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7、気になる男の子

『君、掌を差し出して舞い降りてきた雪、受け止めてたでしょ?

 ―――覚えてる。いいなと思って』


『早希、君をあきらめない』    


『いけない? 名前で呼んだら。

 僕は君とはもっと親しくなりたいと思っているんだけど』



 いきなりだけど、これは“大沢桐人迷言集”。

 “迷言集”の意味は、“私を迷わせる言葉集”ってこと。

 いつも大沢桐人は熱を帯びた言葉と行動で、私を翻弄する。


 隙を付かれて、うろたえたりしないように。

 惑わされて、困った状況に陥らないように。

 

 流されながらの絵のモデルの初日。

 何度もじぶんに言い聞かせて、私は美術室の扉に手を掛けたのだ。

 彼には、浩平と一緒にいるときのような安心感や開放感がない。

 他の男の子の口からは絶対に出そうにない言葉の数々。

 そんな言葉に振り回されたらダメ。

 

 だけど、意外にその日、大沢桐人はいつものように私に絡むことなく、むしろ素っ気ない感じで私に椅子に座るよう指示すると、黙々とキャンバスに向かった。

 必要最低限の言葉しか交わさない。

 ちょっと肩すかしの気分だった。


 警戒しすぎたのかな。

 金曜日だから、当然美術室には他の部員の人たちもいる。

 遠巻きに自分の絵と取り組みながら、チラチラ視線をこちらに向けてくるのが気になる。

 こんな中で、思いっきり動揺するような言葉を掛けられたり、態度を取られたら、ホント困ってしまうだろう。 

 だから、大沢桐人が淡々とした態度をとり続けるので、ホッとしているのは事実。

 だけど、どこかでちょっと寂しいような気持ちも感じる。

 変だよね。私。



『…どっかで会ったことない? 僕たち』


『…僕に大事な人ができたら、こんなふうに描きたいと思わせるような描き方だと思った』



 この世に魂がある限り、琴音さんを諦めないと囁いた橘桐人。

 もし、私が琴音さんの生まれ変わりなら、橘桐人の生まれ変わりも存在するのだろうか。

 そんなことを考えながら、私は大沢桐人の顔をチラリと盗み見る。

 同じ名前だからだろうか。

 どうしても橘桐人のイメージに、大沢桐人の顔が重なってしまう。

 だから、素っ気なくされると、寂しく感じるのかもしれない。


「視線!」

 

 突然の大沢桐人の声に、私はビクリとして視線を教室の壁上方に戻す。

 絵のモデルなんて、やっぱり柄じゃない。

 ずっと同じ姿勢でいるって、すごく大変。

 しかも大沢桐人は俺様口調で、感謝とか労りなんて感情は全く態度に表れてないし。

 アルバイトならともかく、これでボランティアなんて、1日目からギブアップしたい気がする。

 それに、さりげない他の部員の人たちの視線も、まるで針の筵。

 

