第12章 武士道とは死ぬ事と見つけたり
夜キャーロットを弔い、そして朝日が昇った。
戦士たちはドーラの家で、今後について話し合っていた。
「誰も何も言わないが、何か意見はないのか?」
そういいながら、マジックは牛乳のような物を飲んだ。
「魔王ビルダーを見て、お主たち恐怖を感じたか?なら、出て行ってもいいぞ。出て行ったからって、臆病者とは誰も思わん。相手が悪すぎただけだからな」
「お、俺、こんなに恐怖を感じたのは初めてだ。まさかあんな化け物とは……」
土方が震えながらそう言った。
「(あの総司君が怯えているなんて)総司君、大丈夫?」
「情けね~、今まで大口叩いといて……本当の俺は臆病者だ。昔はいじめられていたし、リュウやキャーロットには言ったが、自分のいた世界で好きだった人に振られるのが怖くて、告白できなかったし……やっぱり臆病者なんだ」
「そんなことないわ。むしろ今までよく戦ってくれたわ」
「ね~さん」
「元々総司君はこの世界の住人じゃないのに」
「ルーナね~さん……」
「総司君だけじゃなく、他の皆も、無理して私に付き合わなくてもいいからね」
その言葉に誰も反応しなかった。
「臆病者は俺だけか……」
「土方、お前は私が今まで戦った中でもかなり強い。ここを出て行っても誰にも臆病者なんていわせないから」
「レイラ……」
「土方さんのおかげで、告白する勇気を貰いました。その事は一生忘れません」
「リュウ……」
「弟のせいで土方さんにまで迷惑をかけてスイマセン」
「マリー……お前は悪くないからね」
「私は特に言う事はない」
「ギゾラン……」
「お前はまだ若い。これからじゃ」
「じーさん……いや、マジック様」
「いつか、元の世界へ戻れるといいね」
「ありがとう。ね~さん、皆……」
そう言って土方はドーラの家を出た。
「さて、これからどうするか話し合いましょう」
「あっ、アイツにやっぱ一言言いたかった」
「今ならまだ近くにいるはずだから、言ってきて」
「すまん、すぐ戻る」
ギゾランは土方の後を追いかけた。
そして村の外れで土方に追いついた。
「ギゾラン、お前まで出てきたのか?」
「フン……なかなか役者だな~お前」
「何のことだ?」
「お前、魔王のとこに行く気だろう」
「まさか~」
「お前はキャーロットと同じだ。強いやつと戦いたいだけの男……でも心の優しい男。だから、仲間を犠牲にしたくないためにあんな芝居をした。そうだろう」
「確かに、強いやつと戦いたいのは、キャーロットと同じだ。だが、キャーロットと違うとこもある。魔王と戦うのは仲間のためではなく己のため……俺の中の修羅の血が騒ぐんだ。それと、アイツは人が殺せんが、俺は裏のバトルカジノで3人殺した事がある」
「そうか……で、勝てるのか?」
「さあな。だが、心の底から恐怖を感じたのは本当だ。この事はね~さんたちには言うなよ。魔王は俺の獲物だから」
土方のその言葉にギゾランは恐れを感じた。
「あっ、そうだ。もし、俺が死んだら、短期間だったが皆と過した時間すごく楽しかった。ありがとう。そう伝えてくれ」
「土方……」
「じゃあ」
「土方!その言葉は私は伝えない。だから、生きて帰って自分で伝えろ」
「そうか……そうだな……じゃあな。あっ、そうそう、やつらのアジトはどこだ?」
「ここから北西の方角にあるワールの森にやつらのアジトがある」
「ワールの森か遠いな~、途中でウーマを手に入れるか」
ウーマとは、我々世界の馬のような生き物だが、頭に一本角があるから馬というより伝説の生き物ユニコーンに近い。
また、このウーマはかなり高価な生き物で、安くても日本円で50万円はする。
「マーネはあるのか?」
「ああ、バトルカジノでかなり稼いだから」
そう言って魔王のいるアジトを目指し、歩き始めた。
その頃クーロン……いや、魔王のアジトでは……
「貴様ら、何を怯えておる?」
手下たちは魔王に怯えていた。
「それにしても、ここは俺様に相応しくない場所だ。よし、明日にでもファンジーの街にあるファンジー城を攻めるか」
魔王はそう言いながら不気味に笑った。
そして夕方……
魔王が何かに気づいた。
そして外いる門番たちが騒ぎ始めた。
「土方総司参上!」
そう言いながら、途中で手に入れたウーマ乗って、土方は攻め込んだ。
「雑魚に用無い。魔王を出せ!」
魔王のいる部屋へ一人の手下が入室してきた。
「も、申し上げます。し、侵入者が一人……」
「バトルソルジャーか!いや、このパワーはヤツじゃない」
そう言って魔王は外に出た。
「お前か」
「よう、喧嘩売りに来たぜ」
そういうとウーマから降りた。
「ギゾランを倒したのか?」
「アイツはキャーロットの命と引き換えに元に戻った」
「そうか……使えない女だ。それより他の連中はどうした?臆して来れぬか?」
「お前程度なら俺一人で十分だ」
「ハハハッ!面白いヤツだ。どうだ、あの女の変わりに俺様の手下にならんか?」
「嫌だ」
「そうか。残念だ」
「んなことより、一対一で勝負せい!」
「たいまん?面白い小僧だ」
「お前の顔ほどじゃないさ」
「頭に乗るな!」
土方はついに魔王を怒らせた。
