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13. やりたいことはやりたいうちに

 翠は直美を抱えながら、出口を探していた。どうやらここは古びた倉庫らしい。埃っぽいし、粉っぽいし、カビ臭いし。使われなくなってから久しいのだろう。また、潮の匂いがするため、海が近いようだ。それにしても、近くに人の気配は感じない。見張りなどはいない気がする。不用心なことだ。

「あの子に会ったの?」

「うん」

 いつのまにか起きていた直美が翠に話しかけた。あの子とは蒼真さんのことだろう。

「帰って来てるの?」

「うん、みたいだよ」

「ぶじ?」

「目立った怪我はなかったよ」

「よかった……」

 直美は深く深く息を吐いた。大きな荷を下ろしたようだった。

「無事ならいいわ……」

 恐らく、直美は麻薬によって正気になったり、失ったりを繰り返しているのだろう。今は正気のターンな気がすると翠は思った。ないしは、狭間にいるのだろう。まあ、何にせよ、あんな寂しい檻の中で戦争にとられた男を待ち焦がれていた女が正気かどうかはわからないが……。

「……会いたい?」

 翠は今まで誰にも聞けなかったことを直美に質問した。聞くか迷ったが、いつかは聞かなければならない気がしていた。

「わからない」

 フッと気の抜けたように直美は笑った。

「もう、わからなくなっちゃった!」

 そして、大口を開けて直美はアハハハハと笑った。身体を大きく動かした直美が落ちないように、翠は抱え直して、しかと抱きしめた。

 戦争に行った蒼真を直美は待っていたのだろう。生死を案じ、一刻も早く無事を確かめたかったに違いない。会いたかったに違いない。だが、その間に何かがあった。そして、直美は蒼真に顔を合わせたくない理由ができた。

 蒼真は貴族の偉ぶっているところを蛇蝎の如く嫌っているようだった。何をしても許される特権がある部分を憎んでいた。

 素人目だが、直美は麻薬中毒の気がある。

 蒼真のとこの商人は貴族と麻薬の取引をしている。で、その貴族は女好き。

 これらの情報を統合すると最悪な想定ができあがるなと翠は眉を顰めた。

「そういえば、ここ人いる?」

「しらない。時々来るみたいだけど」

 見張り番などはいないと考えてよさそうだと翠は安心した。

「何しに?」

「いろんなもの持ってくる」

「ふーん」

 誰かが直美の世話をさせている。誰かとは恐らくは蒼真だ。定期的に直美の様子を確認させて、状況把握をしているのだろう。翠は状況把握は自分の目でやった方がいい派である。個人的に大事なことならば尚更だ。蒼真も誰かにやらせるのではなく、自らの目で確かめればよいのにと直美の爪や手のひらの発疹を見て思った。

「ねえ、直美さん、ここ好き?」

「嫌い」

 直美は短い言葉でキッパリと断言した。心底お嫌いなようだ。当然である。自分を閉じ込め、自由を奪っていた檻があるのだから。

「じゃあ、ぶっ壊そうか」

 翠は大層な笑顔を浮かべて、えらく物騒なことを提案した。


 

 ここは海が近い倉庫。麻薬が管理されているところだ。森之助とあざみ、元晴は鮮やかな大捕物を開催していた。

「いい運動になった」

 あざみは刀を鞘に収め、肩をぐるぐる回した。

「上手い具合にいってよかった!」

 元晴は事が計画通りに運んで嬉しそうに笑った。

「成敗!って感じでしたね……」

 森之助は二人の暴れっぷりを思い出して、呆れていた。そのため、俺はやることないなと半ば傍観者となっていた。切った張ったの大立ち回りはとってもアグレッシブな見世物だった。また、先程、三後屋の主人などもきっちりお縄になったと報告が来た。貴族の方も大丈夫だろう。トラブルもハプニングもなくてよかったと森之助は胸を撫で下ろした。

