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案内された個室に入り、真ん中より少し窓際に寄せたテーブルの壁側に、私とママとパパが座る。
そして窓側に桐生家の方たち。
「今日は無礼講で」
と、パパが言うと
「よい話になりそうでよかったですね」
と、お義父様。
間もなく、料理が運ばれソムリエによりワインの蓋が開けられた。
最初にお義父様のグラスに注がれ、それをくるくる回して香りを嗅ぎ、一口含んで
「これはこれは…モンラッシェですか…」
と、少し訝しげな顔をした。
すると、横に立っていたソムリエに
「ラ・ターシュは有りますかな?」
と言った。
「はい。御座います。お持ちいたしますので暫くお時間をお許し下さい」
と、頭を下げて部屋を出て行った。
私は内心ドキドキだった。
パパはワインの流通も手掛けている。
中でも年に2000本しか生産されないロマネ・コンティの内、毎年約100本所有する者としてワイン通の中では知らない者は居ない。
それはロマネ・コンティに限らずだ。
そのパパが今日の為に選んだのがモンラッシェだったのに、それをいとも簡単に却下した。
プライドの高い…パパは?
ママが横にいてパパの様子が分からない。
「あははっ!そうこられますか。いや、参った。今日の料理には白かと思いましたが…」
と言うパパの言葉を聞きながら桐生のお義父様を見た。
ニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら
「今日の席には…」
と眉を上げた。
ワインに限らずお酒でも料理でも値段ではない。
好みと料理との相性。
そして気分。
お義父さまは今日の日を祝いの席とし、この話を受けたことを表したのだと思った。