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ライフ志村、午後五時〜セルフィー(自撮り)とセルフレジトラブル

片山京奈(28)は、二階の六畳間で目を覚ました。まだ5時前だ。朝の光が、雨戸の隙間から細く差し込み、畳に淡い影を落としている。


昨夜アップロードした動画──《午前9時の私4: Deeper》──のコメント欄が、頭に浮かぶ。スマホを手に取り、OnlyFansのアプリを開く。


回を重ねるごとに露出度を上げ、確信犯的に秘密のパーツを映像に徐々に忍び込ませてきた。やはり売るためにはそれしか無い。


通知が赤く点滅し、第四作は再生回数が1267に達している。購読者89人、コメント214件。英語、日本語、中華圏の言語が混じり、賑わっている。


露出度を上げた動画──湯楽の里の洗い場で、鏡越しにシャワーを浴びる自分の身体。意図的に乳首の先端を湯気の隙間から覗かせ、ピンクの突起が光を反射するように。


性器の輪郭は泡でぼかし、柔らかな陰影を残し、中腰の動作で肛門の皺の一部を露わにした。細かな皺のテクスチャが、15分の映像に刻まれている。


控えめなピアノの単音BGM、スローモーションで強調された身体の微かな動き。


匿名1“This is her. The same silhouette from the HMC promo. You can’t hide a line like that. ケーナ、君だよね?”(これは彼女だ。HMCのプロモと同じ輪郭。あんな背中のライン、隠しきれない。ケーナ、君だろ?)


CameraTaro“A woman burdened by debt shows her worth instead. 帳尻を合わせる美しさだ。”(借金を背負った女が、自らの“価値”を見せて均衡を取る。──それが、ひどく美しい。)


匿名2“湿ったシャワールーム、曇り鏡の隅に写るあれ… deliberate?”(湿ったシャワールーム、曇った鏡の隅。あれ、わざと?)


匿名3(中華圏)“她的肛门皱纹像花一样安静地展开。”(彼女の肛門の皺が、花のように静かに開いている)

匿名4“That soft flesh just above the tailbone… You left it in. Why?”(尾てい骨のすぐ下の、あの柔らかい肉…あえて残したね。なぜ?)


京奈の指が止まる。「ケーナ」の名が、再び浮上している。過去の業界人か、熱心なファンか。


CameraTaroのコメントが、借金の影を直接的に突き刺す。信誠コーポレーションのあの部屋、カメラマンの言葉が蘇る。「価値がある」。


HIROKI──おそらくあの男──のリプライも、追加されている。「Escalating nicely, Keena. But debts are like wrinkles – they deepen. Let’s collaborate. Pay off faster. Office awaits.」


アプリを閉じ、京奈は息を吐く。収益は少し入っているが、利息を返すだけで精一杯。ただ、これまでと違い、働いた分は残る。


ツバメ亭の二階の住み込み部屋で、更なるエスカレーションを決意する。立ち上がり雨戸を開ける。


井戸水をデカンタから飲み、階段を降りる。一階の洗面台で顔を洗い、鏡に映る自分を見つめる。疲れは溜まっているが、目は澄んでいる。


女将さんが残してくれたおにぎりを頬張り、麦茶を一口。残りをラップに包み、ポケットにしまう。


部屋は昭和の面影を残す──古い木製の障子がほんのり黄ばみ、押し入れの引き戸はわずかに歪んでいる。


畳の表面は使い込まれ、ところどころに小さな擦れが見える。窓辺の木枠には、埃が薄く積もり、朝の光がそれを柔らかく浮かび上がらせる。


京奈は服を脱ぎ捨てる。ロングTシャツが畳に落ち、素肌が朝の空気に触れる。全裸の京奈は、鏡の前に立つ。


部屋の隅に置かれた小さな姿見鏡──昭和風の木枠で、表面が少し曇っている──に、自分の姿を映す。


Dカップの胸が重く揺れ、くびれた腰から張り出した臀部が、柔らかな曲線を描く。脚は長く、肌は初夏の汗でわずかに湿っている。


DJI Pocket 3を手に取り、ジンバルを起動する。レンズがくるりと回転し、水平を保つ。手のひらサイズのカメラが、冷たく正確に反応する。京奈は部屋の中央に座り込み、畳の感触をお尻で感じる。


