたのです。普通ならばその場で魂は消滅して、終わりです。あなたは、その地で第二の人生を歩むことを許されたのです。』
いつの間にか、その声は聞こえなくなっていた。俺はその声を聞いた瞬間すべてを悟ることができた。そうして、元人間である俺はドラゴンとしての人生を送ることになった。俺は自分の体を確認する。まだ幼龍のようで能力はそう高くないようだ。というか、この辺りでは最弱の部類であるとも思えた。それほどに弱かったのだ。唯一救いなのはドラゴンの固有能力として火球を打てること。しかし、その火球も数メートル飛んだだけですぐに落ちてしまう。また、威力も弱そうだ。周りに親龍の姿は見えない。そもそもドラゴンとは生まれたときから一匹で生きていかなければならない種族であると分かった。
だんだんと頭の痛みが薄れていく。当面の目標はこの地で死なないだけの力を手に入れることだ。せっかくの第二の人生楽しまなければ損である。
「腹減ったなー。」
俺はそうつぶやいたつもりだったが、ドラゴンの言語なのか自分がなにを言っているか分からなかった。しかし、いまはそんなことを考えている暇はない。俺はこのまま何も食べなければ死んでしまうと本能で察した。
俺は自分が生まれたであろう場所、洞穴を抜けて外に飛び出す。すると、ちょうど目の前にウサギのような動物がいた。俺は食べたいという衝動にかられてウサギに火球を打つ。しかし、ウサギは気づいたようで、火球を避けこちらに突進してくる。どうやらただのウサギではないようだ。このままではやられると思ってもなにもすることができずに突進により吹き飛ばされる。
俺は空を舞いながらこれは死んだかもしれないと思った。いきなり襲い掛からず、相手をしっかり見極めてから攻撃すればよかったなと。しかし、そんな思いはかなわず、地面に打ち付けられる。そして、ゆっくりと意識が遠のいていった……。
_______________________________________
『あなたは選ばれたのです。』
ん?どこかで聞いたことがあるような……。
『普通ならばその場で魂は消滅して、終わりです。』
おいおい、冗談じゃねえぞ。
『あなたは、その地で第三の人生を歩むことを許されたのです。』
また、復活なのかよ!俺は思わずその声に突っ込みたくなった。俺、どれだけ選ばれてるんだよ。そう思いつつ周りを見渡す。二度目と同じようで薄暗い洞穴だった。
(今度は前回みたいなことしねーぞ。)
俺はそう心に誓い洞穴を出る。しかし、そこには思いがけない世界が広がっていた。見渡す限りの人、人、人。そんな世界に俺は洞穴にまた隠れる。幸い誰にも気づかれてはいないようだ。俺は洞穴の奥のほうを見る。するとそこには食料が置いてあった。見たこともないような果物だったが、本能で食べられると分かり、それを食べる。前回の失敗を糧に俺はまず情報を集めることにした。
そうして、俺は1週間ほど道行く人々の会話を聞き情報を集めた。食料はだいたい1ヶ月分あったので困らなかった。そして、かなりの情報を得ることができた。また、この洞穴は入り口が狭いので人に見つかるということも無かった。
まず、いま俺がいる国、王都フランシスタという街らしい。王都というのだからかなり大きい町なのであろう。そして、この世界は剣あり、魔法ありのファンタジー世界であった。魔物は多数いるが、人間と友好的な種族はほとんどおらず人間と敵対しているようだ。また、ドラゴンなどはかなり前にすべて滅びてしまったとされているらしい。なんでも、ドラゴンから取れる素材はどれも高価で乱獲されてしまったようだ。
俺は集めた情報を考えながらここをどう抜けるか考える。ドラゴンがすべて乱獲により滅びてしまっているということは、自分は最後の生き残りである。まあそれはいい。しかし、自分が最後の生き残りのドラゴンであるということは当然自分も高値で売らるわけであり、こんな人間だらけの場所に無防備に出ればすぐにつかまって殺されるなりなんなりされてしまうだろう。それだけは避けたい。しかし、なにかいい策が思いつくわけでもなく時はだんだん過ぎてゆく。
そして1ヶ月ほどたったときとうとう食料が尽きてしまった。このままでは餓死するしかない。しかし、このまま外に出てもすぐに見つかってしまうだろう。俺はこの1週間考えた計画で強行突破しようと考えた。できれば誰にも気づかれずに抜け出したかったがそれは無理そうであった。
俺は洞穴の出口の正面にある店をじっと見つめる。そして人が少なくなったのを見計らいその店に火球を打ち込む。うまく、点火したようだ。人が多少少なくなったところで放ったのですぐに気づく者はいない。火に人が気づくまで俺は細心の注意を払って、火球を放ち続ける。そして、火がある程度大きくなったところで店主が気づいた。
「火事だ!」
大通りだったので人々はその火事に慌て、多くの人の注目が火事に集まる。そこで、俺は洞穴から一気に飛び出し。大通りを走る。一月も経てば助走はいるが飛べるようになるだろうと思った。
「ドラゴンだ!チビドラゴンがいるぞ!」
何人かに気づかれたようだったがもう遅い。俺は翼を広げ、飛んだ。俺の予感は当たっていたようで空を飛ぶことができた。そのまま城壁を越えて近くにあった森に降り立つ。ようやく、安全な場所に逃げることができた。しかし、食料の蓄えもなにもないのでとりあえず狩りをしてみることにした。
見つけた。あのウサギだ。いまなら分かる。こいつには絶対勝てる。俺は火球を使うまでもないと思い、ウサギの前へと駆けて、対峙する。生まれたばかりのころはこいつと同じくらいの大きさだったがいまはその倍ほどある。ウサギは俺の姿を見るなり逃げていった。しかし、俺はウサギに一瞬で追いつくと鉤爪でウサギを切り裂く。そしてウサギは簡単に絶命した。俺は人間のころの記憶があるため生で食べるのは抵抗があった。そのため火を吹いて焼いてからそのウサギを食べた。
そうして、俺は森でウサギを狩り見つけた手ごろな洞穴にウサギを入れておく。この森には大したモンスターはいないらしく、ウサギが一番強いのだろうと分かった。この森で俺に敵うものはいなかった。そうして、森で暮らして1ヶ月ほど経った。
ドラゴンは最高位の魔物なので人の言葉などを理解することができます。