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ありがとうございます、LSBSカスタマーサービスです。

作者: はに丸
掲載日:2026/02/28

春のチャレンジ2026テーマ仕事に合わせた作品です


――ラスボス業にはぜひLSBSジャパン株式会社をご利用ください。どの世界、どの時空のラスボスでもご契約いただけます――

「ありがとうございます。LSBS(エルエスビーエス)カスタマーサービスです」


 業務開始、()()()()午前九時に一斉に響き渡るテレフォンオペレーターの声、声、声。営業開始と同時にお客様から問い合わせや注文のコールが鳴り響く。

 昨今、チャットオペレーターが多い時代であるが、我が社は通話によるカスタマー。その通話システムは優秀で――


「軍備強化をご希望ですね。テソーロ様のご環境でしたら、ネクロマンサー参謀の派遣によるアンデッド軍団増殖がおすすめです。リッチーでございますか。恐れ入ります。現在のご契約内容ではできかねます、ご期待に添えず大変申し訳ございません」


「メイショウ様、ご契約の更新ありがとうございます。新たな寺院の建立のリーダーでございますね。では仙狐を派遣いたします。契約内サービスでございますから、追加料金等は発生いたしません。世界統一後もラスボス、お疲れ様でございます。またのご利用をお待ちしております。本日はハギノがご案内いたしました」


「ありがとうございます、タガノ様。サイバー部隊でございますね。こちらは月額もしくは年間契約のサブスクリプションとなっております。アップデートが自動で行われますので、装備や練度のご心配もございません」


 どの世界、時空の言語であろうと互いに自動変換されるのだ。

 ライバル社のチャットカスタマーはいちいち言語を学習しているらしい。ばっかじゃねえの? 異世界が何十万個あると思っているの。まあその分、料金は安いらしいけどね。


 ピコン


 他のオペレーターより遅れて三分ほど。私の席にもお客様からの通話が入る。モニターにお客様情報が自動的に表示される。もう一つのモニターはマニュアル。二つの画面を同時に見ながら私たちは対応するのだ。


「おい! 早く城の起動をしろ! 契約していただろう!!」


 初手からこうばしいお客様である。モニターに情報が現れた。


「恐れ入ります、お客様。ご本人様確認のために、お名前と生年月日をお願いいたします」

 

 私は『てめえいきなり叫ぶんじゃねえよクソ野郎』という言葉をするりと飲み込んで、丁寧にゆっくりと言った。客に流されるな。テレフォンオペレーターの基本である。


「ゲンパチ! 二〇一年三月四日!」

「ゲンパチ様ですね。確認いたしました。ご協力ありがとうございます。恐れ入ります。ご質問内容ですが城型ゴーレムの起動と戦闘機能のことでしょうか」


 そうだ、そのとおりだ、と客が必死に言いつのるが、私は客の注文履歴を確認し、冷静に事実を返した。


「恐れ入ります。ゲンパチ様の城型ゴーレムは先ほどの大魔法『ディープインパクト』の頭金となっております。全額をお支払いされませんと、ご使用できません」

「な、そんな、おい、ちょ、くそ、待て、ちょっと待て! そうだ世界の半分を――!!」

 

 最後の叫びは私への台詞ではなかった。

 このLSBSジャパン株式会社はラスボスの運営をサポートしている。解約は本人の申し出か、死んで通話用の指輪が消滅したときだ。この客は解約の運びになるだろう。

 が。

 通話が切れない。おい、ゲンパチ死んだんやろ? 通話切れるじゃろ? ちょっと何? 『命だけは助けてやろう』とか助かっちゃったの!? 不良債権まっしぐらの客が、よりによって私の通話中に発生したのかよ、いやせめて通話止めて。


 一日の受信目標があるのだ。一発目からクソ客に当たるとは、牡羊座の運勢って今日は一位だったのに!