早朝の光が、彼女の肌を優しく包む。まず、FPVモードで角度を調整。スマホの画面に、自分の顔が映る。無表情だが、目は集中している。


撮影を開始。最初は上半身から。カメラを胸の高さに持ち、ゆっくり回転させる。乳首のピンクの突起が、レンズに捉えられる。


湯気の無い部屋だが、後でFinal Cut Proで湯楽の里のシャワーシーンと合成する予定だ。胸の膨らみを強調し、乳首に指で軽く触れる──意図的に、乳輪の縁をレンズでなぞる。


次に、下半身へ。畳に膝立ちになり、カメラを上向きに。性器の輪郭が、はっきりと映る。柔らかな陰毛の影、唇の微かな皺。


彼女は腰を少し上げ、膝立ちから中腰の姿勢を取る。肛門の皺が広がり、細かく露わになる。テクスチャを捉えるため、カメラを上向きに近づけ、ゆっくりパンする。


さらに、クローズアップを匂わせるように、カメラを近づけ、唇の細部、肉の断面──湿った折り目や微かな光沢──を捉える角度を探る。


作品では湯気の合成でぼかされるが、今はありのままの詳細を記録する。


畳の緑が背景にぼやけ、光の粒子が肌に舞う。(これを、お風呂の湯気に混ぜ込む。泡の隙間から、昭和の畳が透けて見えるように…)


京奈の呼吸が、少し乱れる。自分の体を「パーツ」として切り取る感覚──乳首、性器、肛門の全てを曝け出す。


鏡越しに背中を撮り、腰のくびれをなぞる。臀部の谷間を広げ、皺の詳細を捉える。早朝の静けさが、映像に沈黙を加える。


BGMは後でピアノの単音を重ねるが、今は無音。部屋の空気が、重く彼女を包む。


撮影を終え、プレビューを確認。スマホの画面に、自分の全裸とパーツが並ぶ。ありのままの「ケーナ」の絵。


京奈はカメラをしまい、服を着る。胸に小さな達成感と、戻れない覚悟が混じる。借金の帳尻を合わせるための、この非日常。


ツバメ亭の一階へ降り、朝の準備を始める。日常が、再び動き出す。


外は湿った朝の空気。アーケードを抜け、数分の道を歩く。ライフ志村の従業員入口前、午前8時45分。制服のパンツスーツを丁寧に整えながら、鍵付きシャワールームに入る。


開店直前の、誰もいない時間。5分以内。吊り棚に畳んだ白い下着、タオル、スマートフォンを置く。


シャワーヘッドの角度を調整し、しずくが斜めに落ちるようにして立つ。細い蒸気が、鏡の輪郭を滲ませる。髪を濡らしながら、腰を捻る──くびれた肉が、斜めに撓る。


(これが、“値段のつく”身体…)


鏡越しに、背中を一瞥する。OnlyFansの動画で公開した自分の断片が、重なる。乳首の露わ、性器の影、肛門の皺。コメントの賑わいが、頭をよぎる。


シャワーを浴び終え、タオルで拭き、髪を乾かす。制服を着込み、ブラウスが胸に張り付き、パンツが臀部を強調する。いつもの姿で、レジカウンターへ。


午前9時、開店。レジ着台。ピッ、ピッとスキャンの音が響き始める。最初のトラブルは9時15分。「読み取れないんだけど」と中年男性。バーコードが折れている惣菜のパック。


ピピッ、無音、ピピッ。…沈黙。京奈が静かに引き取り、型番で手打ちする。「お待たせしました。」男性は無言で去るが、視線が絡みつく。


9時32分。「5円引きじゃないの?」特売タグの貼り忘れ。後ろで舌打ち。「待たせすぎじゃない?」その場を京奈が背中で受け止め、「申し訳ありません…」と深く会釈。システムで割引を適用し、処理を終える。


周囲の客の視線が、彼女の後ろ姿に集まる。パンツスーツのラインが、汗でわずかに張り付く。


9時45分、トラブル集中時間帯。レジ袋を「要らない」と言ったのに自動で課金され、「もういいです」と声を荒げて立ち去る高齢女性。


ジュース3本のうち1本がスキャン漏れ。店舗スタッフに詰め寄り「これは万引きに間違われない?」京奈が静かに割って入り、「こちらの不手際です」と返金と謝罪処理。中年女性は安堵し、去る。