 美術科には担当教諭の違う美術部が3つあり、大沢桐人の所属する美術部の部員は10数人いるようだ。

 男の子は見たところ3人で、圧倒的に女子が多い。

 たぶん誤解してるんだろうな。なんとなく視線が冷たいもん。

 わたしだって、好きでモデルをしている訳じゃないんだけど……。


 だから、浩平の練習が終わる5時半を時計で確かめた時、ホントに嬉しかった。


「じゃあ、時間だから。大沢君、」


 椅子から立ち上がって、声を掛けても、大沢桐人は無視したように、筆を動かし続ける。


「ねえ、大沢君!」


 私の鞄は彼の鞄とまとめられて、彼のロッカーに入っている。

 彼の反応が無いことに途方に暮れたが、ふと昨日の会話を思い出し、恐る恐る声を掛ける。


「……桐人くん…」


「あ、もうそんな時間? じゃあ、早希、今日はここまでにしよう―――」


 彼は何もなかったように、私の鞄を取ると、手渡してくれた。

 ファーストネームで呼ばないと返事をしないってマジだったんだと、ホッと小さくため息をつくと、私は教室を出た。



 そのまま廊下を曲がって、美術科の校舎を出ようとしたところで声を掛けられた。


「あの…」


 振り返ると見覚えがある女の子が二人。

 睨むような真剣な顔をして、私を見ている。

 さっき美術室で見かけた子達だ。

 何って小首を傾げ尋ねると、「大沢君とはどういう関係なの?」という言葉が返ってきた。

 どういう関係って言われても、彼女たちが気にするような関係じゃない。

 だけど私が言葉にするより早く、問いへの返事が降ってきた。


「ただの絵のモデル」


 視線を上げると、彼女たちの後方に大沢桐人が立っていた。


「どうしてそんなこと、早希に聞くの?」


 思いがけなく現れた大沢桐人に問いつめられ、彼女たちはしどろもどろになる。


「え…別に…。大沢君が人物画を描くなんて珍しいし…しかも女の子にモデルを頼むなんて初めてだし…」


「そうそう、名前で呼び合ってるし…付き合ってるのかなって、ねえ」


 おろおろと答える女の子達に、冷え切った視線が注がれる。

 大げさにため息をついて、大沢桐人は言葉を継いだ。


「僕が誰と付き合おうが、君達に何の関係があるの? 今回のコンクールも諦めていたのに、ようやく描きたい題材を見つけたんだ。彼女が居づらくなって、モデルを断るようなことになったら…例え女の子でも、僕は君達を許さないから」


 女の子達は大沢桐人に詰られたのがかなりショックだったようで、泣きそうな顔をして大沢桐人に謝罪の言葉もそこそこに、もといた教室の方に駆け去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、大沢桐人は苦笑した。


「…あの子達の頭の中には、誰がフリーだとか、誰と誰が付き合ってるとか、そんなことしかないんだ。見栄えばっかり気にして…ホント、参ってしまうよ」


 彼の冷たい物言いに、私はムッとして言葉を返す。


「そんな言い方ないと思う。あの子達もあなたに好意を持っていて、こんな行動とってしまったんでしょう?」


「……おひとよしだね、早希は。僕が来なければ、君が僕に近づかないよう、彼女たちは君が嫌なこと、傷つくこと、遠慮なしに並べてたと思うけど。……それに彼女たちが僕に好意を持ってるって? 一体僕のどこに好意を持っているんだか。本当の僕の事なんて、何一つ知らないのに」


「だってあの子達は、ずっと同じクラブで、桐人くんのこと見てきた訳でしょう?」


「彼女たちが見てきたのは僕の外見だけだよ」


「……」


「彼女たちだけじゃない。みんな、そう。……別に本当の自分を分かって欲しいとか、青臭い事を思ってる訳じゃないけどね……」


 私は何と返事をすればいいのか分からず、難しい顔をしてただ大沢桐人を見返していたのだと思う。

 大沢桐人はクスリと笑った。


「早希にもこんな話、するつもりはなかったんだけど。ただ、明日、明後日の休み、モデルの時間がとれるならと思って、都合を聞こうと追いかけてきただけだったんだけど」


「あ…今週末は約束があってダメなんだ…」


 明日、明後日は朋姉と約束している。


「……約束ってあいつと?」


「あいつって、浩平? 違うよ! 女の人とだよ」


 あ…別にこんな言い訳みたいなこと、言わなくても良かったのに。

 大沢桐人と話すといつも調子を狂わされて困る。


「…ひょっとして、僕のこと警戒して、適当な理由つけて断ろうとしているんじゃないよね?」


「そんなこと、しないよ!」


「…だよね。早希はそんな器用なことはできそうじゃないし。まあ、そんなすれてないところが僕は気に入ってるんだけど…」


 大沢桐人が私の顔を凝視する。

 少しの表情の変化も見逃さないとでも思っているかのように。


「ふ~ん。……女の人って言うことは友達って訳でもないんだ。友達なら女の子って言う方が一般的だものね。年上で親しい女性か…誰なんだろうね」


 まあいいか、と大沢桐人は呟くと「じゃあ、また月曜日に」と踵を返す。

 私の視線を感じたのか、後ろ向きのまま、ヒラヒラと右手を振る。


 大沢桐人は頭が切れる。怖いくらい。

 それにしても、本当の桐人君って……。

 彼は本当の自分を仮面の下に隠しているんだと言うんだろうか。

 案外私も、イメージばかり彼に重ねて、彼のこと、何一つ分かってないのかもしれない。


 


