路地裏、陰の日常
おかしい。どう考えても納得いかない。
どうしてこんな目にあわなきゃいけないんだ。ろくでもない奴なんて他にいくらでもいるだろうに、よりにもよって!
今まで順調に生きてきたって自負はある。沢山の兄弟の中で取り分け目立つ方ではなかったし、特別に親から目をかけてもらった事ない。ただ、そんな中でもめげずに(当たり前か)、カサねカサね生きてきた。
目立つ事は良くないって事にはすぐに気が付いた。ヘマをした奴らは堂々とした気の良い奴だったが、それでもそれだけだった。見つかるヘマする時点で問題なんだ。時には生死関わるってのに。
だから、例え何かを得るためであっても人目を避けて動いた。食べられるものだったら好き嫌いせず、何でも食べた。髪の毛を食べた事だってある。
居場所だってそうだ。出来ればあたたかい場所が良いのはもちろんだが、そればかりも言ってられない。なにより人目につかない場所を選んだ。狭い、暗い場所が安心した。そんな場所でも好きな奴はいるし、大抵はそんな奴らが集まっていた。どいつも場所を転々としていたからか、二度と合わないやつも多かったが、たしかに仲間だった。
いつも通り。今日だってそのはずだった。だのに!
元はといえばあの時からおかしかったんだ。
あの時に引き返していれば、こうはならなかった。
いい水飲み場がある場所だった。あたたかいし、人目にもつきにくい。それに気に入った所はまだある。逃げ道とも呼べる横穴があり、いざとなればここから脱出する事も出来そうな作りだ。こんな場所があったとは。
一通り物色し、居所を決めた。ここならしばらく居ても良いかもな。
- 狭い路地の室外機の物陰。
まあ悪くは無いだろう。日が昇り天気もいい。うつらうつら、もう少し暗くてもいいかもしれないなあ、なんて。
どうやら先客もいたようで、音は出さずに挨拶をする。馴れ合うつもりもないけど、何かで世話になるかもしれないから。
- 室外機の横のドアが開く。
ああ、何かの気配がする。この建物の人だろうか。大丈夫、これまで通りにすればなんて事ないさ。慌てて動くのは愚か者のすることだ。止まってやり過ごそう。まさかここに私がいる事を知って来たわけでもないだろうし、ちゃんと許可を取っていないからと言っていきなり殺されることもないだろう。
- 女の人が出て来た。のびをしている。
と、愚か者が同じ室外機の影から出て女の人を覗き見ようとした。バカなやつめとは思ったが同じ場所に隠れていたよしみで全く他人事とも思えない。自分の事ではないにしても痛い目を見て欲しくはないがどうなるか。
- 女の人が愚か者を見つけて悲鳴を上げた。
次の瞬間には女の人は建物の中へ逃げるようにして勢いよく駆け込んでいった。聞き取れはしなかったが何か大きい声で叫んでいるようだ。
愚か者はというと覗き込んだ時のまま、動かない。呆けているのか。何はともあれ一安心。物陰に戻って来たら処世術ってやつを教えてやらないとな。
- 再び足音。先ほどより大きく急いでいる様子。それは男の人。
あれま。また来たか。おや、手に持っているのはもしかして。愚か者はどこにいるかと見てみると先程から微動だにせず室外機から覗き見る格好のままだった。はたして男の人に見つかってしまう。万事休すか。
- 男の人は手に持ったスプレーを室外機の陰に吹き付ける。
愚か者は速かった。スプレーの風を感じるより速く室外機の陰に駆け込んだ。かするどころか全く当たらなかったようだ。若いというわけか。私の前を通り過ぎて奥まで走って行った。
- 男の人がかがんで室外機の下を覗き込む。
男の顔が見えた。大きい目と私の目が合う。しまった。顔に霧がかかる。こんなに苦しいとは。体に力が入らなくなる。薄れゆく意識の中、頭に響く他を呪う声もまた静かになっていく。
- 「ゴキブリ退治したよー」
「ありがとう!あれ、こんなに大きかったかな」
2人の人間は建物の中へ消えていく。春。14:38。路地の外では桜の花びらが舞っている。
初です。2020年に書きっぱなしにしていたのが気になって完結させました。
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