10時25分、精肉の二重スキャン。若い女性客が涙目で「一度しかやってません」と主張。若手社員の田中が冷たく「記録にありますけど」と返答。京奈が呼ばれ、「この分、こちらで確認します」と和らげる。システムをチェックし、誤スキャンを修正。去り際、その女性が京奈にだけ「…ありがとうございます」とつぶやく。


田中は肩を落とし、京奈に視線を向ける──絡みつくものではなく、感謝のもの。


昼12時、棚出し業務・飲料コーナー。在庫品を抱え、京奈は脚立の三段目へ。背中がぐっと伸び、パンツの生地が腰骨の上で張る。淡い陰影が、臀部の丸みに沿って沈む。


挿絵(By みてみん)


その周囲に、明らかに目的の無い男性たちが増えていく。炭酸飲料、スポーツドリンク、ミネラルウォーターを手にしたまま戻さない、無言で立ち止まる、視線を合わせない。


群がる男性の数は、十人近くに膨れ上がる。京奈は在庫の箱を抱え、脚立の四段目に足をかけようとする。その瞬間、わずかに足元が滑り、体がよろける。


パンツスーツの布地が張り、臀部のラインが一瞬強調される。店内の空気が止まる──十人ほどの男性たちが、一斉に動きを凍りつかせ、息を潜めて彼女を見つめる。誰かが手を伸ばしかけるが、止まる。


京奈は静かに持ち直し、箱を棚に置く。彼女の動作が再び流れるようになると、全員がゆっくりと動き出し、視線を逸らし、商品を手にしたり、通り過ぎたりする。


まるで、何事もなかったように。だが、その一瞬の緊張が、京奈の背中に残る。OnlyFansのコメントが頭をよぎる──「That soft flesh just above the tailbone…」。


12時30分、セルフレジ・再びトラブル。若い社員の田中が代わりに応対するも、「こっちはちゃんとやってる!」と男性客が怒鳴り出す。


棚出しから呼び戻された京奈が現場に立つ。「恐れ入ります。こちらで確認させてください。」京奈が一礼しながら操作パネルに手を伸ばす。指先が、迷いなく流れる。声を荒げた男が、一瞬だけ口を閉じる。周囲の客も静まる。


トラブル内容:スキャン漏れ、重量誤差、残額不足、レジの誤読、スマホ決済未処理、割引期限切れ、領収書未出力、年齢確認キャンセル…。


京奈は一つずつ丁寧に処理。故意に商品をスキャンせずカゴに入れる男性に、「こちらの品、お読み取り済みでしたか?」と低く尋ねる。男が焦ったように「…あ、今からやるとこ」と言い訳。