 * * * * *




 朋姉のレポートの清書は思ったほど時間が掛からなかった。

 土曜日で頼まれた清書が終わると、朋姉はせっかく日曜の予定を空けてくれたのだから、お礼にチーズケーキを焼くからお茶においでと誘ってくれた。

 朋姉の作るチーズケーキはまるでプロが作るような本格的な味で、とても美味しいの。

 私は大喜びで、約束の日曜日の2時、浩平の家にお邪魔した。


「あっ、早希ちゃん、いらっしゃい! 今、お茶の用意をするから、先にリビングで待ってて。たぶん浩平もいると思うから」


 玄関先で、朋姉が明るく私を迎えてくれる。

 物心ついたときから、勝手知ってる浩平の家だ。

 私はニッコリと頷くと、そのまま上がって広い廊下の先にある扉を開けた。

 不意にピアノの音に包まれる。

 

 浩平の家の敷地には、浩平の祖父母が暮らす母屋の横に、浩平達親子4人が暮らす離れがある。

 離れも外見は風格のある純和風建築だが、中は随分リフォームされていて、洋室が多い。

 リビングはダイニングキッチンに隣接していて、テレビやソファーがある一角にグランドピアノが置いてある。

 浩平が生まれる前から、彼の家にあったそのピアノは、朋姉が中学生の頃ピアノを止めてからは、浩平専用になっている。

 今も、ピアノを弾いているのは浩平だった。


「よっ!」


 曲を弾き終わった浩平が私を振り返り、ニコリと笑う。

 私は部屋の隅の椅子を運んで、浩平が座るピアノの椅子に並べると、ちょこんと座った。


「『卒業生を送る会』まであと2週間ほどになっちゃったね。そう言えば、私、演奏する曲を聴かせてもらったことない。何て言う曲? 弾いてみてよ」


「『ヴァイオリン・ソナタ“春”』の第1楽章。でも、バイオリンなしじゃ、聴いてもつまらないだろ? 早希はベートーベンはあまり好きじゃないし…」


「う~ん……。じゃあ、久しぶりにショパン弾いて?」


「オーケー」


 浩平は鍵盤の上に手を置くと、ちょっとの間瞳を閉じて、そして徐に弾き始めた。

 『ノクターン第2番』。私の好きな曲だ。

 キラキラと光を集めたような優しい旋律に包まれる。

 この曲は昔、「愛情物語」という映画にも使われた曲。

 映画の中で、ピアニストである主人公は白血病に侵され、最後は息子とこの曲のピアノ二重奏を奏でながら息を引き取るのだ。ずっとすれ違い、相容れなかった息子に、自分の愛情を伝えるための曲。それがショパンの『ノクターン第2番』。