 しかし、オペレーターにはきちんと対応技がある。


「ゲンパチ様、お声届いておられますか?」


 これ。あと二回繰り返せば、こちらから切れ――


「あの……これ何?」


 聞いたこともない青年の声が聞こえた。


「恐れ入ります、ゲンパチ様のご家族でしょうか? 指輪は身につけておられますか?」

「ゲンパチ? 誰だそれ。俺はナリタだ。この指輪なんだよ、魔王ルシファーが死ぬ前に俺に呪いだ、って言って……取れないんだけど」

「その指輪は――」

「この頭に響くお前が呪いの魔女か!」

「ナリタ様。私はLSBSジャパン株式会社カスタマーサービスのビワと申します。魔王は呪いと言ったので?」

 ゲンパチ、ルシファーという芸名使っていたのかよ、と思いながら、丁寧にゆっくりと伺った。


 ナリタは、おう、と返し、

「なんか、最後の呪いだ、ケンリジョート? とか色々言うから、おう、来い! て言ったらあいつ死んで俺は指輪してた」

 めっちゃくちゃ素直な青年である。

 

「さようでございましたか」

 私はわざとゆっくり返事をしながら、素早くSV(スーパーバイザー)にチャットを送信。わからないまま契約譲渡されている入電、と。

 優秀な上司でもあるSVは私の通話を聞いていたらしく、すぐさま結論を返してきた。

 

 ――新たな顧客だ。

 

 通話での新規契約など、めったにない。営業部署ではないのだ。私は落ち着いて新規顧客用マニュアルを素早く画面に出す。

 

「こちらは世界のラスボスをサポート、支援する会社でございます」

 

 この言葉と共に、一通りの説明をする。購入したものを担保、頭金にできる保証サービスは我が社だけでございます、とか。ナリタはわかっているのかいないのか、はあ、はあ、と生返事である。


「ナリタ様は魔王よりラスボスの権利を譲渡されました。しかし、同意ではございませんので魔王の負債はナリタ様には請求ございません。ナリタ様がラスボスとして行動なされれば、契約レベルが上がり、私どもがサポートできる分野も広がります。現時点のサポートは部下か相談役の派遣でございます。もちろん、契約を解除も可能でございます。恐れ入ります、ナリタ様は魔王を倒されましたが、この後のご予定は」


「えっと……特になにも。予言で勇者で、魔王倒してこいって言われて。そういや、それしか考えたことなかった」


 搾取される青少年すぎる! 私は珍しく客に同情した。ていのいい人身御供。たいてい、我が社の誇るサービスでむなしく散る青少年たち。


「それではナリタ様。試しに我が社のサービスを使ってみてはいかがでしょうか。やりたいことを探すためにご契約されているお客様もございます」


 サイコパス系の自分探しラスボスとかな。

 

「やりたいこと……えっと、何でも?」

「はい。もちろんでございます」


 少し怯えたように呟く青年に、私は優しく返した。


「俺、読み書きできないんだ。先生、とか」

「それでは相談役を派遣いたします。わからないことがあれば何でもご相談ください」

「あと……ゲンパチってもしかして魔王のことだったのか?」


 ナリタがおずおずと言った。気づいてやるなよかわいそうだろゲンパチが。


「ラスボスは本名以外を名乗る方が多いのです。我が社ではラスボス名のご提案もしております」


 ふ、と息を吐く音が耳に届く。


「じゃあ、それほしい。勇者ナリタって言われるの嫌だったのかもしれない」

「では『ブライアン』はいかがでしょうか」


 私はシステムがランダムで出した名前を言った。

「じゃあ、それで」

 とナリタが頷いた。契約者名と生年月日がモニター上に表示される。契約が成立したのだ。


「契約名はナリタ様でございます。お問い合わせの際はナリタ様でお願いします。本日はご契約ありがとうございます。この通話は指輪に命じれば入切できます。本日はビワが担当いたしました」

「お、おう」

 ――ぷつ。ツーツー。

 

 契約まで少々強引だったのは自分でも認める。


 勇者がラスボス。穏やかな相談役に文字を教わりながら、ひとつひとつを知り、いつしか彼を生け贄にした世界を脅かす、新たなラスボスに祝福あれ。


 ビワはくすりとうれしそうに笑むと、次の通話を取った。――ありがとうございます。LSBSカスタマーサービスです――


全キャラクターの名前はある法則に基づいてます(通話相手含む)。

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― 新着の感想 ―
話が広がりそうで面白そうなところで終わってるー! こんな舞台裏話、けっこう好きなんです。 オペレーターとの淡々としたやり取りとか、書かれてない本編の熱い戦いとのギャップを想像したりするのがいいんですよ…
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