第37章 ドーラ一族
愛しい娘ヴィーナを吸収されリュウは怒りと悲しみの狭間にいた。
「ヴィーナ!!」
リュウは叫び、手から大きな炎を出し、魔王に放った。
だが、四天王の一人カミューが風の魔法で吹き飛ばした。
「お前の相手は私がするわ」
「リュウ君!」
と、ルーナは叫んだ。
「お前の相手は俺だ」
ルーナにはシンが相手をする気だ。
だが、ナイトがシンに攻撃を仕掛けた。
シンの頭より高く跳び、一回転し、かかと落とし、さらにもう片方の足で蹴り飛ばした。
これは前にもヴィーナがアルテミスと名乗って戦いを挑んできた時に、ナイトがやった技だ。
「ここは僕に任せて、リュウ兄ちゃんを」
「う、うん」
シンが起き上がろうとしたとき、ナイトは神速ですでにシンの間合いに入っていた。
そして鞘に収まっている刀を抜刀した。
刃引きの刀だが、棲ざましい一撃が決まった。
「ぐは~」
魔王はその様子をじっと見つめ、何が何でもナイトを吸収しようと考えていた。
その頃土方たちは……
「土方、さっき魔王だと思うが、急に気が上がったぞ」
「ああ……よく分からんが、何かを吸収したんだろう。ドーラここは俺たちに任せて、アンタもカーワ村へ戻れ」
「うっ……そうだな。ここはお前たちに任そう」
「ああ」
ドーラは浮遊術でカーワ村へ戻っていった。
「さて始めようか」
「土方、キャーロット、魔王さまはお前たちを気に入っておられる。お前たちが魔王さまに忠誠を誓えば、死者復活の術で蘇らせてもらえるぞ」
「いい話だが、お断りだ」
「オイラも」
「愚か者が」
「行くぜ!」
カーワ村では魔王がナイトを吸収しようと近づいた。
ナイトはボロボロな体で立っているのがやっとだった。
リュウはルーナにカミューを任せ、今度は電撃を魔王へ向けて放った。
だが、魔王は避けずにわざと喰らった。
「こんなんじゃ効か……なっ!」
リュウはすでに魔王の間合いに入っていた。
「クソ!」
リュウはそのまま腹を横薙ぎに行き、魔王は避けようとしたが、完全には避けきれず、魔王のお腹から血が流れた。
だが、斬りが浅いため、魔王のお腹の皮を斬った程度だ。
「あの餓鬼よりもお前を吸収すべきだな」
そう呟き、リュウの動きを封じようと氷の魔法で攻撃をした。
リュウは、炎を出し、氷を溶かした。
さらにリュウは全身全霊を籠め、袈裟斬りをした。
「今度は遅い」
魔王は白刃取りでリュウの刀を止めた。
そして土方の時のように刀を折ろうとした。
「二度も折らせないぜ」
そう言って刀を放し、炎の魔法を放った。
魔王は刀を放し、リュウの怒りの炎によって魔王の体を炎が包む。
だが魔王は全身に力を入れ、爆風によって炎を消した。
「クソ餓鬼が!俺様を本気にさせたな」
「うっ……」
「リュウ君!」
ルーナが叫んだ。
「どこ見てんの?」
と、カミューが雷撃を放った。
「きゃー!」
「バトルソルジャー、本気で……殺す気で戦わねば、私は倒せないわよ」
「うっ……私は殺し合いなんかしたくない……でも、私はあなた達を許さない」
ルーナはレイピアで攻撃を仕掛けた。
そしてルーナのレイピアがカミューの体を突き刺した。
ルーナは初めて心の底から人を憎み、そしてカミューを殺した。
リュウと同様に、愛しい娘を失った怒りと悲しみが、彼女を修羅へと変えた。
その頃土方たちは……
殺さない程度にゾイとハンジーを倒した。
「リスポ隊の誰かに頼みがある」
「な、何ですか?」
「たぶんこの二人は1週間くらい起きないと思うけど、念のため手と足を凍らせて、牢屋にでもぶち込んでくれ」
「……わ、分かった。国王様、王妃様お許しを」
ザミー隊長はそう言って、二人の手と足を凍らせて、隊員たちと共に王たちを牢屋へ収容した。
「ローズ、アンタはここで待っていな」
「は、はい」
土方はウーマに乗って、キャーロットは浮遊術でカーワ村へ向かった。
カーワ村……
「リュウ、未来では成長したヴィーナはいない。周りの奴らは、お前もヴィーナも成長したヴィーナは旅に出ているとしか聞いていないだろう」
「それがどうした」
「だが、お前もヴィーナも気づいていた。未来では成長したヴィーナは旅に出ているのではなく、過去で、俺様との戦いで戦死した事に」
「うっ……」
「この女はその恐怖と戦いながら、今日まで生きた。心のどこかに自分の未来が変わると信じてな~」
「ヴィーナ……」
「だが、変わったのは殺され方だけ。俺様が吸収した未来人の情報では、お前らのいた未来では俺様はドラコを吸収し、ヴィーナを八つ裂きにしたとのこと」
「何!」
「リュウ、バトルソルジャー……いや、ルーナ、お前らは未来でもこの時代でも結局娘を守れなかった。娘を犠牲にして勝利を得て嬉しいか~?役立たずな親御さん方」
魔王のその言葉に、リュウもルーナも何も言えなかった。
「俺様は優しい人間だ。娘だけじゃ可愛そうだろう。お前たち二人を吸収してやろう。そうすれば親子3人俺様の中で生き続けられるぞ」
魔王の言葉を聞いているうちに、リュウとルーナはすでに戦意を失っていた。
「ぼ、僕にはどうすることも出来ないのか……」
「安心しろ小僧。この二人を吸収した後はお前もそしてお前の姉も吸収してやる。ありがたく思え」
「そ、そうかい……なら、先に僕を吸収してほしい……体中が痛いから辛いんだ」
「そうか。いいだろう」
魔王はナイトの近くに行き、吸収し始めた。
「(僕に出来る事は、リュウ兄ちゃんたちを正気に戻すこと)」
「どうした?俺様の中で生き、共に世界を支配しようではないか」
「へへっ……嫌だね」
「何!?」
「リュウ兄ちゃん!ルーナお姉ちゃん助けて~!」
「小僧、あきらめろ。奴らはすでに戦意を失っておる」
「僕は信じてる。必ずバトルソルジャーが助けてくれると」
「ほざけ」
「うっ……うわ~!リュウ兄ちゃん、ルーナお姉ちゃん……バトルソルジャー助けて~!」
その言葉に戦意を失っていたリュウとルーナが正気に戻った。
「ナイト君」
「魔王!ここでお前を倒さねば、それこそ娘は犬死だ」
「俺様を倒す?ほざけ!」
「俺もヴィーナも運命が決まっていた。生まれる前から名前と運命がな……そして魔王、貴様が死ぬ運命も決まっているんだ。どう未来が変わろうと、俺がお前を殺すからな」
その時だった。
空から大声でこう叫ぶ者がいた。
「よく言った。それでこそ我が息子、リュウ・シー・ドーラだ」
「ドーラ……」
「父さん……いえドーラ様」
「いいだろう。貴様らドーラ一族全員、この手で殺してやる」
果たして戦士たちは未来を守ることが出来るのか?