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何度も言うけれど…
緊張は全くしていない。
こう言う会席の場もそれなりに場数を踏んできた。
だけど、こんなにも…
今日ほど自分の存在が無に等しいと感じたことはなかっただけ。
既に決まった縁談、出来上がった私の立場、何も異論を述べたりなどしないのにまだ形式的なものは続けるのかと、溜息にならない溜息が出てしまうことは許して頂きたい。
エレベーターで1階迄降りて、そして先程の中庭に向かう零。
そこには既にあの人の姿は無い。
が…
「ここで…待っています」
「何?」
「どうぞ行ってらして下さい」
「…」
何も言わない零。
視線を上げ零の目を見て
「私は構いませんから」
と、微笑んだ。
1呼吸分だろうか。
ほんの少しだけ間を開けて
「アイツなら帰った」
と言って、ポケットからタバコを取りだし火を点ける零。
「…」
その言葉に視線を庭に向ける。
零は庭への扉に近づき扉に手をかけてこちらを見た。
「来いよ。話がある」
「…はい」