 第七師団全体で足並みを揃えようとすると、着地点は上手くいくのだが、それ以外はてんでだめ。全く計画通りにいかず、森之助は毎回頭を抱えていた。まず、団長がよく言えば臨機応変、悪く言えば破茶滅茶な動きをする。副団長は団長に黙々と付き従う。参謀は面白そうだったら乗る、つまらなそうだったら放置、または別に面白そうなことがあれば違う行動をとる。このように上の三人が計画通りに事を進める気がないため、当然のようにわちゃわちゃになる。だが、なぜか解決ムードに入るとトントン拍子に事が進む。不思議なことだ。そして、終わりよければすべてよしだねと笑顔で終いになるのが、お決まりの流れだった。

「え?」

 森之助が第七師団に思いを馳せていると、見覚えのある狼煙が上がっていた。

「どうかしたか?」

 あざみは森之助の様子に何か問題が起こったのかと厳戒態勢をとった。

「あっちに多分うちの参謀がいます」

 森之助は狼煙の方角を指差した。あの色の狼煙は第七師団でよく使われているものだ。どうしてあそこに……と森之助が頭をぐるぐる回していると、狼煙の方角から、どっかーんと音がして、黒煙が上がった。

「爆発した……」

 森之助は頭を抱えた。状況は全くわからなかったが、翠が何かをやらかしたことだけは確信した。そして、ひとまず、仕方なしに、これ以上変なことをやらかしてほしくないため、森之助はここにいますよの狼煙を上げた。


 

「森さーん、わりと近くにいて助かったよ」

 しばらくすると、翠がおーいと手を振って現れた。一人ではない。誰かを抱えている。

「ちょっとこの人お願いしてもいい?」

「ヒッ……!」

 翠と一緒にいる女性は森之助と元晴に気づくと、ひどく怯え出した。二人というよりも男に怯えているようだ。その様子を見ると、サッとあざみ達女性陣がやって来て、彼女をどこかに運んで行った。適材適所であろう。

「もっさん、お疲れ」

「ああ……」

 元晴は翠に何から聞けばいいのか戸惑っている様子だ。

「で、何があったんですか?」

 森之助はジト目で見つめながら、とりあえず一番聞きたいことを翠に問うた。

「身バレして捕まって逃げてきた」

「……バレたんすか」

 何やってんだかと森之助は呆れた。

「蒼真さんにね」

「そのわりには全然警戒されてなかったですよ」

 森之助は不思議そうに首を傾げた。

「……蒼真さんに事情を聞いてみて。茶髪のキレーな顔したお兄さんだよ」

「わかりました」

 森之助は三後屋の方に蒼真とやらがいないか確認してと指示を出した。

「で?何で爆発させたんですか?」

 次に気になっていたことを森之助は翠に聞いた。

「ん?」

 翠は心当たりありませ~んととぼけた顔をしている。

「あなたの仕業でしょ?」

 腹立つな~という気持ちが森之助の声に表れていた。

「まあね」

 そんなに怒らないでほしい、爆発させただけじゃないかと翠には反省の色はなかった。

「粉塵爆発って知ってるか?」

「はい?」

 森之助は何言ってんだこの人と首を傾げた。

「粉塵爆発とはざっくり言うと、粉塵が空気中に浮遊した状態で火がついて爆発すること。倉庫に変な粉があったからね……」

「それで爆発を?」

「いや、できなかった。火をつけるのどーすんのってなってね……。諦めてその辺にあった火薬で爆発させた」

「はあ……」

 爆発も諦めてほしかったなと森之助は呆れた。

「いつかはやりたい粉塵爆発」

 翠は固く決心した。森之助は粉塵爆発はもっと諦めてほしいと願った。森之助にはどーゆーものか、説明を受けても理解しかねるが、翠が興味を持つということは厄介極まりないのだろう。

「それで、叩きのめせた?」

「ええ、それはもう上々に」

「そりゃ、何より」

 翠は清々しい笑みを浮かべた。



 


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