小話4. 悪夢のラインナップ
皆さんは超絶怒涛に体調を崩している時に見る夢はあるだろうか。ある?その時は決まって悪夢ではなかろうか。そう?皆さんと同様に翠にも具合の悪い時に見る鉄板の悪夢があった。では、悪夢順にランキング形式で紹介しよう。
第三位、デケデケデン。人を殺し続ける夢。気がつくと、土埃舞う戦場でひたすら走っている。そして、眼前の敵を殺し続ける。後ろにいる味方が少しでも死なないように、人を殺さないように、翠は血に塗れて走り続ける。人を殺して、あたたかいものを斬って、頬に生温いものがかかり、汚れの目立たない黒い服が血で重くなる。それでも、進み続ける。そのうちに、段々、刀が重く感じる。徐々に、足がだるくなる。それでも、走り続けなければならない。一歩が重くても歩みを止めてはならない。前かもわからない方向に進み続けなければならない。死に捕まらないように、生きるために、走り続けなければならない。そして、ふと、振り向くと生きているものは何もない。死体が無造作に転がる荒野が広がっている。そんなとりとめのない夢。魘されることはないが、決まって嫌な汗で身体がびっしょりになる。
第二位、デケデケデン。首を吊った人を眺めている夢。ふと気がつくと、部屋の柱に縄を引っ掛け、首を吊っている人間が視界に入る。首を吊っている人間はその時々。虚ろな緑の瞳や赤い瞳が覗いている時もある。見覚えのある顔の時もあれば、誰かもわからない人間の時、また、黒く塗り潰されている時もあった。首を吊っている人間のバリエーションは豊かだったが、翠は何もすることはできなかった。首に縄がかかった人間がゆらゆら揺れている姿をただ見つめているだけ。首を吊っている人間を助けることも、救うことも、手を伸ばすことも叶わない。ぶらりぶらりと揺れている様を見つめさせられ続ける夢。これもまた魘されることはないが、汗びっしょりの不愉快な目覚めを迎える。
第一位、デケデケデン。昔はそこそこ見ていたが、最近はあまり見なくなった、翠を産んだ人の夢。翠を産んだ、すなわち母親という方がわかりやすい。便宜上、翠も母と呼んでいる。たしかに、子を産んだ女であるため、母という自覚や子への愛情がなくとも、広く意味をとれば彼女は翠の母にはあたるだろう。だが、翠はあるきっかけから真の母親ではない、ただ子を産んでしまっただけの女だと割り切ってしまった。その時の夢である。父が戦争で死んで、まだ幼い翠としては随分経ったと感じても、まだ母が父が帰ってくると信じて、待ち焦がれていたある日。くじらの飲み屋で働いていた母は店で行われていたイベントが長引いたようで、いつもよりも遅くなって帰って来た。母はかなり酔っているらしく、何かを口ずさんでいるのが、翠が寝ている部屋まで聞こえた。相変わらず、調子ハズレの歌である。翠は母の物音で意識がやや浮上して、夢見心地でいると、部屋に誰かが入ってくる気配を感じた。言わずもがな母だろう。そして、母は翠の入っている布団に乗り上げた。翠は何事かと重たい瞼をこじ開けると、一糸纏わずの母が父の名を呼んでいた。そこで翠は毎回ギョッとしたように跳ね起きる。




