彼女の微笑み
生ぬるいホラーですが、グロ表現ありです。
彼女の微笑み
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自分の彼女が隣ですやすや寝ている。
コトがすんでお休みの彼女の髪を弄びながら俺は少し考えていた。
数日前に彼女は突然いなくなり、また帰ってきた。
ついに、自分も愛想をつかされたかとしずんでいた矢先、彼女が何事もなかったかのように帰ってきたのだ。うれしい限りであったのだが、彼女の様子が少しおかしい。
いつもはキスをねだらないのに。執拗にキスをねだる。
いつもは外に遊びに行こうというのに、今日は一日部屋でごろごろしてよう、という。
へんだな。
するりっと肌に手を滑らせると、彼女はかけているブランケットを肩まで引っ張り込んで紅いうっ血の跡を隠してしまった。
(ちぇっ。もう少しくらい見ててもいいじゃん。)
そう思ってブランケットをはがそうとすると彼女は唸って抵抗した。その力があまりにも強かったので、俺は観念してブランケットから手を話す。
彼女は安心したようにそのまま俺の分のブランケットを引っ張っていってしまった。
「しゃあねぇ、台所でラジオでも聞くか。」
ジーパンだけはくと、俺は隣接する台所に行き、冷蔵庫を開けた。
ビール缶を引っ張り出し、いい音をさせてあけて一気に飲む。はぁあ、と息をついてまだ中身が残っているのを缶をふって確認した。
ラジオの電源をいれ、聞きやすい局にセットした。
『昨日未明、また人が切り殺されるという事件が起こりました。今回の事件の被害者の身元はただいま調査中ということです。あ、ただいま新しい情報が入りました。被害者は○○町に住む。無職、神崎恵美さんで。帰宅途中に襲われたという……。』
俺は缶ビールを落とした。中身が床にこぼれて広がる。拾おうともせずに俺はラジオの局番をかえる。
『あれですねぇ、近頃人がさされて死ぬのが多いじゃないですか。今日も富谷さきさんが死んだんだって……。』『もしかしたら、彼氏取られるのが怖かったとか言う狂った女の犯行だったりしてねぇ。』『あははっ、もしかしたらトミーさんがおっかけられたいんじゃないのぉ?』『ばかな!俺は不倫無しの熟年夫婦だもん。』
わっはっはと、笑いが漏れる中。俺は一人固まっていた。
さきも恵美も今の彼女に内緒で昔付き合っていた女たちだ。
とくに神崎恵美は昨日飲み会であっていた。
笑顔で分かれた彼女が死んだことにショックを受けているのではなく、ラジオの司会がしゃべっていた言葉にショックを受けていた。
『もしかしたら、彼氏取られるのが怖かったとか言う狂った女の犯行だったりしてねぇ。』
まさか、まさかね。
「ゥウン」彼女が起きた。俺はあわててラジオの局番を変えた。
「どうしたの?こんな夜中に。」
彼女はブランケットをかるく身体に巻きつけてこちらをむいた。
「なんでも。」
おれは微笑みをかえした。
まさか、まさかね。
「ねぇ、どうしたの?」
彼女の違う意味で、心臓をドキドキさせる微笑が夜の闇に浮かぶ。
………まさか。まさかね。
彼女がゆっくりと近づいてくる。
「あたしのことすきでしょ?」
腹の辺りが熱くなった。そして、その熱が、ゆっくりと位置を移動して広がっていく。
ごとり、びしゃっ。
身体が倒れた。それは分かる。でも、なぜビシャリという音が聞こえたのだろう。俺は視線を自分の下半身に移した。
真っ赤だった。とりあえず、てらてらと黒光りするそれがびくびくと痙攣していた。
彼女が俺を見下ろしてなにかささやく。
ああ、ラジオの音が煩くて何も聞こえない。
『この数日、世間を騒がせている連続殺人犯は鋭利な刃渡り30cmの刃物で相手の腹部を切り裂くため、『切腹犯』と呼ばれて――――』
暗転。
5,6年前に別HNで書いた作品。
初めてのミステリーというかホラーを書きました。
人間の感情の醜さと美しさを表現したかったのかと。愛って響きはいいですけど醜い部分も兼ね備えてますから。それで恋愛で揺れる殺意と嫉妬を混ぜ込んだんです。ただラジオはこんなの流さないよなぁと自分で突っ込みいれてました。
文を書くのにいろいろ情報が足りなさ過ぎました。