京奈の沈黙と視線が刺さる。周囲の客の視線が、変わり始める──欲望から、彼女の能力への敬意へ。


13時15分、セルフレジ横で“見張る”業務。社員が他対応中に、京奈がサポートに立つ。


見かけ上の堂々たる不正に、京奈の視線が静かに介入。トラブルを次々と解決する姿に、店員たちの反応が変わる。


パートリーダーの山本さんが、サービスカウンターからずっと京奈の様子を眺めていた。


いつも京奈を「地味でおとなしい娘」と評していた彼女だが、客の怒りを静かに受け止め、迅速にトラブルを回避する京奈を見て、心境が変わる。


「あの子、静かだけど…トラブルを全部片付けてる。店を回してるのは、案外あの子かも。」


パートを仕切る山本さんの繰り返す呟きが、バックヤードで他のパートに伝わる。地味な印象が、ぼんやりと「有能な統率力者」へと移る。


午後5時、シフト終了。バックヤードに向かう京奈をスーパー全体が見守る。皆が心の中で「お疲れ様でした」と呟く。


数人が会釈で見送る。


佐々木が駆け寄り、「片山さん、お疲れさま。今日のレジ、すごかったよ」と声をかけるが、視線が泳ぎ、ドギマギした様子で言葉を続ける。


「あの…笑顔、もっと出せばいいのに…いや、でもそのままでいいかも…」京奈の自信に満ちた無表情に、佐々木は赤らんだ顔で去る。京奈は無表情だが、胸に温かさが広がる。


しかし、借金の重さ、OnlyFansの非日常が、日常のこの敬意に溶け込む。


タイムカードを打刻し、休憩室のシャワールームに入る。汗を流す水が、肌を叩く。朝の自撮りを思い出し、鏡に映る自分の身体をじっと見つめる。


湯気のなか、目を閉じて小さく呼吸する。「もう、ここには“値段”がついてる」水が肌を滑り、OnlyFansの動画を思い出す。


投稿の賑わい、借金の影。だが、今日のトラブル処理で得た小さな敬意が、心を支える。


アーケードを歩き、ツバメ亭へ。日常が、非日常を飲み込み、静かに変えていく。どこで何がずれ始めたのか、答えはまだ出ないが、京奈は歩みを進める。


深夜、閉店後のツバメ亭の二階に戻り、京奈はMacBookを開く。Final Cut Proを起動し、朝の自撮り素材を湯楽の里のシャワーシーンに混ぜ込む。湯気の向こうに、昭和の畳が透けて見えるようにクロスディゾルブ。


泡の隙間から、胸の膨らみ、乳首の突起、乳輪の回転、秘部のクローズアップ──湿った唇の折り目、肉の断面、微かな光沢──が幻のように現れる。肛門の皺のテクスチャを強調し、手の影でぼかす。


エンドクレジットは大文字の「K」一文字。


15分の動画を完成させ、タイトル《Midday, Under the Fluorescent Light》── Composition by K

価格$15.99。音声はほぼ無音、ピアノの単音が一定間隔で鳴る。「アップロード」→「公開」。


再生数:1 → 9 → 22 → 53。

コメント欄(抜粋)


匿名5“The way the water follows her spine… cruelly intimate.”(水が彼女の背骨をなぞる、その残酷なほどの親密さ)


匿名6(中華圏)“她并不羞耻,她在引导我们去看。”(彼女は恥じていない。私たちに“見させている”んだ)


匿名7“That fold between her cheeks… It’s like a painter’s signature.”(臀のあいだの皺。それはまるで画家のサイン)


匿名8

“Hidden tatami in the steam? That’s Keena’s genius – blending everyday secrets into the shower. Shocking reveal!”

(湯気の中に畳が隠れてる? ケーナの天才技──日常の秘密をシャワーに溶け込ませる。衝撃の暴露!)


匿名9

“The subtle genital close-up through bubbles… I paused and rewound. How did she sneak that in? Mind-blowing craft.”

(泡を通した性器の微妙なクローズアップ…止めて巻き戻したよ。あれをどう忍び込ませたんだ? 頭が吹き飛ぶ技巧。)



匿名10(中華圏)

“泡沫中的秘密皱纹和私处,太隐秘了!ケーナ在玩弄我们的视线。”

(泡の中の秘密の皺と私部、隠しすぎ! ケーナは私たちの視線を弄んでる。)


匿名11

“Anal wrinkles woven into the foam like a puzzle. Keena’s hidden parts are a total surprise – artistic and bold!”

(肛門の皺を泡に織り込むなんてパズルみたい。ケーナの隠しパーツは完全なサプライズ──芸術的で大胆!)


匿名12

“Did anyone catch the breast nipple flash in the mirror fog? Blended so seamlessly, it’s Keena’s secret trap. Stunned!”

(鏡の霧の中の乳首のフラッシュ、誰か気づいた? シームレスに溶け込んでる、ケーナの秘密の罠だ。驚愕!)


CameraTaro“ケーナ。君の作品はいつも、借金と静けさがセットだった。だけど、今回──“帳尻”の合わせ方が完璧すぎて、少し怖い。”


京奈は小さく息を吐く。誰だろう? …でも、思い当たる人間は、いる。信誠のカメラマンか、それとも過去の知り合いか。


コメントの賑わいが、借金の圧力を少し和らげるが、HIROKIのリプライはまだ無い。

京奈は、沈黙のなかで自分の価値を“演出”した。誰にも強制されず、誰にも媚びず、それでも確信犯的に仕込んでいく。肛門の皺すら編集のレイヤーに重ねる覚悟で。


セルフレジの混乱も、階段を登る背中も、棚出しの視線も──すべては「値段のつく身体」の演出装置だった。


見せるか、見られるか。その選択権を、彼女はようやく取り戻した。


そして、次は──誰が「値をつける」のか。


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