第34章 マーナの魂
土方たちがカーワ村に戻った時にはすでに深夜となっていた。
「あっ、戻ってきた」
ルーナが笑顔でそう言った。
「よう、戻ってきたぜ」
「おお、王女、ご無事でしたか」
「ザムー隊長。私は大丈夫です。ですが、父と母が」
土方たちは他の戦士に説明をした。
「そうでしたか」
「さて、仲間を元に戻そう」
戦士たちが聖水をかけると、石になった者たちが元に戻った。
そしてそれまでの事を説明した。
「では、あの二人は土方とキャーロットなのですね」
ギゾランの問いにマジックが答えた。
「そうじゃ」
「お姉ちゃ~ん」
「ナイト……ありがとうね」
「キャーロット」
「なんだ?ギゾラン」
「私はお前になんて詫びればいいのか……」
「気にするな」
「でも……」
「オイラの墓前で何度も謝っていたじゃないか。もう、気にするなよ」
「……ありがとう」
「じーさん、マーナの魂を呼び寄せてやってくれよ」
「分かっておるが、今はいつ魔王が攻めてくるか分からん」
その言葉に土方は微笑みながらこう答えた。
「ヤツはしばらくは来ないと思うぜ」
「何!?」
「ヤツは頭もいいし、感も鋭い。カーワ村にじーさんたちを残してくるとこまで読んでいた。まあ、さすがに俺とキャーロットがいたのことまでは読めんかったが……ヤツがもし攻めてくるなら3日後だろう」
「何故そう思う」
「俺は王だろうが誰だろうが、敵となった者に容赦はしない。だが、皆はそれができない」
「確かに……お前が消えたら、体を乗っ取っられた王に、誰も手は出せん」
「だが、一人だけいる。ナイト、アイツなら強いし、王だろうが誰だろうが、俺みたいに本気で相手ができる」
会話を聞いていたニーナ王女はもはや父も母も助けられないんだとあきらめようとした。
美しく気品あるニーナはまだ17歳。
だが、悲しい真実を受け止め、涙をこらえた。
その姿を見た土方はこう思った。
「(強い姫さんだな)」
「王様だろうが王妃だろうが僕がやっつけます」
ナイトが笑いながらそう言った。
「じゃあ、ねーさんの体を借りて、マーナの魂を呼び出してくれ」
「分かった」
「あっ、でも待てよ。魂が入っている1週間、ねーさんじゃなくなるのはまずいな」
「確かに、ルーナの力は必要じゃ」
この話を聞いていたニーナはこう言った。
「私が体をお貸しします」
「姫さん……」
「でも一つお願いがあります」
「なんだい?」
「父と母を苦しませず、安らかな眠りを与えてください」
「それは無理だ」
「な、何故ですか?」
「アンタの親御さんを元に戻すからさ」
「えっ!?」
「魂が入っていられるのは7日だ。それまで、ナイトが殺さない程度に相手をすれば、王たちは戻れる」
「本当ですか」
「ああ……ナイトにも人殺しはさせたくないし……」
ニーナは喜んだ。
そしてマジックはマーナの魂を呼び寄せ始めた。
体を貸しているものの魂はあの世とこの世の境目におり、そこで7日間魂は眠った状態となる。
そのため、7日間は何の記憶もない。
魂呼び寄せの術は死者復活術に比べれば楽な魔法で、そのため時間もそれほどかからない。
1時間くらいで魂呼び寄せの術は終了する。
「ふう……今王女の体にマーナの魂を憑依した」
「本当ですか?」
「ああ」
「マ、マーナか?」
ニーナの目が開き、そして返事をした。
「はい、お姉ちゃん」
「マーナ!」
マーナの魂が憑依したニーナの体を抱きしめるレイラ。
「すまない。私はお前を守ってやれなかった」
「お姉ちゃん、私は気にしていません」
するとギゾランが彼女に土下座した。
「全ては私が悪い。いかなる罰も受けよう」
「ギゾランさん。貴女は操られていたのですから気にしないでください」
マーナは優しく微笑みそう言った。
「そうです。ギゾランさん。全ては私の弟のせいです。罰なら私が受けます」
「マリー……」
「前も言ったが、あの時誰かのせいにするなら、あの時いた全員のせいだ。マーナが誰かを罰したいなら、あの時いた者、俺を含む全ての者達に罰を与えるんだ」
「私は誰も憎んでも恨んでもいません。だから罰する気はありません。だから、これからの数日間、皆さんと楽しく過したいです」
「そうだな。俺はあと、三日もいられないが、それまでよろしくな」
その後、レイラは新たな仲間たちを紹介した。
「では皆さん、7日間よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「それからお姉ちゃん、村の皆が私の墓前でお姉ちゃんや皆さんの安全を祈っています」
「そうか」
レイラは心の中で喜んだ。
果たして三日後、どのような現実が待っているのだろうか……