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ジュエリーキッドナッパース  作者: 七名菜々
FINAL TARGET

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21/21

FINAL TARGET

   ■


 青い空に白い雲、爽やかな風、ペンギンたちの鳴き声。

「良い天気だねー!」

 ミドリは海に向かって思い切り叫んだ。

 太平洋に寂しく浮かぶこの島も、ミドリたちを祝福してくれているのだろう。

「何言ってんのよ。ついさっきまで土砂降りだったじゃない」ダイヤが冷たく言い放った。

 彼女はいつも冷静だ。その顰めっ面さえも、今は愛おしく思える。この地域は天候が不安定らしく、土砂降りと晴天を何度も行ったり来たりしていた。

「いやあ、絶好のハネムーン日和だよ」

「ハネムーンじゃないってば」

「またまた照れちゃって」

「気色悪いこと言わないで」

「太陽がまぶしいねえ」

「サングラスはどうしたのよ」

「ダイヤちゃんには必要ないでしょ?」

「通行人を引っかけたらどうするの」

「あっ、やきもち? 安心して。俺には君しか見えてないから」

「足元も見た方がいいわよ」

 そう言われた瞬間、何かに足を取られ、ミドリは勢いよくすっ転んだ。

「いってえ!」

 どうやらペンギンに躓いたらしい。突然蹴飛ばされたペンギンは、驚いてギャアギャアと声を荒らげながらどたばたと逃げていった。

「あーあ。せっかくの服が」

 ハネムーンだからと張り切ってめかし込んできた服が、砂まみれになってしまった。

「ずっと気になってたんだけど。あなた、その格好なんなのよ」

「これ? 花京院家からもらってきた」

「ちょっと派手過ぎないかしら。動きにくそうだし。ていうか寒くないの?」

「いいでしょ、エメラルドグリーンのタキシード。俺の世界一好きな色だよ。ダイヤちゃんが綺麗って言ってくれたからね」

「そんなこと言った?」

「またまた照れちゃって」

 あの後、晴れて能力を取り戻したミドリは、後始末に奔走した。屋敷中の使用人と結婚式に参列したゲストを集め、今回の件を表沙汰にしないように『お願い』し、誰かの通報で駆けつけた警察には酔ったゲストが暴れただけだと『説明』した。そして麗子には、改めて『おまじない』をかけた。

 俺のことは忘れて。君は君で幸せになって。俺はダイヤちゃんと幸せになるから。と。

 すると麗子は涙を流しながらもすっぱりとミドリとの結婚を諦め、ミドリのために用意していた衣装やパスポートを譲ってくれたのだった。

「それにしても、勝手にパスポート作ったって言われた時には驚いたけど、結果的には助かったよね。おかげでこうしてハネムーンに来られたんだから」

「だからハネムーンじゃないってば」

 ミドリを引っ張り起こしながらダイヤは言った。ミドリは立ち上がると、ぱたぱたとタキシードについた砂をはたき落とした。

「じゃあなんて言えばいいの? 新婚旅行?」

「違います」

「俺たち新婚なのに?」

「結婚してない」

「そりゃ入籍はまだだけどさ。いいじゃん、挙式は済んだんだから」

「挙げてない」

「誓いのキッスも交わしたのに?」

「人生最大の過ちだわ」

 ダイヤはミドリに背を向け先へ進む。どこへ向かっているのか、彼女は躊躇いもせずに森の中へ分け入っていく。ミドリもそれに続いた。

「あのね。だいたいあなた、私のこと好きでもなんでもないでしょ」

「好きだってば! まだ伝え足りない?」

「薔薇の雨粒、子猫の髭、ぴかぴかの銅のやかん、暖かい毛糸の手袋」

「何それ」

 突然ダイヤが歌うような調子で意味の分からない単語を羅列し、ミドリは首を捻った。

 ちらりとミドリを振り返りながら、ダイヤは説明する。

「つまり、あなたの言う『好き』はラブじゃなくてフェイバリットってこと。ライクですらないわ。壊れないおもちゃを見つけてはしゃいでるだけよ」

「そうかなあ」そうか? そうだろうか。そうかもしれない。

「とにかく、私はあなたと結婚なんかしてないし今後する可能性もない。そしてこれは断じて新婚旅行ではないわ」

「じゃあなんなの? わざわざ俺をこんな辺鄙な離島まで連れ出してさ」しかも、念願叶って南の島だというのに。

「言ったでしょ、頼みがあるって。会ってほしい人がいるのよ」

「誰?」

「父親。遺伝子上のね」

「なんだ!」とミドリは膝を打った。歩きながらなので実際に膝を叩いたわけではなく、これは比喩表現だ。「そういうことだったのか。そりゃあそうだよね。ごめん、俺常識とかあんまないからさ」

「何よ急に、気味悪い」

「結婚よりご両親への挨拶が先だよね。ごめんごめん」

 すると先を行くダイヤの背中から、大きな溜め息が聞こえた。

「どうしてそうなるのかしら」

「えっ、違うの?」

「違うわよ。私の父親、長いこと行方不明になってたのよ。もうすぐ失踪宣告が成立するんだけど、その前にやってもらわなくちゃいけないことができたの」

 島に着いて以降人の気配はなく、森の中にも人が足を踏み入れた形跡はない。獣道と呼べるかすら怪しい道なき道を、ダイヤは迷いなく進む。

「父はかつて腕の良い社長だったんだけど、残念なことに、彼の一人息子は信じられない大馬鹿者のクズ野郎なの。なのに少し前に父の妻が亡くなって、今父の失踪宣告が成立すれば父の持っていた自社株が全て息子に相続されて、クソ息子が筆頭株主になっちゃうなんていう危機に陥っちゃったの。だからあることを頼むために、私は父を捜し出した」

「あること?」なんだかどこかで聞いたことがあるような話だ。

「そう。『ゴミ息子を相続排除して、代わりに私を認知して』って。そうすれば相続権は私に回ってきて、次の筆頭株主は私になるから」

「なるほど」と言いつつ、内容は半分くらいしか理解できていない。

「でも、私の頼みは聞いてもらえなかった。彼は息子のことを溺愛していたし、私のことは眼中になかったから」

「そんなこと」

「仕方ないのよ。今あの男の目には、たった一人のことしか映ってないんだから」

 その時、突然目の前が開け、森の中に小さな洋館が現れた。驚くミドリをよそに、ダイヤは真っ直ぐに突き進み、ノックもせずに建物の中へ入っていく。ダイヤに続いて階段を登り、突き当たりの部屋に入ると、そこには一人の男がいた。

 ダイヤが振り返って言う。

「紹介するわミドリ。彼が私の父、本郷和臣よ」

 それは、見覚えのある顔だった。

 暗く濁った彼の目は、ミドリを見つけた途端に輝きを取り戻す。

「悪いんだけど。今の話、あなたから『お願い』してほしいのよ」

「あー、『娘さんを僕にください』でいいんだっけ?」

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