閑話~そんな話
閑話休題の巻。
話の筋に沿っていないけれど、今書きたかった一節を書きました。
めっちゃ寒い、この北の大地に来てひと月。お腹の膨らみは少しずつ目立ち始めている。
この子が、道標。
今まで見守ってくれてた養い親達は居なくなった。見守るべき対象だった私に、赤ん坊という私が守らなくてはならないものが出来たから、お役御免になったらしい。別れの時を思い出すと、喉の奥、暖かくて冷たい重しが呼吸を止めにかかってくる。
すっきりと晴れた実りの季節の昼下がりにその時は訪れた。
ようやくもろもろの雑事を片付け、この北の大地まで来ることが出来た。この地は彼が生まれたところ。自分が死んだらここに帰りたいと、ぽつりともらしたことがあった。だから、彼が生前望んでいたように北の大地に埋葬したかった。例えひと房の遺髪だけだとしても。
月吠えに見つけてもらった大地の楔たる巨樹の根方に無事遺髪を納めてようやく、周りの風景に目を向けるゆとりが出来た。
紅く色づく葉。黄金の頭を垂れる稲穂。暑い季節には足裏に触れると気持ちよかった下生えの草の姿は消え、もう少ししたら白く冷たい霜が落ちてくるだろう。
そんな季節が移ろう中、宵歩きは私の膝裏に頭をすりりとこすりつけ、別れの挨拶を告げてきた。
「 猫のマーキングにはもの凄いご利益があるんよ。だからあんたは誰よりも幸せになれる。伴侶が死んでもどこかできちんと再会できる。今までたくさんの昔語りをしたのは、それを伝えたかったんよ。」
そう笑う。宵歩き本来の話し言葉で。私の大好きな言い回しだ。
「 あたし、また宵歩きや月吠えに会える?」
「 世界が許せば、ね。あたしの相棒が言ってた。全ては螺旋。どこかで必ず一瞬でも交差しあうから、その期を逃さず絡んじまえばこっちのもんだって。だからあんたが次にあたしを見つけたら、あんたの螺旋とあたしの螺旋を絡ませちゃえば一緒にいられるさ。」
「 なんか、絡まりすぎて大変なことになりそうなんだけど。」
宵歩きの台詞に少し泣いた。そんなあたしの膝裏にまた頭をこすりつけ、座るように促してくる。しゃがみ込んだあたしの涙を隣にいた月吠えが柔らかな舌でぺろりと舐めとってくれた。
「 泣くな。親離れ子離れは世の常。だが、ヒトは離れても繋がっているものだろう。お前が我らを忘れない限り我らもお前を忘れることはない。」
「 宵歩きや月吠えを忘れることのほうがむずかしいよ。」
目から垂れ続ける涙を月吠えはさらに舐めてくれる。
「 自分は宵歩きと共に虹の橋の別荘とやらに行く。自分のようなヒトと良い関わりを持てなかった獣でも行ける所らしいからな。そしてそこでお前とお前の伴侶を待っていてやるよ。」
「 あたしは相棒がいいって言ってくれたら、待っててやらないでもないかな。虹の橋は魂の待ち合わせ場所のひとつ。螺旋も交差しやすいんよ。だから螺旋を絡ませる技を身につけとくんやで。」
そして、二匹は木漏れ日にとけこむように、消えた。
今生では二度と会えない。宵歩きとして月吠えとして、二度と会えない。
仕方ない。
私は下腹をそっと撫でた。
まずはこの子を安全なところで産んであげなくては。
私の半身たるあの人とのこども。光の王の強い光を導く道標を。
SNSで痛ましい猫の虐待のニュースを見て、犠牲になった猫は虹の橋にたどり着けたかなと思って。
虹の橋のアナザーストーリーなのか、以前何かで読んだ話だと、野良のコも虹の橋に待ち人が来るという。その相手は家庭の事情やアレルギーで猫や犬が飼えなかった人。虹の橋のたもとで運命に出会って一緒に虹の橋を渡るのだという。
苦しんで逝ってしまったコ達にそんな救いがありますように。