 浩平のピアノは切ないながらも温かくて、私は目を閉じ、じっと聞き惚れてしまう。

 優しい調べに微笑みが漏れる。


 しばらくして鳴りやんだピアノの音と、何かの気配にふと目を開けた。

 思いがけなく浩平が至近距離で私の顔を覗き込んでいた。

 吐息のかかる距離。

 不意を付かれ、足下から頭の先まで、一気に熱が駆け上った。

 頭の中が初期化されたみたいで、金縛りにあったように動けない。

 浩平の手がゆっくりと私の頬にかかろうとした時、彼の顔がちょっと歪んだような気がした。

 次の瞬間―――。


「痛ぁい――――!!」


 額を激痛が走った。

 一瞬何が起こったのかと思ったが、要するに浩平が私の額にデコピンをくらわせたのだと悟る。

 小学生の頃に、ふざけて時々仕掛けてきたように。


「ちょっと何するのよ! 突然!」


 身体が一気に自由になった。

 浩平の気に障るような事をした覚えもない。

 額に手を当てながら、猛然と抗議をする私に、浩平は怒ったように「…悪かったよ…」と呟くと、顔を逸らした。

 何が何だかわからない。


「あ、びっくりした。ケーキ食べる前に、他のモノ、食べちゃうつもりかと思ったわ」


 クスクスと笑い声に振り向くと、紅茶とケーキを載せたトレイを手に持った朋姉が立っていた。


「朋姉、浩平ったら酷いんだよ! 何もしていないのにデコピンしたりするの!」


「フフフ…まあ…私は我が弟ながら、よく我慢したと感心したけどね」



「…ばっ―――!! 」


 朋姉の言葉に、浩平が真っ赤になった。


 そのまま立ち上がって、部屋を出ようと朋姉の脇を通り過ぎる。

 私は二人の会話についていけなくて、「え、一緒に食べないの?」と浩平の背中に呼びかけた。


「いいの、いいの。キッチンにあんたの分も用意しているから、勝手に食べて」


 前半は私に、後半は浩平に、朋姉は言葉をかける。

 そして、「久しぶりなんだから。たまには早希ちゃんと女同士、二人でゆっくり話そうよ」と笑顔を見せた。


「あんまり早希に変なことを吹き込むなよ……」

 

 パタンとドアが閉まり、浩平がいなくなると「ホント健気なヤツ…」と朋姉がため息をついた。

 さっきは驚いたけど、私は浩平がいなくなって、ちょっとガッカリする。

 もうちょっと、ピアノ聴きたかったのにな……。


 朋姉は私の前のテーブルに紅茶とケーキを並べると、私の前に腰を下ろした。


「だけど、早希ちゃんも男の子と二人の時に、あんな無防備な表情したらダメよ。相手が私の彼だったら、きっとキスぐらいじゃ収まらないわ…」


 ……私の彼?

 私の興味は朋姉の注意の内容より、一つの単語に集約される。


「え? 朋姉はカレ氏いるの?」


「まぁね」と、朋姉の返事。

 そりゃ、こんな美人で優しい朋姉だもん。カレ氏がいない方がおかしいよね。

「どんな人?」っていう私の問いに朋姉は照れたように答える。


「同じ大学の1回生。去年の春に同じサークルに彼が入ってきたのがきっかけかな」


 朋姉は大学3回生だから―――。


「え!? 年下なの? 二つも? なんで??」

「……確かに年下だけど、仕方がないじゃん。好きになっちゃったんだもん」


 私の驚いた様子に、朋姉はちょっと拗ねたような顔をする。


「傍にいたかったし。もっと彼のこと知りたかったし。だから私の方から告ったんだ」


 頬を染めポットの紅茶を注いでくれた朋姉の頬が赤くて可愛い。

 告白されたことはたくさんあるに違いないが、朋姉が告白するなんて珍しい。

 よっぽどステキな人なんだろうなと思う。

 

「早希ちゃんは? 好きな人とかいないの? それとも…今でもピアニストのお嫁さんになるなんて言ってる訳?」


「何?それ…」


「ほら、小さい頃。後からピアノ教室に通い出した浩平に早希ちゃんが抜かれちゃった時、からかった私に何て返事したか覚えてないの?」


 フルフルと首を振る私に、朋姉はクスリと笑う。


「別に抜かれても平気だって。私はピアノを弾くより聴く方が好きだから、ピアニストと結婚するから良いのって。そしたら毎日ピアノが聴けるからって」


「え? 私そんなこと言ったの?」


「うん。…そっか、覚えてないのか。それはちょっと切ないなぁ……」


「……?」


 朋姉がケーキを勧めてくれる。

 一口口に入れるとほんのりとしたチーズの甘さが口いっぱいに広がる。

 やっぱり朋姉の作ったチーズケーキは美味しい。

 紅茶はフォーションのアップルティー。

 私は、紅茶の中じゃ、これが一番好き。

 思わず口元が緩む私を、朋姉は優しく見つめる。


「浩平は…ピアニストを目指していると思うよ」


「ホント? だけど、高校も普通科だよ?」


「私も普通科を受けると聞いたときはびっくりしたけど…ヤツにはヤツの事情があったんだろうね。そもそもあいつ、中学の担任には北郷高だって大丈夫って言われてたのに。早希ちゃんの通ってる私学を専願で受けるって聞いたときはたまげたわよ」


