第24章 決まった未来など存在しない
時空の術の影響でこの時代にいるはずのないリュウが存在している。
彼が未来から過去に来て、記憶を無くし、ルーナたちと出会い、魔王と戦う。
それは本当に決められた事なのだろうか?
時空の術によって歴史は当然無茶苦茶になっている。
リュウは運よく未来で聞かされた通りになっているが、中には土方の死に方が違ったり、魔の四天王のゾイの死に方も違っている。
さらにリュウが未来で聞いた話に、ある男の名がない。
その男はターム・マジンがはじめて術を使った時に、時空に飲み込まれたラーベル・ブールという未来の犯罪者だ。
リュウのいた未来では、この男は別の時代に流れ着き、その時代でも犯罪を犯し極刑となっている。
だが、彼は未来とは違い、この時代に流れ着いてしまった。
そしてこの男が魔王と手を組んだら、さらに違う歴史が生まれる。
リュウ自身も言っていたが、未来は簡単に変わってしまうのだ。
その頃魔王とカミューはキングドラコを探しに、白竜の森の近くに来ていた。
「このどこかにキングドラコがいるのですね」
「おそらく……最後の一匹がな」
「はっ!魔王様」
「うん」
二人が何かの気配に気がついた。
そう、その男こそ、ラーベルだ。
「誰だ貴様」
とカミューが訪ねた。
「俺の名はラーベル・ブール」
「ラーベル・ブール?」
「アンタが魔王だろう」
「貴様無礼だぞ」
「女、そう騒ぐな」
「何!」
「俺は未来から来たからね。この先のある程度の事は知っている」
「面白いヤツじゃ」
魔王は薄ら笑いそう呟いた。
「信じられないかもしれんが、本当だ。そしてこのまま行けば、あんたらは負ける」
その言葉に魔王から笑みが消えた。
「その左目、土方総司とか言う武道家にやられたんだろう」
「ああ……貴様はあの時にいたのか?」
「いや、いなかったが知っている。今からアンタがドラコを吸収しようとしていることも」
「ほう……」
魔王はまだ、ラーベルの話を本気にしていなかった。
「ゴン・ドーラにソックリな男」
その言葉に魔王の顔が険しくなった。
「ヤツもこの時代の人間じゃない。未来から来たゴン・ドーラの息子だ」
「フン、ドーラの息子が未来から来たのなら、もっと年を取っているはずだろう」
「本来なら、ゴン・ドーラは60くらいだが、ヤツも時空に飲まれて、過去から来たため、まだ10歳のままだ」
そう言って彼はある手紙をポケットから出した。
ボロボロになったその手紙とは、あのターム・マジンの遺書だった。
「コイツは俺が時空に飲まれる前に、カーワ村に盗みに入ったとき手に入れたものだ」
「くだらん。そろそろ消えなければ、カミューに殺させるぞ」
その言葉にラーベルはこう答えた。
「いいぜ」
彼の目は本気だった。
「俺の言葉が信じられないなら、俺を吸収したらどうだ。魔王よ」
「貴様をか?」
「ああ、俺はたいした力はないが、未来から来たため、アンタがどのようにやられるか知っている。どうだ。この俺の中の未来の情報、ほしくないか?」
「本気か?」
「ああ、本気じゃなきゃ、アンタみたいな恐ろしい男の前に無防備で現れないぜ」
「魔王さま」
魔王はタームの遺書を読み始めた。
「俺も最初は書いてある意味が分からなかった。たまたまカーワ村の長老の家を襲ったときに高そうな本の中にソイツが入っていた。ターム・マジンは未来ではそこそこ有名な魔法使いだ。だが、この時代にいないはずのヤツがこの時代で自殺をするのはおかしい。その手紙の意味を本当に知ったのはこの時代に来た時……ほんの4日前だ。そいつが時空の術とか言うのを使うと、その時代の誰かが時空に飲まれるみたいだ。もちろんこの俺も……」
「なるほどな」
「ただ、歴史は変わることもある。魔王が倒された未来があるならば、その逆も……魔王が勝者となる未来も作れるはず。現に俺は、魔王を倒された未来では、この時代にたどり着いていない。本来俺がたどり着いた時代は、確か今から30年後……この年に俺と同じ名のヤツが殺人を犯し、極刑となっている。こいつがたぶん別の俺だろう。だが、歴史は変わった。俺がこの時代に来たという事はアンタが勝利する未来も存在する可能性がある」
「確かに」
「俺は小悪党で終わるのは嫌だ。だからアンタと共に、この世界を支配したい。だから吸収されてもかまわない」
彼の目は本気だった。
「分かった。貴様の持っている未来の情報全ていただく事にする」
「魔王様!」
「カミュー、俺様がコイツを吸収するまで、邪魔が入らんよう見張っておけ」
「は、はい」
「ラーベル、お前は俺様の中で生き、俺様と共に世界を支配させてやる」
「光栄な事だ」
こうして魔王はラーベルを吸収し始めた。
その頃リュウたちは……
「では、未来で聞いた話では、ワシらはドラコを吸収した魔王と戦ったのじゃな」
「はい。何のドラコは分かりません。でもその姿からドラコを吸収したと聞きました」
「出来ることなら、それを阻止出来んかのう」
「未来は変わることもあります。何のドラコか分かれば、阻止できる可能性はあります」
「う~む……ヤツが吸収しそうなドラコといえば、ビックドラコかキングドラコ……じゃがどちらのドラコもすでに絶滅しておる。となるとファイヤードラコ辺りかも……」
「ファイヤードラコなら、私やキャーロットの故郷サーヤ村の近くに生息しております」
「クエ~」
と、キャーロットの飼っていたドラコ、ロンが飛びながら鳴いた。
そう、このドラコがファイヤードラコである。
といっても、ロンはまだ子供のドラコであるが。
「よし、ギゾランとドーラとワシでサーヤ村付近を探索するか」
「はい」
「残りの者は、シンやカミューが来るかもしれぬから、村を守るように」
「分かりました」
そして3人は浮遊術でサーヤ村へと向かった。
だがサーヤ村は、今魔王がいる場所とは正反対のところにあるのであった。