そして誰もいなくなった
例えば餃子屋があったとする。
A店の看板には『当店の餃子はすべて手作りです』と表示されている。
B店の看板には『当店の餃子は冷凍食品を使用しております』と表示されている。
実は使用されている餃子は同じである。同じなのだから味も同じである。焼き方も同じ、値段も同じ、サービスも同じとする。
このとき客の流れはどうなるか?
当然のことながらほとんどの客はA店に向かう。
料理は実際の味以上に期待感が重要だ。
冷凍食品よりは手作りの方が『好もしい』し『美味しそう』だし、全体として『期待できる』のだ。
人間心理として必ずそうなる。
2026年6月9日(火)、小説投稿サイト『小説家になろう』において作品創作におけるAI利用状況の設定が必須化された。
これによって創作作品においても餃子屋と同じことが起きた。
客(読者)の大半は手作り(AI補助的利用・AI不使用)の餃子(作品)に流れたのだ。
小説家になろうに投稿している作家、曲木曲は困ってしまった。
曲木はこれまで毎日AIに作品を書かせてはせっせと投稿していた。
ところが6月9日を境に全然読んでもらえなくなってしまったのだ。
せっかくチアーズプログラムでお小遣い稼ぎをしていたのに……。
仕方なく曲木は食品偽装に走った。
「本当は全部AIに書かせてるんだけど、それだと誰も読んでくれないし……設定を『AI補助的利用』にして、っと。これでよし! いや……『AI不使用』にしても……バレへんか」
このような風潮は一人曲木だけのものではなかった。
紆余曲折を経て、AIに作品を書かせている作家(以下AI作家)のほとんどが設定をAI補助的利用・AI不使用に変えた。
AI作家と運営と読者の仁義なき戦いの始まりである。
もちろん、このような欺瞞を見逃す運営ではなかった。
AIか人間か、もっとも単純な判断の基準は投稿頻度だ。
人間が一日に手書きで書ける文章量には上限がある。運営は「個人差があるとはいえ十万文字の長編を毎日投稿できる人間はいないだろう」と判断した。
大量に投稿する作家に対し初めは警告から、それでも無視する作家には作品消去で、それでもまだ懲りない作家にはアカウント削除で対応した。
ユーザホームにログインしようとして失敗した曲木は舌打ちした。
「あっ、クソッ! また垢バンされてる! しゃーない、アカウント作り直して……」
これに対しAI作家たちは多少投稿頻度を下げることで対抗した。
しかし逆風はまだ続く。読者の中に通報する者があったし、作家の中に密告する者もいた。
その上、運営は新技術を導入していた。
文章を読んでAIを使っているか否かを精査するAIを作ったのだ。
AI代理戦争の始まりである。
バンバンバン!
またもアカウントを削除された曲木はキーボードを破壊しながら叫んだ。
「AIの何がいけねえってんだよ!」
ここに至って曲木も覚悟を決めた。徹底抗戦だ。AI死闘編の始まりである。
AI作家たちは数で対抗した。AIに小説を書かせるだけでなくAIに投稿させるようになった。
毎日とんでもない数の作品が今の時代に回線を圧迫する勢いで投稿された。
新着欄は秒未満の単位で更新されていった。
ここに至って運営も腹を据えた。虚偽申告には即座にBANで対応した。垢BANに留まらず回線ごと遮断した。
学習したAIは間にVPNをかませた。AIは高速でアカウントを作成して高速で投稿し続けた。
もはや人力では追い付かない。運営もまたAIに対応させた。AIの作成したアカウントには特定の『指紋』が残る。それを検出した瞬間アカウントを削除するようAIに指示した。
一方で本当にAIを使用していない作家は困ってしまっていた。
AIの新作はその昔のMMOの大量に投下されるbotのように高速で湧き続けた。
もはや人間のかなう速度ではなかった。作品を投稿しても膨大な作品の波にさらわれてしまって誰も読んでくれない。
それにAI検出の精度も100%ではない。偽りなく手書きなのに、巻き添えを食って削除されることも多々あった。
人力の作家たちは次第に諦め、次々と小説家になろうを去って行った。
読者もまた困惑した。
もはやどの話を読んだらいいかわからない。検索もタグもランキングも機能していない。適当に読んでみるとAI特有のオチの弱い話だらけだ。しかも読んでいる最中にアカウントごと削除されていることも珍しくない。
もはやここにいてもまともに小説は読めない。読者もまた新天地を求めて旅立った。
ここにおいて小説家になろうの進化は最終形に達した。
作品を投稿しているのは全部AIだった。
AI作家をBANしているのもまたAIだった。
投稿作品がAIか否かを読んで判断しているのも全部AIだった。
作家もAI。
運営もAI。
読者もAI。
こうして『小説家になろう』は小説家を超えてついにAIそのものになったのでした。
おしまい♪
※この小噺の作成にはAIを使用しておりません。




