第32章 真の美しさ
ゴルゴーンに気を取られて、魔王を取り逃がした戦士たち。
「早いとこコイツを退治すればいいのだろう」
と、土方がゴルゴーンに斬りかかった。
だが、彼女は悪霊だ。
そのため実体がない。
「ふふっ、私を切り殺す事なんて出来んぞ」
「クソ!」
その時、ルーナがゴルゴーンを説得し始めた。
「お願いやめて。誰かを傷つければ傷つけるほど、あなたはの心が醜くなってしまうわ」
「なんだと!ん?お前、アイツに似ている。私が切り殺してやろうと思ったディーテにな。いいか。私が世界で一番美しかったのに、母テーナは私を醜い姿に変え、さらにはウーマにしやがったんだ」
「知っているわ。でもあなたのお母さんは、自分にも責任を感じ、焼き死のうとしたり、死ぬ前にペルセさんにあなたを許してねと言い残したり、最後まで貴女の事を思っていたのよ。ウーマの姿に変えても翼を生やしたのも、貴女にせめて自由に大空を飛んでほしかったから」
「うるさい!お前のような女、呪い殺してやる」
ゴルゴーンの目が光、突如ルーナが苦しみ始めた。
「ねーさん」
「くくっ、ゆっくりと時間をかけて殺してやる」
「ハアハア……わ、私を殺したいなら、殺せばいい……で、でも、これで最後にして、安らかに眠って……あなたは千年も一人で、この洞窟に閉じ込められていた。その苦痛と孤独感は私には想像もつかない……だから、私を殺したら、安かに眠って、来世で幸せになって」
「ダメだねーさん!アンタが死んだら、リュウはどうなる。ヴィーナだって存在しなくなるんだぞ」
「そうですよ。ルーナさん。僕のため、ヴィーナのため、そして世界の平和のために生きてください」
「総司くん、リュウくん……うっ……」
「ゴルゴーン!ねーさんを呪い殺したら、俺も悪霊となって、てめ~を永遠に呪い続けてやる」
「何故だ!何故美しかった頃の私には男共は誰も相手にしてくれなかったのに、何故その女には男共が慕う」
「男だけじゃね~。この人はいろんな女性からも慕われているんだ」
「私は母からも嫌われていたのに」
「ゴルゴーンさん、さっきも言ったように、あなたのお母さんは貴女を嫌ってなんかいないわ」
「う、うるさい」
「お前が美しかった頃に、誰も相手にしなかったのは、お前の心が醜いからだ。だが、ねーさんは違う。お前のために死んでもいいと言える女性なんだ」
「ハアハア……ゴルゴーンさん、貴女の心が清く美しくなれば、貴女を慕ってくれる人が必ずいるわ」
「う、うるさい。私はもう死んでいるんだ。死人を相手にしてくれる者がいるか」
「いるさ」
「ああ?」
「俺とキャーロットがな。死人同士なら分かるだろう。俺もそこにいる男も、死んでいることが」
「うっ……(確かにこいつらから生命力を感じない)」
「俺たちは、ねーさんたちを守るため、短期間だが、魔法で人の体を借りているだけだ」
「お、お前たちは死んでもなお、この女や、他の仲間を守ると言うのか」
「そうだ。俺の仲間は武士と言う真の戦士。俺はその武士を守護する摩利支天だ」
摩利支天……仏教の守護神である天部の一つ。
日本では摩利支天は武士の守護神とされている。
「だからゴルゴーン、この人を呪うのをやめてくれ」
「本当に私の仲間になってくれるのか?」
「ああ、それにあの世には、アンタの母親もいる。だがら安心して成仏するんだ」
「私に仲間が……」
彼女は嬉し涙を流した。
そしてルーナにかけた呪いの術を解いた。
すると彼女の醜い顔が美しかった頃の顔になった。
「誰か鏡を」
土方は村人から鏡を借りた。
「見ろよ。今のあんたの顔を」
「あっ……昔の私の顔だわ」
「清い心のお前は本当に美しい。きっとあの世の男共からも、女からも慕われるよ」
その言葉にゴルゴーンの顔が赤くなった。
「うむ。確かにいい女じゃ」
「ほんに」
村人たちもゴルゴーンの美しさを認めた。
「俺とキャーロットはもう数日この世にいるが、すぐにあの世に行く。だから先に行ってくれ」
「ありがとう皆……あと、ルーナとか言いましたね」
「あっ、はい」
「貴女は本当に美しい人だ。心も顔も」
「そ、そんな」
「あの世に行ったら、迷惑かけた村の人たちに謝らなければいけないな」
「ああ、じゃあ、先に行っていてくれ」
「はい」
彼女の全身が光、そして消えた。
村人は後に、母テーナの隣の墓に彼女の墓を作ったと云う。
戦士たちは聖水をビンに入れ、カーワ村へ向かった。
逃げた魔王の新たな罠が戦士たちを待っているとも知らず。