「(怖え~、正直逃げ出したいくらいだ。だが、それと同時に修羅の血が騒ぐ)」
そして二人戦いが始まった。
その頃ルーナたちは、夜の奇襲は手下たちが警戒していると読み、早朝なら、気を抜く者も出てくると判断し、そのために体を休めていた。
「ルーナ、どうした?怖いのならお前も出て行ったほうがいい」
とレイラがルーナに言った。
「いや、そうじゃいいわ。ただ、嫌な予感がするだけ」
「ルーナさん、大丈夫ですよ」
「リュウくん……」
「では、僕とマジック様は長老様の家で休みますから」
だが、マジックの様子がおかしい。
「マジック様?」
「二つの強いパワーが激しくぶつかり合っておる」
「えっ!」
「まさか、あの少年が……」
「総司くん!」
彼の名を呼び、ルーナは魔王のところへ行こうとした。
「やめておけ」
「ギゾランさん、何故ですか?」
「私たちが加勢に行ってもアイツは喜ばない。いや……恨まれるだろう」
「でも……」
「本当は私、アイツが魔王のところへ行く事を知っていたわ」
「なっ……」
「アイツはこう言っていた。魔王と戦うのは仲間のためではなく己のため……俺の中の修羅の血が騒ぐんだ。それと、キャーロットは人が殺せんが、俺は裏のバトルカジノで3人殺した事がある……その言葉を聞いたとき、私はアイツに恐れを感じた」
「そうだったの……でも、私は行くわ。たとえ恨まれても、総司君は大切な仲間だから」
「そうかい。好きにしな」
「マジック様、この村にウーマはいますか?」
「確か、長老が二頭もっていたはず……行って、借りてきてやろう」
「スイマセン」
「私も行く」
「レイラさん」
「僕も」
「私も」
「リュウくん、マリーちゃん」
しばらくしてマジックが戻ってきた。
「外に二頭用意した」
「ありがとうございます」
ウーマは二頭、しかもリュウとマリーはウーマに乗れない。
そのため、レイラの前にマリーを、ルーナの前にリュウを乗せて、魔王のアジトへ向かった。
「ワシも行くが、お主はどうする?」
「……私も行くわ」
二人は浮遊術でアジトへと向かった。
その頃土方は、魔王との戦いでボロボロであった。
また、魔王自身も、土方によってボロボロであった。
「ハアハア……まさか、こんな小僧一人にここまでやられるとは……貴様何者だ?」
「ハアハア……土方総司。武道家だ」
そういうと天然理心流の「平晴眼」に構え、三段突きをしようとした。
だが、一発目で受け止められた。
「白刃取りか!」
「ホント、珍しい剣だな」
魔王はそう言って、刀を折った。
パリーンと音がした。
だが、土方は刀を離し、魔王の左目を右指で潰した。
「ぐっ……小僧」
魔王の左目から血が流れ落ちる。
魔王は少し距離を置き
「おい、貴様らの剣をよこせ」
手下にそう命じた。
そして手下の一人が、恐る恐る魔王に剣を渡した。
「死ね!」
土方は左に避けようとした。
だが完全に交わすことは出来ず、右腕を斬り落された。
「うっ……ぐわ~」
「ハアハア……そろそろ終わりにしてやる」
そういうと魔王は手から大きな炎を出した。
「生きながら焼かれるのは、かなり苦痛だぞ」
そして魔王の炎が土方を包んだ。
「ぐわ~」
「ハアハア、苦しみながら死んでいけ」
「ぶ、武士道とは死ぬ事と見つけたり……貴様に殺されるくらいなら、自らの死を選ぶわ」
そういうと左手で折れた刀の剣先を拾い、そして自らの腹を切り裂いた。
その時、ルーナたちが到着した。
「総司君!」
ルーナが大声で叫んだ。
宙に浮いているマジックが風の魔法で炎を消し飛ばした。
そしてマジックとギゾランは地上へ下りた。
「マリーちゃん」
「はい」
「無駄だ。そいつは自らの手で死んだ」
そう言った魔王をルーナは睨みつけた。
「貴様ら、バトルソルジャーたちの相手をしろ!」
「は、はい」
「この魔王様が逃げることになるとは……この屈辱必ず晴らしてやる」
そう言って魔王は、この混乱に乗じて逃げ去ろうとした。
「ま、待て~!」
ルーナが大声で叫んだ。
だが、いくら手下とはいえ、100人以上はいる。相手にするには数が多すぎた。
結局、手下たちの相手をしている間に魔王を逃がしてしまった。
この戦いで死者は土方総司1人
重傷者は魔王と手下82人
軽傷者は手下47人
また、戦士たちも軽傷を負った。
その後、手下たちは、我々の世界でいう警察のような組織に捕縛された。
だが、手下たちの中に、軽傷で済んだ者たち47人のうち10人が逃走した。
そして土方の墓はキャーロットの隣に作られた。
その墓の前にレイラが立っていた。
「好きな女に振られるのが怖くて告白できなかった……そう言ったよな。あの後、リュウから詳しく聞いたよ。後悔しているんだってな。フッ……それは私も同じだ。土方、私はお前が好きだった。告白しなかった事に私も後悔している……あの世じゃその美奈子って子に告白しろよ。あと、キャーロットやジャッキー・リーと楽しく喧嘩しな。そして、マーナをよろしく頼むぞ」
レイラは手を合わせ、涙を流した。
すると、晴天だった空が暗くなり、やがて大雨が降り始めた。
まるで天が、彼女に同情してるかのようだった。
レイラはそれから2時間、墓前から動かなかった。