TARGET04:花婿(4)
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急ごしらえの結婚式によくこれだけの人が集まったものだと感心していたが、真相を聞いてみればなんてことはない。元々麗子はこの日に婚約者と挙式する予定があったところ、花婿だけをミドリに挿げ替えたのだ。どうしてそれが判明したのかというと、『新郎の名前が予定と違うけど、びっくりさせてごめんね。麗子の意思を尊重して好きな人と結婚させてあげることにしたよ。元婚約者へのフォローもしてるから心配しないでね』という趣旨の説明が、式の冒頭に行われたからだ。ゲスト一同にとっても寝耳に水のことなので、謝罪を入れないわけには行かなかったのだろう。
それにしても、家の中で結婚式ができるとは大したものだ。式場となっている大広間には小さなチャペルも設営され、挙式から披露宴、そして二次会までここで行われるらしい。
ミドリの扱いは予想以上に酷く、台車の上に乗った檻の中で入場の合図を待っている。檻は人が一人座った状態でやっと入れるくらいの狭さな上、例によって両手は背中で拘束されているため、ろくに身動きを取ることができない。これではせっかく特訓した礼儀作法も披露する機会はなさそうだし、特急で仕立ててもらった純白の燕尾服だって檻越しでは見えづらいだろう。新郎がこんな状態で入場するなんて、前代未聞のマナー違反ではないか。きっと形だけでも祝福の意を示さなければならないのであろうゲストたちに同情すら覚える。
スタッフの話によると、麗子はどこか別室で待機しているらしい。ミドリが誘拐されてから今この瞬間を迎えるまで、ついに彼女の姿を見ることはなかった。彼女は一体、どんな面持ちでミドリとの再会の時を待っているのだろうか。
目の前の扉が開かれた。ミドリを入れた檻はスタッフに押され、式場へと足を踏み入れる。誰も予想しなかったであろう新郎の入場シーンに、当然会場からはどよめきが起こった。
檻の乗った台車が聖壇の前で立ち止まると、背中にちくちくと奇異の眼差しを感じる。慣れないコンタクトのせいで目は痛く、前髪をオールバックにされていつもより広い視界も落ち着かない。一刻も早くこの茶番劇が終わってくれないかなと、ミドリは狭い檻の天井を見上げた。
次に新婦の入場が始まり、歓声などは上がらないものの、会場の空気がほのかに高揚したのが分かる。これだけ目立つ物体が会場の真ん中にあっても一瞬でゲストの視線を奪っていくとは、ウェディングドレスの力とは恐ろしいものだ。
母親にベールを下された麗子は、お手本のような所作で父親と腕を組み、バージンロードを歩く。その歩みはまるで映画のワンシーンのように美しく、厳しい貴族社会を生き抜いてきた彼女の人生を象徴しているように感じられた。本来彼女は自分なんかとは交わってはいけない人間だったんだ、とミドリの胸の中で黒々としたものが蠢いた。
麗子が聖壇の前に辿り着き、ミドリの隣に立った。
神父だか牧師だかミドリには判別はつかないが、ここでは仮に牧師としておこう。牧師がミドリに向かって小難しい長台詞を吐く。たしかこの後、『誓います』って言えばいいんだったっけな。
「誓います」
次に牧師は新婦に語りかける。ごちゃごちゃと長ったらしい御託を述べた後、「誓いますか?」と彼は言った。
「誓います」
麗子の声は凛としている。その姿を横目で見ると、御伽噺の姫君のような純白のウェディングドレスには、遠目には分からなかった緻密なレース編みが施されていることに気づき、そのあまりの繊細さに、本来この位置から彼女の姿を見るはずだった顔も知らない婚約者氏に対して申し訳なくなる。
いつもそう。自分の存在が、何もかもを壊してしまうのだ。
ああ、これが恋愛映画なら、そろそろ闖入者が現れる頃だなあと、どうでもいいことをミドリは思った。
牧師は言った。「二人の結婚に異議がある者は、今この場で名乗り出よ!」
「異議あり!」
何者かの声が会場内に響いた。
大広間の扉が、バン! と大きな音を立てて開かれた。




