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来訪者
「飛び降りたのよ。ビルの屋上から。」
そう聞かされたのは、俺が目を覚ました翌日の午後。
仕事帰りの姉の言葉に、俺は言葉を失った。
「は?、飛び降りた!?」
「そう。あたしへの借金を返せなくなったあんたは死のうとしたのよ。」
俯きながら姉貴は悲しみに満ちた声でそう言った。涙を隠すためか目も閉じられている。
「いや嘘でしょ。俺借金なんかしてないし」
「忘れているだけよ。記憶喪失なんでしょ?他のことも忘れてるかもしれないじゃない。 特に、つらい記憶なんかは…」
「あのな~、俺が忘れてんのは、病院に来る直前だけなの。それ以外はちゃんと覚えてますから。
それに姉貴、嘘つくとき目閉じる癖まだ治ってないのかよ。」
「な~んだ、いくらかとろうとおもったのに…」
「で、本当のとこなんなの?」
睨みながらそう尋ねると、今度はちゃんと俺の目を見て姉貴は言った。
「同じよ。ビルから飛び降りたの。」