1.ずっと側で感じる温度
三十も半ばに差し掛かると、起こった事象全てに意味がある様に思えてくる。
例えば、ついこの間お気に入りのストラップを無くしてしまった時は、いい加減他のものに変えろって事かと気持ちを切り替え、最近ガチャで回したラバストに変更した。だから、今のこの現状もきっと何か意味があるのだと思う。
ましてやそれが、卒業してから一度も会っていなかった初恋の相手と、映画の席が一つ空いて隣だったとすればなおさら。そしてどうやら、相手も私だと気づいてそうな素振りをしている。
こっちをずっと見てきており、左隣から視線をビシビシと感じている。正直、そちらを見たいけど見ると絶対に目が合うだろうから、見るに見れない。そんな攻防を3分ほど行いやっと劇場のライトが暗くなり、予告が流れ始めた。さすがに視線がスクリーンに向けられたのを感じ、そっと横目でチラ見してみる。するとそこには、長い足を組んで予告を見る懐かしい横顔がそこにあった。スクリーンのライトで光る顔はあの頃より精悍さが増している気がするが、そんなに変わっていなかった。20年会っていなくても分かるものなんだなぁと感慨深く感じていると、彼の右手が唐突に動き、スクリーンを指さした。その行動を不思議に思い、首を動かして彼を見ると不意に彼がこちらを見た。
ついに目が合ってしまった。その瞬間、ドキリと脈打った心臓は、そのまま早い速度を保ってバクバクと動いている。ぞくりと背筋を走ったそれは、あの頃感じていたトキメキか緊張か。
「見すぎ。映画観なよ」
ギリギリ聞こえるくらいの声量でそう言って、ニヤリと笑った彼のその笑みはあの頃のそのままだった。言うだけ言って前を見た彼に、熱くなった頬と耳を持て余しながら従えば、来月公開の観たかったアクション映画の予告が始まる。主演の俳優のバイクアクションの映像に夢中になっていると、隣で人が動く気配がして、そちらを見れば、彼が隣の席に移動して来ていた。
「え、ちょっ!」
「しー。始まる」
急激に近づいた体温に声を上げると、静かに諭された。突然の行動に戸惑いながらも、戻る気配のない彼に、もうどうにでもなれと開き直り映画に集中する事にした。そう言えば、この人はこういう事をする人だったと思い出し、懐かしい記憶に感慨深い気持ちになる。そうこうしてい内に、映画が進み主人公の家が爆破された辺りから映画に引き込まれ、隣の彼も気にならなくなった。
エンドロールが流れ始め、席を立つ人達が動き出す。私たちは座ったまま、英語で綴られるキャストやスタッフの名前の羅列を見続けている。あと数分もすれば、スクリーンは暗くなり、劇場が明るく照らされる。それまでの間に、彼にかける言葉を導き出さないといけない。
初恋の相手にかける言葉を直ぐに思いつけないくらいには、恋愛経験の乏しい私はいつの間にか彼に触れていた肘を動かすことも出来ずにいた。
END