番外編 土方総司外伝 後編
美奈子の父、勇の弟子となった総司。
さらに家に帰れば、祖父から今まで以上の稽古をつけてもらっていた。
おかげでいじめられなくなったが、いじめをしていた者たちは別の生徒をいじめはじめた。
総司は師である勇の約束どおり、弱き者たちを守る立場となっていた。
「よ、弱い者いじめはもうやめろ!」
震えながらも、いじめっ子に立ち向かう総司。
「お、お前なんか如月先輩がいなければ怖くね~んだぞ」
そう言っていじめっ子は去っていった。
「大丈夫?原田くん、永倉くん」
「ありがとう土方君」
「土方君はいつの間にか強くなったんだね」
「これも美奈子さんと美奈子さんのお父さんと、あとおじいちゃんのおかげだよ」
母を早く亡くし、父が刑務所に入ってしまったため、総司はおじいちゃんっ子だった。
だが、そんな祖父も彼が10歳の時病死してしまう。
そして彼を引き取る身内がいないため、総司は如月家へ居候することとなった。
彼は強くなるため修行に励んだ。
現代武道だけでなく、日本の古武術にも興味を持ち、独学で学んでいた。
「本当に強くなったわね。総司君」
「いや~、まだ美奈子さんには敵いませんよ。あ、あのう美奈子さん」
「な~に」
「ぼ、僕……何でもない」
彼は美奈子に告白しようとしたが、思いを告げることができなかった。
そしてこの時のことを、後に彼は後悔することとなる。
総司が美奈子に恋心を抱いていたように、総司に恋する女がいた。
近藤真琴と言う総司と同級生の女性だ。
総司には幸せな時間であった。
だが、悲劇が起きてしまう。
総司が14歳の時、自分の好きな美奈子が車に轢かれそうだった子供を助けようとし、子供の変わりに彼女は事故死した。
高校を卒業して、看護学校に通い、母親のような看護師になろうとしていた女性が、19歳の若さでこの世を去ってしまった。
そして彼女を失った事により、土方総司は修羅と化した。
髪を金髪に染め、喧嘩に明け暮れる毎日……
だが、満たされる事はなかった。
また、勇は彼を破門しなかった。
彼の怒りと悲しみが痛いほど分かるからだ。
もし、勇が総司くらいの若さだったら、愛しい娘を失い、それにより荒んだ人生を歩んだだろう。
総司も勇に迷惑をかけないように如月家に帰る事はなく、小さなアパートでヤンチャ仲間の先輩たちと暮らしていた。
「総司」
「なんですか?山南さん」
「お前に客だ」
総司を訪れたのは近藤真琴だった。
「かわいい子じゃね~か。お前に彼女がいたなんて、教えてくれないとは水くさいな」
「彼女じゃないですよ」
「ふ~ん。まあいいや俺も女のところに行くから今日は自由に使え」
そう言って先輩は出て行った。
「総司君」
「まあ、上がれよ」
「うん」
その後しばらく、無言で時だけが流れた。
「お、おい、何の用できたんだ?」
その言葉に、真琴も話し始めた。
「あ、あのう……総司君が如月先輩の事が好きなのは分かっていました」
「……」
「でも私は総司君のことが」
「真琴……」
「総司君の彼女に……なんでもない」
彼女がそういった後、総司は真琴にキスをし、そのまま抱きしめた。
「総司君」
「はっ!す、すまない……」
「いいの……総司君に抱かれたい」
「真琴……ダメだ」
「どうして?私が嫌いですか?」
「いや、お前には俺よりいい男を見つけて幸せになってもらいたい。俺はこれから旅に出るつもりだ」
「えっ?」
「真の強さを求めるために旅に出る」
「そうなんだ……私も一緒に」
「ダメだ。俺のことを思うなら一人で行かせてくれ」
「……分かりました。では、もう会うことはないよね」
「ああ」
「なら、せめて総司君との思い出がほしい」
そう言って彼女は服を脱ぐはじめた。
「真琴……本当にいいのか?」
「はい、私の我がまま聞いてください」
「……真琴」
「総司くん……今だけは私のことだけを考えて」
「ああ」
その後二人が会うことは二度となかった。
そして美奈子を失ってから1年が過ぎた。
総司は師匠である勇に1年ぶりに会いに来た。
「本来なら破門されてもおかしくないのに、自分を今でも弟子のままにしてくださってありがとうございます」
「山にどれだけの期間こもる気だ」
「分かりません」
「お前中国武術を学びたいと前に言っていたよな」
「はい」
「もう二度とここには帰ってこぬか」
「今までありがとうございました」
「ちょっと待っておれ」
勇は席を外し、しばらくしたらある物を持ってきた。
「無銘だが、ワシが知人の刀匠人に無理を言って作ってもらった刀だ。持っていけ」
「いいんですか」
「ああ、時々その刀を見て、ワシや美奈子のことを思い出してくれ」
「はい」
彼の目から涙が流れた。
そして彼は山に篭った。
真の強さを手に入れるために……
そして山に篭って1年後に暗闇に飲み込まれ、魔法の世界へ行く事となるのであった。
次回からまた本編に戻れるように、ネタ頑張って考えます。