エピソード1-4
世の中にはお仕置きをされたい種族がいるらしい。
また反対に、お仕置きをしたくてたまらない人間がいるということまで知った。
俺はその晩、はじめて会った女と一夜を共にした。
こう言うと語弊があるが、それとはもっと別の話し合い。
そう、単なる話し合いをしたのだ。
二十も年上の夫は会社で結構なポジションにあるらしい。そのせいで女は引く手あまた。
彼女もまた、飲みの席で知り合い、その日のうちにプロポーズされたという。
年齢的にちゃらちゃらしていることに不安を感じ始めていた彼女は、二つ返事で了承したという。
ところが、夫は結婚しても女遊びを辞めない。
不満に不満を重ねてきた彼女は、ある日部下の一人と親密な関係になってしまった。
ところが夫にすぐバレた。
自分のことは置いておいて、すぐに関係を解消させられたあげく、相手の男は解雇したという。
おや? と頭の中にアニキである譲二が浮かんだが、まぁよくある話だし、きっと気のせいだとも思ったが、彼女はこの庭にある古井戸で夫に仕返しをしたいと言い出した。
それには男の俺の力が必要になるから、それで二百万円渡したと。
なんだ、殺すとかではなく、こらしめるためだったのか。
安心したおれは、女が言うように、彼女が持参した太いしめなわを見てぎょっとした。
「殺したりはしませんわ。だって、そうなったら殺人罪になってしまいますもの。ね? そうでしょう?」
ならば目的はなにかと聞けば、離婚届に判を押すことと、高額の慰謝料の請求という。
そんなもののために、下手すりゃ死んでしまうようなことをするものだろうか?
俺はまったく理解できないまま、女と情事を重ねる。
これで俺も立派な裏切り者だ。
妻のさよことはしていなかったので、なぜか心が疼いた。
「井戸の端の方を、ロープが挟まる程度の溝をつけられないものかしら?」
電子タバコをふかしながら、女がささやく。計画はまだ実行に移してはいないし、とっくの昔に二日は過ぎていたある夜のことだった。
「本当に仕返しをしたいのは、夫じゃないのよね」
「なら、誰なのさ?」
「わたくしの浮気相手。彼を召してしまえば、それを見た夫も言いなりになるじゃない?」
狂ってる。
だがもう乗りかかった船だ。今さら降りると言ったら、このおそろしい女になにをされるかわかったものじゃない。
そして女は、なんのためらいもなくその浮気相手の名前を呼ぶのだった。
「待っていてね、譲二。あたしがたっぷりあなたを苦しめてあげるわ」
つづく