「え?」


 ―――初耳。

 北郷高といえばこの辺りじゃ一番偏差値の高い高校だ。

 頭が良いとは思っていたけど…、浩平ったら、そんなこと、一言も言ったことがなかった。


「ところで…早希ちゃんにとって、浩平ってどんな存在?」


「? 何でも相談できる幼なじみ? 年下だけど頼りになるし、一緒にいると楽しいし、安心するけど…」


「年下っていっても1週間違いじゃない。それにしても、浩平のこと、安心だとか思ってるんだ…何だか微妙だね」


 朋姉がホッとため息をつく。

 朋姉も杏子みたいに私と浩平が付き合ったら良いと思っているのかな。

 私は今の距離が一番居心地がいいのに。


「だけど、浩平には好きな女の子がちゃんといるんだよ」


「…それって浩平が言ったの? 早希ちゃんに?」


「告白された女の子にそう言って断ったって…浩平が自分でそう言ってたもん」


「…あのバカ―――」



「早希ちゃんにそんな話をしたら、ややこしくなるだけなのに…」なんて、ブツブツと朋姉の呟き声が聞こえる。

 どういう意味かと考え込む私の表情に気づくと、朋姉は慌てたように取り繕った。


「いやいや、こっちの話。早希ちゃんはそんなこと気にしなくて良いからね。まあ、全然気にならないってのも寂しいけど……」


 一層訳が分からなくなった顔をする私を見て、朋姉はニッコリ笑い「ホント早希ちゃんってかわいいわ~!」と頭を撫でてくれる。

 自分の頬が赤くなるのが分かった。


「早希ちゃんは、好きな男の子はいないの?」


「カレ氏になってほしい人って意味なら、いないよ。でも…」


「…気になる男の子はいるんだ?」


「…それがよく分からないの―――」


 気になる男の子というのは否定しない。

 橘桐人と琴音さんの悲恋に同調している私には、同じ桐人という名の大沢桐人の存在が、心の琴線に触れるのも事実だ。

 だけど大沢桐人には実際、困っている部分もある。

 いいように弄ばれて振り回されているような気がする。

 これ以上気持ちや生活をかき乱されるのは怖い。

 好きなのかと聞かれれば、よくわからないっていうのが正直な気持ち。


 朋姉は私の話を静かに聞いてくれて、だけど物知り顔な助言なんかはしなかった。


「好きっていう気持ちなんて、あんまり難しく考えたらダメよ。すっごく嬉しいとき、悲しいとき、辛いとき、ピンチの時、ふとその人の笑顔が心いっぱいに広がったり…って、そんなモノなんじゃないのかな。きっと早希ちゃんの心の中に答えはちゃんとあるんだよ。何かのきっかけで気づくモノだから…」



 だから無理しなくて良いから。

 優しく微笑んで、そう朋姉は言ってくれた。

 気持ちが随分軽く、明るくなる。

 

「ありがとう、朋姉。…朋姉が本当に私のお姉さんなら良かったのにって思うよ」


「ホント弟なんていても全然楽しくないし。私だって早希ちゃんが本当の妹なら良いなって、ずっと思っていたわ。一緒にケーキ作ったり、洋服の貸し借りしたり…楽しいだろうな」


 フフフ…と可愛く笑いながら、


「―――でも、まだあきらめてないけど、ね」


 悪戯っ子のような表情でそう言うと、朋姉は軽くウインクした。





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