第29章 謎の二人
ルーナと一つとなり、大人の男になったリュウだが、彼は今でも心の底で恐怖と戦っていた。
自分が知る未来と、歴史がかなり違うため自分が消える可能性が十分にあると思ってしまうのであろう。
その頃宿ではレイラとナイトが雑談していた。
「それで、レイラ姉ちゃんの妹さん亡くなったんですか~」
「そうよ。結局私は妹を守れなかったのよ」
「それは僕も同じ……大好きなお姉ちゃんを守れなかった」
「でもまだ、ナイトの姉は生きている。聖水を見つければ助かるから」
「そうですね」
「ただいま」
ようやく二人が部屋へ戻ってきた。
「リュウ、少しは元気出たか?」
「はい」
と笑顔で答えたが、心の中は不安と恐怖でいっぱいだった。
そして次の日の朝、彼らは再びリュウグ村を目指し旅に出た。
そして昼過ぎになり、戦士たちは野原で休憩を取った。
その時だった。
我々の世界のホスト風のイケメン男が二人現れた。
一人は金髪で青い瞳をし、もう一人は黒髪だ。
「おい、お前らがバトルソルジャーだろう」
と金髪の方のイケメンが問いかけてきた。
「そうよ」
「俺たち、魔王さまの手下にしてもらうため、土産にお前らの首をいただく」
4人は呆れていた。
今はこんなのと関わっている暇はない。
「馬鹿なことは考えないでおとなしく家に帰りなさい」
と、ルーナが説得した。
「俺たちが怖いのか?」
「あのね!私たちはあんた達みたいなのを、今相手にしている暇はないの」
「そういうなよ。噂どおりの美人だな。殺す前に、あっちの相手もしてもらおうかな」
これではルーナとリュウが出会った時と同じようなセリフだ。
そしてルーナは金髪を思いっきり叩いた。
パチーン!
「いて~」
「これ以上痛い目に会いたくなければ、ここから消えなさい」
「おい、黒髪、手を出すなよ。こいつらは俺一人で十分だ」
「分かった」
「僕が戦うよ」
「ナイト君、ここは私に任せて」
「面倒だから4人でかかって来いよ」
「私一人で十分よ」
「そうかい」
そう言うと、金髪はルーナの鳩尾に正拳突きを放ち見事に決まった。
「ルーナさん」
「おいおい、もうおしまいか?」
「くっ……(なんて重い一撃なの……)」
「おいそこの男女」
「ぼ、僕のことか?」
「ああ、震えているぜ」
リュウは完全に、自分が消えるかもしれないという恐怖に襲われていた。
「お前ら弱すぎだな。やはりこれからは魔王さまの時代だ」
「怖い……」
「リュウくん」
「リュウ」
「リュウ兄ちゃん」
「バトルソルジャーもその仲間も弱いな~」
「ああ」
「そう言えば、格好つけて魔王さまに一人で攻めて、死んだ雑魚もいたらしいな~」
「総司君のことを悪く言わないで」
「そうだ。アイツは雑魚じゃないぞ」
「土方さんは僕の師匠なんだ。お前なんかよりはるかに強い」
「おい、そこの男女、お前は何も言わんのか?」
「もう嫌だ。もう戦いなんかしたくない」
「リュウ」
「リュウ君」
「僕が相手だ」
ナイトは、刃引き刀を抜いた。
「何だそれ。玩具じゃね~か」
「玩具じゃない。僕のお姉ちゃんが作ってくれた刀だ」
「そこの男女も似たような刀差しているが、抜いたらどうだ?あっ、怖くて抜けないか。腰抜けだな~」
「リュウ兄ちゃんや土方さんの悪口言うな~」
ナイトが金髪の喉めがけて突きを放った。
だが、あっさりと紙一重で避けられた。
そしてナイトの顔面に正拳突きを放ち、これも決まった。
「ナイトくん」
ルーナがナイトの名を呼んだ瞬間に、ルーナの背後を取った。
「殺す前にあっちの相手をしてもらおうかな」
「さ、触らないで」
「今度は私が相手だ」
「黒髪、ソイツはお前にやるよ。俺はバトルソルジャーをいただくぜ」
「くっ……」
「じゃあ、遠慮なく」
「(このままじゃ、レイラさんもルーナさんも犯されてしまう)」
「さて、どこから攻めようかな」
「やめろ!」
震えていたリュウが大声で叫んだ。
「これ以上僕の仲間に手を出すな」
「嫌だといったら」
その言葉にリュウはついに刀を抜いた。
「臆病者がカッコつけるなよ」
金髪がそういった瞬間、神速で金髪の間合いに入った。
そして足を凍らせて、動きを封じ、三段突きを放った。
だが、金髪は避けると同時に、リュウが差している鉄ごしらえの鞘を奪い、そのまま袈裟斬りが決まった。
「リュウくん!」
「ハアハア……男女、いや、リュウ、強くなったな」
「えっ?」
「ナイト、お前も強くなったな」
「ま、まさか土方さん!?」
「ああそうだ。あっちはキャーロットだ」
「本当に総司君なの?」
「ああ、マジックのじーさんが、俺たちの魂を呼び寄せたんだ」
「マジック様が」
「魂呼び寄せの術というらしいな」
魂呼び寄せの術……生きている人間に死者の魂を吹き込む術。
ただし、死者の魂は死んでから1年以内でないと効果はない。
現在この術を行なうためには国王の許可がいる。
また、魂を吹き込まれる人間の承諾がなければ行なってはいけない術だ。
死者の魂がその生きた人間に入っていられるのは7日間で、それを過ぎると自然に魂は消えてしまい、肉体を貸した人間の魂が戻ってくるのだ。
「で、肉体を借りた人たちは誰ですか?」
「ポリス隊の平隊士だ。じーさんはファンジーの街に行き、この術を行なうため、国王に許可をしてもらい、ポリス隊から2名肉体を貸してもらえるように頼んだらしい。で、この二人が自ら貸すと言ってきたらしい。まあ、オッサンじゃなくて良かったよ。俺ほどじゃないがイケメンだしね」
その言葉に一同が笑った。
「でも借り物の体だ。下手に傷をつけれないし、肉体が滅んだら、その者は死ぬ事となる。それでもこの二人は貸すと自ら言ってきた。仮に死んでも平和のために役立てるなら本望だとさ」
その言葉を聞いて、リュウは、自分が消えてしまうかもしれないという事で怯えていた自分が恥ずかしく思えた。
「大体のことはレイラやギゾランが俺たちの墓前で話してくれていたから知っている。もちろんレイラが俺に告白してくれたことも知っている」
その言葉にレイラは真っ赤になった。
「あとレイラ、聖水を見付け帰ったら、妹さんの魂に合わせてくれるとさ。まあ、その時はねーさんか誰かに体を貸してもらえ」
「私でよければ喜んでお貸しします」
「さて、俺たちは死ぬ事も恐れぬ。まあ、俺とキャーロットは死んでいるが……そこで魔王と戦うものたちを死戦組と名づけようと思う」
「死戦組!」
「いい名だろう」
「え、縁起が良くないよう気がするが……」
「何か言ったか?レイラ?」
「い、いや……」
「わ~い。カッコいい名前!」
「そうだろうナイト。よし、俺たちもこの体に入っていられるのは、あと六日くらいしかないから、急ぐぞ」
あの土方とキャーロットが短期間だが戻ってきた。
リュウも土方のおかげで、恐怖に打ち勝つことができた。
だが、時間はない。